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雷神の拳 - 逆襲のカーストブレイカー  作者: 川合 佑樹


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第五話

 放課後の教室は夕陽に染まっている。

 窓から差し込むオレンジ色の光が黒板を照らし、机の木目が柔らかく浮かび上がる。

 健太は、葵と陽との戦いの後、教室に漂うひそひそとした嘲りの気配を感じていた。

 机の上に、白い手紙が置かれている。

「佐藤健太、放課後、校舎裏の空き地にて待つ。黒崎圭」

 丁寧な字で書かれた果たし状だった。

 彼の手に汗が滲む。

 クラスメイトの囁き声が耳に届く。

「圭が動いた……蓮の参謀だぞ」

「あいつ、終わったな」と。

 冷酷な視線が、刺すように熱く感じられた。

 健太は封筒を手に、唇を噛む。

「マジか、果たし状!?」

 優斗が慌てて駆け寄り、声を張り上げる。

「これ……流石に断れないよな?」

 彼の声は心配で震え、健太を見つめる目に焦りがにじんだ。

 健太は封筒を握りしめ、静かに首を振る。

「逃げたら、今までの努力が無駄になる。美咲さんの教えを試したいんだ」

 真面目な眼差しに、決意が宿る。


 放課後。

 健太と優斗は屋上へ向かう。

 その足取りは重く、まるで死刑宣告を受けたかのようだ。

 そしていつものように眠る美咲に手紙のことを話す。

 彼女がニヤリと笑う。

「果たし状? ラッキーじゃん」

「えっ?」

 予想外の返答に驚く二人。

 彼女が続けて言う。

「囲まれてボコられることはない。プライド高い奴ほど、そこまでダーティにはなれないからな。今回はどうせ見せしめだ。ボコられて勉強してこいよ」

 軽快な口調に、健太は苦笑いを浮かべる。

「勉強って……負ける前提ですか?」

 美咲は豪快に哄笑する。

「はっはっはっ! 素人がちょっと勉強したくらいで格闘家に勝てるわけねーだろ!」

 その言葉に、彼の胸に静かな火が灯る。

「そう……ですよね。はい……やれるだけやってきます」

 封筒を鞄にしまい、健太は屋上を後にする。

 優斗が「動画撮るからな! 何かあったら大声で助けを呼ぶから!」と背中に叫ぶ。


 校舎裏の空き地。

 夕暮れの光が雑草をオレンジに染める。

 砂利が靴底でザリッと鳴り、健太は汗で湿ったTシャツの首元を引っ張る。

 空き地には戦えと言わんばかりのスペースと、周りを囲む観衆がいた。

 カースト中位のグループが、嘲るような笑みを浮かべていた。

 その中に葵と陽の姿もあった。

 心臓の鼓動が耳に響く。

「……勝てなくてもいい。でも、試せることもあるはずだ」

 自分を鼓舞し、腰を落として構える。

 目は鋭く前を見つめる。

 静かな足音が近づく。

 圭が姿を現す。

 スラリとした体躯、鋭い視線、無駄のない姿勢。

「よく来たな。分かってると思うが、見せしめだ。タイマンは約束する。まぁ、腕の一本くらい置いていけ」

 事務的だが、どこか苛立ちを滲ませる口調。

 その視線が一瞬鋭く光る。

 健太はゴクリと唾を飲み、「負けません……!」と宣言する。

 声に震えが混じるが、目は彼を捉える。

「じゃあ早速始めよう」

 圭が一瞬で距離を詰める。

 風のようなスピード。

 健太は肩の動きを捉え、ジャブを繰り出す。

「タックル来る!」

 その拳は空を切るが、顎に掠め、相手の眼鏡が一瞬揺れる。

「当たった!」

 勢いに乗り、右ストレートを放つが、彼は軽く首を振ってかわした。

 健太はガードの隙を捉え、左フックを繰り出す。

「これなら!」

 その一撃が頬をクリーンヒット。

 観衆が息を呑み、陽が一瞬目を丸くする。

 圭の足が一瞬よろめき、眼鏡がわずかにずれる。

「イケる!」

 健太はすかさずジャブを放つが、彼は素早く距離を取り直し、眼鏡を直す。

 圭は薄い笑みを浮かべ、眼鏡を軽く押し上げる。

「効かせてから言え」

 次の瞬間、圭の右ローキックが太ももに炸裂する。

 痛みが走り、健太の膝が一瞬揺れる。

 健太はすかさず左フックを繰り出すが、圭は体を低くくぐり、流れるように右足を狙った。

 両腕で足を抱え込むシングルレッグタックルで、一気に健太を仕留めた。

