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雷神の拳 - 逆襲のカーストブレイカー  作者: 川合 佑樹


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第六話

 夕暮れの屋上。

 美咲が屋上の中央に立ち、鋭い視線で健太を捉える。

 彼女の口元に、いつものニヤリとした笑みが浮かんだ。

「一か月後、圭と再試合な。果たし状送っといたから」

 彼は目を丸くする。

「え、一か月!? でも……俺、ボコボコにされたのに……!」

 彼女の瞳が鋭く光る。

「だからこそだ。負けたお前が狙われるのは確実だ! だが、果たし状を受け取ったお前には送り返す権利がある!」

「……はぁ」

「あいつらはプライドの塊だ。次の対決まで他の奴らは手を出せない! つまり、鍛え放題ってわけだ! やったな!」

 優斗がスマホを手に駆けつける。

「前の試合の動画を研究したぞ! ワンツーフックを狙われ、くぐられた瞬間にテイクダウンされてた!」

 彼女が頷く。

「素人が短期間でリズムを変えるのは難しいが、戦い方はある。スタミナと下半身を徹底的に鍛えろ」

 健太は拳を握る。

「やるしか……ない!」


 スパーが始まる。 

「短期間で素人が格闘家に勝とうっていうんだ。生半可な覚悟でやるんじゃねーぞ」

 彼女のパンチが彼の顎にガツンと当たる。

 衝撃が脳を揺らし、視界が一瞬揺れる。

「ぐっ!」と声を漏らすが、彼女の膝蹴りが容赦なく腹に突き刺さる。

 息が詰まり、膝がガクンと落ちそうになる。

「意地でも踏ん張れ。腰が抜けたら即タックルが来るぞ!」

 彼女のタックルが襲い、彼はグラウンドに叩きつけられる。

 地面の冷たさと砂粒が背中に食い込んだ。

「うっ……!」と呻きながら、彼は彼女の腕を必死に押さえ、ブリッジで這うように抵抗する。

 汗が目に入り、視界が滲んだ。

「全体を見て、肩や目、足の動きから予測しろ!」

 彼女が叫ぶ。

「単発のパンチじゃ読まれる! 上下にちらせ! 姿勢が低くなったら逃げろ!」

 彼は息を整え、這うように立ち上がる。

 彼女の肩の微かな動きを捉え、突きが来る瞬間を予測。

 右手をスッと上げ、ぎこちなくジャブで牽制する。

 彼女の眉がピクリと動いた。

「いいじゃん」

 タックルが再び飛んでくるが、健太は「左肩が一瞬下がった!」と反応。

 屋上の端まで全力で逃げ、体を沈めてスプロールで防ぐ。

 彼女の腕が空を切り、ニヤリと笑う。

「いいぞ! 圭のタックルもそれで凌げ! 逃げて削るんだ!」


 そして過酷な鍛錬が始まった。

 初日は20kgの重りを入れたリュックサックを背負い、スクワット100回で膝がガクガク震え、太ももの焼けるような痛みに耐えた。

 美咲は「まだ土台が足りねぇ。神経系を徹底的に鍛えろ。雑に振るな、一発一発仕留めるつもりで丁寧に打て」と言い、毎日1,000回のジャブを課した。

 スプロールの練習では、彼女に何度も叩きつけられ、擦り傷を作りながら這い上がる。

「逃げる持久力」をつけるため、校庭を10周、20周と走り抜き、肺が締め付けられるような息苦しさでも足を止めない。

 汗が地面に落ち、黒い染みを広げた。

