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青空と送信と

 彼への送りもしないメールを作りはじめたのは、彼と離れてから一ヶ月たったころ、ただの気紛れからだった。




 すぐにやめると思われた彼への送らないメール作成。

それは爪を噛むような卑しい癖のように、止めにやめられず徐々に頻度は増していった。

何度も何度も同じように彼宛の文章を作っては消して、作っては消して。

いつの間にかそれを作るペースは一週間から三日に一度。嫌な事があって心が荒んでむしゃくしゃした日や、仕事が忙しくて疲労困憊な日は凄まじく長く、読み返すこともしない粗末な文章を作っては、自己嫌悪から早速消去することも度々あった。

まさにメール作成はなくてはならない、いつもの欠かせない日課と化していた。




 けれど、どんなに送信ボックスが彼宛でたくさんになっても、どんなに上手な文章を作っても、度胸がないのか機会がないのかわからないが、二人が離れてから一度も彼へメールは送っていない





 ただ、今この瞬間私は揺らいでいた。

と、言うよりは彼のメールアドレスを真意を初めて目にして、昔みたいに連絡をとりあいたい我が儘な気持ちが一気に強くなったように思えた。



 思い返せば、あまりにも唐突だった彼の転校に、(ねぎら)いの言葉も、別れの言葉もかけれなかった。それが今さら“久しぶり”などという安いメールを送ったところで、彼はわざわざ返信をしてくれるだろうか。




 普通なら無理かもしれない。

けど、何となくだが私はメールがかえってくる。そんな浅はかな予感が不思議としていた。

勝手な解釈だが、連絡をとらなかった三年の長い月日はあの時の二人の不安な関係を希薄にしたように思え、古傷は時が許したような気がしていた。




 雨は止み、外はいつの間にか突き抜けるような青空になっていた。

私は送信ボックスに溜まった、たくさんの彼へのメールには目もくれず。また新しい文章を手慣れた手つきで綴った。




 あまりにも感情的だったから、どんな文章を作ったかうっすらしか覚えていない。

ただ、それは私が込めた精一杯の気持ちだったのは確かだ。




 メール送信後、携帯を閉まってから今日初めての着信音が直ぐ様に鳴った。

少し長い文章に、こんな早く返信がくるなんて。すかさず不安が込み上げる。

恐る恐る携帯を開くと、案の定メールが一件入っていた。




 メールを開いてもいないのに、急に涙腺が火傷しそうに熱くなり、圧力がかかったように息をするのが困難になった。

理解していた。

気づかないふりをしていた。




 彼がメールアドレスをとっくに変えていたことに。



だが、もしかすると彼へのメールは無事に送信され、このタイミングで偶然送られてきたのは友達のメールかもしれない。

浅はかな可能性ばかりが脳裏を過る。

メールを開くだけなのに携帯を持つ手が震えておぼつかなく、瞳は涙で液晶画面をほとんど見ることができない。



 私は感覚のみで、受信したメールをそのまま消去すると携帯をゆっくり閉じ、入社はじめてのずる休みをした。


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