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携帯と彼と

当時、携帯電話を持つ高校生は珍しがられた頃をすこし抜け出し、学生のだいたい八割は持っていた。

だから、携帯デビューがすこし遅れた私は、嬉しさのあまり先生の目を盗んでは携帯をしょっちゅう(いじ)ってた記憶が強く印象に残っている。



 ちょうどその頃、浮かれた私は誰彼構わずアドレスを聞いては登録して、学内の先輩や後輩や、もうそれはそれは沢山の人達に考え無しに聞いて回った。

そして、メールの練習がてらに沢山の人とメールのやりとりをしていた。

いつの間にか、ほぼ毎日メールを交わす親しい仲に彼の姿もあった。



 テストの点数お互いどうだったとか、

お笑い芸人は誰が好きかとか、

最近、近くに有名なケーキ屋さんが開店したから行ってみたいねとか、

こないだのドラマは落ちがスッゴクよかったとか、

ありきたりだけどメールを共有するその時間だけが、私にとってかけがえのない幸せなものに知らず知らずのうちになっていった。





 私はいつからだろう、一年間の他愛もないメールを続け、今さらながらにようやく自分の素直な気持ち、

“彼に好意をよせていること”

に素直に気づいていた。




 だけど、このメールを交わす毎日の些細で平和な幸せが、揺らぐのが私は恐ろしかった。

もし彼に告白をして、それを断られる。

そうなれば今まで続いたメールも無くなるだろう。きっと学校での会話もなくなる。

お互いの良い関係は今後一切断絶することになるだろう。

もちろんそんな嫌なこと考えたくもないし、想像しただけでぞっとする。



 けれど、このままではいつまでたってもお互いメル友で、ただの友達なまま。

私はもっともっと、彼の近くいれるほうがいい。それが今の私の最上の幸せなのだと、一年の時をかけて今さらながらようやく気づいていた。




 そんなことを考え思いにフケていると、彼の返信に私は固まり、思わず固唾を飲んだ。



〔××さんはインターハイ近いんだろうし部活忙しいって言ってたね。けど、部活忙しいわりに××さんは彼氏いるんだって、意外だけど。そういやユキは好きな人いないの? 〕




 一つ深い呼吸をして、再度彼の文章を読み返した。

これはアプローチなのか。

ただの問いなのか。

私は素直な感情で


“またとないチャンスだ、これを逃したらいつになるかわからない、彼に告白をしよう”


 高二の夏、風鈴の音が印象深い夜風に吹かれながら、私は大きな決心をした。彼だけに設定した着メロは二度と忘れない。




〔まあ、彼氏はいないよ。幸人は好きな子いるの? なんかいなさそうだよね。まっ、その時は甲斐性無しのあんたを私が拾ってやらなくもないけど(笑)。〕





 それ以後、彼からの返信は二度とかえってくることはなかった。




 次の日の登校日。

私はうなだれながら登校した。もちろん、彼と会いたくなかった。

会ったらきっと気まずく、あれは眠ったから返信が途絶えるような時間じゃなかった。

むしろ、いつもメールを途絶えさせるのは私のほう、いつの間にか眠りこけて、向かえた目覚めの朝に彼からきた最後の返信を見るのがいつも私のほうだったから。




 さっきから口説いぐらい自分に言い聞かす、

“きっと急に忙しくなってメールを読んでないんだ。それでなければきっと、メールを読まないまま間違えて消してしまったんだ”

そればかりリピートさせる。

実際問題有り得ない。

お互いの返信時間は一通一通が五分もかかってなかった。

それがいきなりプッツリ。

あのタイミングで。

私はもう一度メールを送ろうか、下唇を噛みながら深く悩んだ。けれど、度胸がなかった。

きっと一生後悔すると薄々感じながらも、その時の私には度胸がなかったのだ。



 仏頂面の担任教師がチャイムにあわせたように教室の扉を開き、定例どおり朝礼をはじめる。

と、教師はどうでもいいことでも思い出したように口を開いた。




「ええ、朝礼の前に一つ。みんなに唐突ですが、悲しいお知らせがあります。今日をもちまして、スズタ マサル君は転校することになりました。つきましては、飛行機は急ではありますが今日にも飛び立つそうです。なので、用事がある生徒は急いで彼と連絡をとりあってください」

私はガタッと思わず立っていた。クラス中の皆がどうしたかと私の方を向いて、自分が動揺していることに自分自身が驚いていた。

メールの内容には引っ越しなど無かった。

そのまま座り、先生はまた淡々とその続きとホームルームを始めた。



 それから季節は三度巡り、

いつの間にか私は、スーツを着こなす立派な大人になっていた。


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