 彼女の突きが健太の頬をバチンと叩き、「相手のスピードを想定しろ! 頭を振ってでも追いかけろ!」と叱咤する。

 彼は歯を食いしばり、涙と汗で霞む視界の中、ジャブを繰り出す。

 彼女が笑う。

「その調子だ! 一回でも多く牽制しろ!」

 スパーの合間、健太は屋上の柵にもたれ、ゼェゼェと息を整える。

 美咲が水筒を放り投げて、「飲め。毎日倒れるまで鍛えるぞ」と言う。

 彼は水を喉に流し込み、ゴクゴクと飲み干す。

 圭の眼鏡の奥の冷たい目が脳裏に浮かんだ。

 健太は拳を握り、地面に押しつけた。

「絶対に……倒す!」

 美咲が彼の肩をガシッと叩く。

「はい。休憩終わり」

 彼女が一歩下がり、スタンスを取る。

「今からやる技を一か月でモノにしろ。コンビネーション打ってこい」

 健太がジャブ、ストレート、フックを繰り出す。

 彼女はスッと身を沈めてダッキング。

「圭はこうやってくぐる。で、ここで……!」

「ブオッ!」

 拳圧が肌を震わせ、健太は息を呑む。

「な、なんですか、これ……!?」

 彼女がニヤリと笑う。

「お前の目でも追えなかったろ? 何も考えずにこれを出せるまで、死ぬほど練習しろ。タイミングを体に刻め。そして、最後にぶち込んでやれ」

 秘密の技の特訓が始まった。

「腰の捻りと遠心力が命。軸足を踏ん張れなきゃ、威力は半減する」と美咲が言う。

 彼はぎこちなくパンチを繰り出すが、バランスを崩し、膝をつく。

「タイミングが……つかみにくい……!」

 汗が額を流れ、地面にポタポタ落ちた。

 彼女が腕を組み、見据える。

「だから練習するんだ。圭のダッキングは鋭いが、首を振った後、必ず一瞬体が開く。そこを狙うんだ」

 健太はよろけながら立ち上がり、拳を振った。

 体がふらつき、肩で息をする。

「何回……失敗しても……絶対モノにする……!」

 彼女が小さく頷き、「その意地だ。失敗を恐れるな。体に刻むまで繰り返せ」と言う。

 3週間後、健太は初めて攻撃を直感で避け、彼女の眉がピクリと動く。

「やっと感覚が掴めてきたな」と彼女が呟くが、彼は夜に鏡を見ながら「まだ足りない」と拳を握り、恐怖と闘う自分を叱咤した。


 果し合い前日。

 屋上の風が冷たくなり、健太の汗が乾いて肌に張り付く。

 美咲は健太の前に立つ。

「試合は消耗戦だ。スタミナで圭を上回り、脛を削り、リズムを壊せ」

 彼は拳を握り、力強く頷く。

「はい……!」

 優斗がスマホを弄りながら言う。

「対決は校舎裏の空き地だろ? 罠がないか、ちょっと見てくるわ」

 健太は息を整えながら笑う。

「お前、ほんとマメだな」

 健太は屋上のコンクリートに拳を軽く押し当て、夕暮れの空を見上げる。

 オレンジの光が瞳に映り、圭の冷たい目を打ち砕く決意が宿る。


 果し合い当日。

 校舎裏の空き地に健太が足を踏み入れる。

 優斗が息を切らしながら駆け寄ってくる。

「今日も動画撮っとくからな! バッチリ決める瞬間、残すぜ!」

 優斗の手が土で汚れているのに気づき、健太は目を丸くする。

「手……どうしたの?」

 彼は照れくさそうに笑い、土だらけの手をズボンで拭う。

「いや、実はさ……いてもたってもいられなくて、昨日の夜からこの空き地の石とか砂利とか、できるだけ掃除しておいたんだ。足元滑ったらマズいだろ? だからよ、心置きなく戦ってくれよ!」

