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企画参加短編集

たとえば猫のように

作者: 高砂イサミ

 

 わたしは町を歩いて回る。

 何年か前に飛び出した場所だ。それより前だってこんな風にゆっくりと眺めたことはなかったかもしれない。だけどこうして帰ってきてみたら、不思議なくらい、心が落ち着いてきた。

 小さい頃によく遊んだ公園。ブランコってこんなに低かったっけ。すべりだいは塗装がはげて、ちょっとかわいそうな感じになってる。中央の藤棚。よく登っては親に怒られたものだ。

 その向かいは小学校。6年間きっちり通ってたけど、最近建て直したらしくて、白い壁がよそよそしい。今は門の鍵が閉まってるから中までは見られない。残念。

 通学路。小学校も中学校も途中まではいっしょ。途中のT字路で逆に曲がって。

 高校にも行っておきたいけど、少し遠いから明日にしよう。

 中学校に到着した。桜の樹、背が高くなってる。クラスメイトが枝を折って怒られた。どの樹がそうだったかまでは覚えてないや。


 さあ、そろそろ帰ろうか。


 家路の途中に見える何軒かは、記憶にある建物と違った。角にあったお店はきっと閉めたんだろう。だいぶお年のご夫婦がやってたし。あっちの家は建て替えたのかな?

 ――あ。猫。

 目で追いながら立ち止まった。

 ふと思い出す。「犬は人につき、猫は場所につく」。猫は犬と違って、ストレスになるから遠い場所に連れて行っちゃいけないんだって。誰が言ってたんだっけな。

 つまりわたしは、どちらかといえば猫属性だったのか。知らなかった。にゃお。

 そんなバカなことを考えた時、ポケットの中で携帯が鳴った。

 着信メロディーは三年前に流行った曲。弟からだ。


『もしもし、姉ちゃん!?』


 通話口の向こうからは、せっぱ詰まった声が響いた。

「なに?」

『何、じゃないよ! 今どこにいるんだよ!』

「……今から家に帰るところだけど」

 通話口の向こうで絶句する気配。だろうね。

『なんで……なんで』

「ごめんね」

『こっちに来る船、もうないんだよ』

「そうだね」

『これからどうなるか、わからないんだよ』

「うん。でもそっちに行っても、それは同じだよね?」

『……!』

 本当にごめん。だけど。


「やっぱりこの場所が好きなの。ここにいたいの。……お父さんとお母さんによろしく言っておいて」


 返事を待たずに携帯を切る。ついでに電源も切ってしまう。

 ふと顔を上げると、知った顔に行き会った。おとなりのおばさんだ。たぶん。

 おばさんはこちらを見てにっこり笑った。

 「あなたもなのね」と、言われた気がした。


 空を見上げる。みんなが避難してるはずのコロニーは……今は見えない。

 太陽の光が目にしみて、ちょっとだけ、涙がにじんだ。


 とにかく帰ろう。わたしの家に。もう、誰もいないけど。






  地球に隕石が落ちるらしい。その予想時刻まで、あと3日。


                                 END



ぐうたらパーカーさん主催の短編企画「陽だまりノベルス」参加作品です。お題:「やっぱりこの場所が好き」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い。 私のお気に入りの小説家はレイ・ブラッドベリなんですが、ちょっと同じ匂いを感じました。 またこう言う作品も書いてみたくなりました。 有難うございます。
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