 健太の背中が冷たい地面に叩きつけられる。

 圭のテイクダウンが決まり、健太は地面に倒れる。

 圭はすかさず体を押さえ込み、右腕をがっちり捉えながら、横から制圧するサイドコントロールに移る。

「詰みだ」

 一言だけ、冷たく突き刺さる声。

 健太の腕が軋み、「うっ!」と呻く。

 美咲の「ブリッジしろ!」を思い出し、腹筋と臀部に力を込め腰を上げる。

「ハッ!」

 だが、圭の重心は微動だにしない。

 完璧にコントロールし、フルマウントに移行。

 軽いパンチが健太の頬を打ち、地面で転がされる。

 圭は好き放題に健太を支配する。

 そして腕十字をかけ、ゆっくり締め上げる。

「恨んでも構わん」

 健太の腕が限界まで軋み、「ぐっ……!」と悲鳴が漏れる。

 視界が揺れ、息が上がる。

「俺……もう……!」

 観衆の無情な眼差しが傷を抉る。

 陽が声を上げる。

「終わったな。勝てるわけねーだろ」

 葵の声が続く。

「底辺は底辺。無駄な足掻きだぜ」

 だが、中位の生徒の一人が小さく呟く。

「いや、あのフック、結構良かったぞ」

 その瞬間、声が空き地を切り裂く。

「はーい! 喧嘩はクリーンに!」

 美咲が颯爽と姿を現す。

 トレーニングウェアにポニーテール、自信に満ちた姿。

 圭は眼鏡の奥で目を細め、初めて動揺を見せる。

「……あなたがこいつの指導者なのは知っています」

 圭は腕十字を締めたまま、冷静に返すが、声に微かな緊張が混じる。

「だが、こっちにも面子がある。簡単に退くわけには……」

 その言葉が終わるや否や、空気が一変する。

 美咲が一歩踏み出す。

 その瞬間、地面が震え、まるで空間そのものが存在に圧倒されるかのように軋む。

「それ、あたしに言ってんのか?」

 その声は低く、抑揚のない静かな口調だが、死神が舞い降りたかのように、場の全てを凍りつかせる。

 周囲に渦巻く殺気は、目に見えない刃となって空間を切り裂き、そこにいる全員の息を一瞬で奪う。

 空気が重く、まるで時間が止まったかのようだ。

 誰も動けず、ただ圧倒的な存在感に飲み込まれる。

 圭は小さく舌打ちし、挑発的な視線を返すが、殺気に押されるように一瞬肩が下がる。

 ゆっくりと腕を解きながら、冷たく言い放つ。

「……この落とし前、必ずつけさせてもらう。佐藤、覚えておけ」

 圭は美咲を一瞥し、仲間と共に静かに去る。

 その言葉は鋭いが、美咲の前では風に消えるささやきのようだった。

 観衆の中位グループも散っていく。

 美咲は健太の肩を叩き、「立て。帰るぞ」と言う。

 彼の傷だらけの体が砂利に汗の跡を残し、屈辱と感謝が胸で交錯した。

「……俺、何もできませんでした」

 彼女がニヤリ。

「次があるなら、それでいいだろ」

 彼は拳を握り、涙を拭う。


 夜、公園の街灯の下。

 ベンチに座る健太の新たな傷がズキズキ疼く。

 冷たい夜風が傷口を刺し、街灯の光が涙に濡れた頬で揺れる。

 遠くで車の走行音が低く響き、木々が風にざわめく。

 悔しさと闘志が胸で渦巻いた。

「俺……全然ダメだった……! 圭、強すぎる……」

 泣きじゃくる声が夜の静寂に響く。

 美咲は腕を組み、静かに見つめる。

「挫折は技術を磨く第一歩だ」

 厳しいが、どこか温かい口調。

 優斗が遅れて駆けつけ、スマホを握る。

「……動画撮ったけど、マジでヤバかった……でも、あのジャブ、当たってたぜ! 一瞬、圭の目が揺れてた。ほら、ここ!」

 優斗はスマホの画面を健太に見せ、顎にジャブが当たる瞬間を再生する。

「次はあのタックルをどうにかしないとな。俺、ネットで対策調べてみるよ」

 気まずくも力強い声に、健太は涙を拭う。

 美咲が続ける。

「お前は分析されてた。だが、目は動きを捉えた。それで十分だ」

 健太は拳を握り、涙で濡れた目を上げる。

「次は……絶対勝ちます! 相手がどんなに強くても、俺は這い上がってみせます!」

 彼は街灯の光に拳を翳す。

 カーストの壁を打ち砕く決意が、胸の奥で静かに燃える。

 彼女の言葉が響く。

「その意気だ。まぁちょっと勝って浮かれてたから丁度いいだろ。分析してくれるくらい認められてきたって話だ」

 涙と汗に濡れた拳が、街灯の光でかすかに輝く。


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