 健太の胸が熱くなった。

 汗と土にまみれた彼の手が、友情の深さを物語っていた。

「……本当にありがとう」と声を震わせ、拳を握りしめる。

 地面は確かに石が減り、足元が安定している。

 観衆の中位カーストのグループがざわめく。

 圭が現れる。

 眼鏡の奥の目が冷たく光り、口元に薄い笑みを浮かべた。

「今回はご招待ありがとう。今日もママが出てくるのかな? あの後おっぱいでも吸わせてもらったのかい?」

 観衆の中位グループがクスクスと笑い、健太の頬が一瞬引きつる。

 健太は目を鋭くし、地面を踏みしめる。

 彼の言葉が胸に突き刺さるが、拳を握り直す。

 静かに、だが力強く答える。

「今日は違う。……俺の力でお前を倒す!」


 対決が始まる。

 健太は圭の肩と目の動きを鋭く捉えた。

 左肩が僅かに震えた瞬間、すかさず右拳を突き出す。

 シュッと風を切る音と共に、圭の顎が小さく揺れる。

「当たった!」 

 健太の心が高揚するが、追撃せずすぐに姿勢を正し、距離を保つ。

 美咲の声が脳裏に響く。

「一回でも多く牽制しろ!」

 圭が踏み込んでくると、彼はジャブで牽制し、素早く後退した。

 石一つない地面が足を滑らせず、スムーズに動ける。

 観衆のヤジが飛び交う中、陽が声を張り上げた。

「逃げやがって! ビビってんのかよ!」

 健太はヤジを無視し、ジャブとローキックを重ねる。

 ゴツッと圭の脛に命中し、赤い腫れがじわじわ広がる。

「効いてる……!」

 さらにジャブを放ち、パシッと軽快な音を響かせ、打撃を重ねていく。

 息が上がり、汗が目尻を流れ、視界が揺れる。

 シャツがびしょ濡れで肌にまとわりつき、頬の痣が脈打つように疼く。

 それでも健太は姿勢を崩さず、ジャブをコツコツ当て続ける。

 圭が踏み込むたび、走って空き地の端まで逃げ、距離をリセット。

 だが、圭が突然リズムを変え、フェイントの突きからタックルを繰り出す。

 健太はスプロールで防ごうとするが、彼の肩が腰に食い込み、グラウンドに叩きつけられる。

「くそっ!」

 健太はブリッジで這うように抵抗。

 汗で滑る腕を必死に押さえ、なんとか立ち上がる。

 圭が反撃のジャブを繰り出し、健太の頬にピシッと命中。

 痣がジリジリと熱を持つ。

 健太は一瞬視界が揺れるが、歯を食いしばり、すぐにジャブで応戦。  

 試合はさらに長引き、両者の息が荒くなる。

 健太の肺が焼けるように熱く、太ももが鉛のように重い。

 圭も脛の痛みで顔を歪め、鈍重になる。

 試合が長引き、観衆の声に焦燥が混じった。

 中位グループが苛立ち、「いい加減殴り合えよ! 逃げてんじゃねえ!」と叫ぶ。

 一方、上位カーストの生徒が笑いながら、「素人があそこまで粘れるとはな」と呟く。

 健太は心の中で思う。

「見栄なんて張らない。コツコツやるだけだ!」

 圭が苛立ちを爆発させ、「舐めるな!」と叫びながら大きく踏み込む。

 眼鏡の奥の目がギラリと光り、拳が空気を切り裂く勢いで迫る。

 健太が左肩の僅かな動作を捉え、あえてワンツーフックを繰り出す。

 ジャブがパシッとかすり、彼の顎を軽く揺らす。

 ストレートは鋭く伸びるが、彼が首を振ってスッと躱す。

 そしてフック――左腕を振り抜く瞬間、彼が身を低く沈め、フックをくぐるようにダッキングした。

「今だ!」

 健太は心の中で叫び、秘密の技が脳裏に閃く。

 フックの反動を利用し、右足をガッと踏み込んで軸にした。

 腰を一気に捻り、背中を相手に向ける。

 肘を顎の高さに固定し、回転の遠心力に乗せて裏拳を放つスピンバックフィストが炸裂した。

「バキッ!」

 裏拳が顎にクリーンヒットし、衝撃が脳を揺らした。

 圭の眼鏡が跳ね、膝がガクンと崩れ、砂利にドサリと倒れる。

 砂塵が小さく舞う。

 美咲が空き地脇から叫ぶ。

「マウント取れ! 仕留めろ!」

 健太は飛び乗り、フルマウントを取った。

 拳を振り上げ、パウンドを放とうとした瞬間、動きが止まった。

 健太が美咲の方に振り返り、ポツリと言う。

「あのー……美咲さん。彼、気絶してます」

 一瞬、空き地が静まり返る。

 直後、中位カーストのグループの一人が目を丸くし、「マジかよ……!?」と叫ぶ。

 上位カーストの生徒が、ニヤニヤしながら呟く。

「あれは当たっちゃうねぇ」

 観衆の歓声と困惑が交錯する。

 後ろの方で誰かが呟く。

「佐藤、案外やるじゃん」

 別の声が小さく響く。

「でも、蓮が黙ってねえぞ、これ……」

 美咲が即座に駆け寄り、圭の状態を確認。

 レフェリー役として試合を止め、頭部ダメージをケア。

 圭が意識を取り戻し、ゆっくりと身を起こした。

 眼鏡のレンズにヒビが入り、歪んだ視界の中で健太を見つめる。

「……そうか、……やられたのか」

 声は低く震え、プライドの欠片を押し殺すように呟く。

 仲間の一人が手を差し伸べるが、彼はそれを振り払い、自力で立ち上がる。

「次は……蓮さんが来る。覚悟しとけよ」

 観衆の視線を背に受けながら、静かに去っていく。

 どよめきが校舎裏の空き地に響き、夕暮れの紫が夜の闇に溶けていく。

 健太は熱と砂利にまみれたまま、呆然と立ち尽くす。

 圭の背中が観衆の間を消えていった。

 頬の痣がズキズキ疼く。

 だが今、胸の奥で熱いものが込み上げる。

「やった……やっと……倒せた……勝った!」

 カーストの壁が、一瞬、ガラガラと崩れるような気がした。

 観衆の歓声が校舎裏に響き、優斗の興奮した笑顔が視界の端で揺れる。

「底辺でも……やれるんだ……!」


 その夜、公園の街灯下。

 健太はベンチに座り、汗で濡れたタオルを首にかけ、ゼェゼェと息を整える。

 街灯の淡い光が、地面に黒い影を落とす。

 美咲が隣にドカッと腰を下ろし、水筒を放り投げる。

「ほら、飲め。倒れるまで戦ったんだ、しっかり水分取れ」

 彼は水筒を受け取り、ゴクゴクと水を飲み干す。

 喉を流れる冷たさが、熱を持った身体を落ち着かせる。

 彼女が腕を組み、夜空を見上げながらポツリと言う。

「初めてのKOだな。あの裏拳、完璧だったぞ」

 その言葉が、彼の胸にズシンと響く。

 圭の冷たい目、試合の緊張、砂利の感触、美咲の叫び声――全てが一気に蘇り、目頭が熱くなる。

 彼はタオルで顔を覆い、声を震わせる。

「俺……やっと……! ボコボコにされたのに……やっと、ちゃんと勝てた……!」

 涙がタオルに染み、肩が小さく震える。

 胸の奥で、ずっと押さえつけられていた何かが弾けるように解き放たれる。

 彼女は黙って健太の背中をポンと叩く。

 その声はいつもより柔らかく、しかし力強い。

「お前、いつも泣いてばっかりだな。底辺の意地を証明したんだ。胸張れ。……でもな、油断すんなよ。蓮はこんなもんじゃ済まねえぞ」

 健太はタオルを下ろし、涙で滲む目で美咲を見る。

「え……?」

 彼女がニヤリと笑い、街灯の光が彼女の目を鋭く光らせる。

「次は蓮だろ。参謀がやられたとなれば、流石に本気で来る。今日みたいにコツコツ削るだけじゃ、もっとひどい目にあうだろうな。ちゃんと対策しないとな」

 彼の目が丸くなり、心臓が再びドクンと鳴る。

「蓮……」

 その時、公園の入り口から優斗が息を切らして走ってくる。

 スマホを手に、興奮した声で叫ぶ。

「やったな、今日の試合めっちゃバズってるぞ! ……でさ、次はきっと蓮が来ると思うんだ! どんな技使ってくるか、徹底的に分析しておいてやるよ!」

 健太は彼の土だらけだった手を思い出し、胸が熱くなる。

「優斗……いつもありがとう……!」

 美咲が立ち上がり、拳を軽く合わせる。

「明日からまた死ぬ気で鍛える。準備しとけよ」

 彼は涙を拭い、力強く頷く。

「はい……! 蓮だって、絶対倒します!」

 夜の公園に、街灯の光が三人の影を長く伸ばす。

 星空の下で次の戦いへの決意が静かに燃え上がる。


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