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雷神の拳 - 逆襲のカーストブレイカー  作者: 川合 佑樹


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第四話

 健太は、教室のざわめきに立ち止まった。

 朝のホームルーム前、いつもなら無視される底辺の自分なのに、今日は視線を集めている。

 クラスメイトの囁きが耳に届く。

「佐藤が剛と流星に勝ったってよ」

「底辺が中位に逆らった? マジ?」

 クラスメイトの視線が、まるで針のように彼に突き刺さる。

 そこには嘲笑と、かすかな期待の光が混じる。

 健太の心臓が強く脈打つ。

 優斗がそっと近づき、声を潜めた。

「剛と流星、呼び出されてボコボコにされたらしい。蓮の側近、黒崎圭(くろさき けい)が動くって噂だぜ」


 放課後、屋上。

 屋上の空気は夏の熱を帯び、遠くの蝉の声が響く。

 健太は手すりに寄りかかり、Tシャツの首元を引っ張る。

「優斗、圭って、どんな感じなんだ?」

 彼の声には好奇心と不安が混じる。

 優斗は目を輝かせ、スマホを握りながらまくしたてる。

「ブラジリアン柔術を使うらしいぜ。寝転がって戦うんだって」

 健太は目を丸くする。

「え、寝っ転がる? じゃあ、立ったまま殴り続ければ勝てるかな?」

 その瞬間、屋上の隅からドスの効いた声が響く。

「うるせえんだよ! なんでここに集まるんだよ!」

 寝起きの髪をガシッとかき上げ、美咲が現れる。

 健太は一瞬身を縮めるが、意を決して尋ねた。

「ブラジリアン柔術って知ってますか?」

 彼女は目を細め、腕を組んで近づいた。

「タックルで倒し、締め技で秒殺する格闘技だ」

 彼女の言葉に、健太は胸の奥で冷たい不安が膨らむ。

 彼女は髪をサッと払い、強気に続ける。

「ほら、準備しろ。叩き込んでやるよ」と指導モードに切り替わる。


 美咲が屋上の中央に立ち、健太を指差す。

「かかってこい!」

 彼はゴクリと唾を飲み、緊張で手が震える。

 美咲が一気に距離を詰め、体を沈めてタックルを仕掛ける。

 肩が腹に迫り、「うっ!」とバランスを崩して地面に尻をつく。

 冷たい感触が背中に響き、夏の熱風が額に滲む汗を乾かす。

「これが柔術のタックルだ!」

 美咲が素早くフルマウントで押さえ込み、膝で脇腹を締める。

 息が詰まり、服越しに熱を感じた彼は顔を赤らめるが、彼女が鋭く一喝。

「ふざけてると落とす! 集中しろ!」

 優斗が「すげえ、強すぎだろ……」と目を輝かせ、スマホで撮影を始めた。

 彼女がマウントをキープし、言う。

「これがフルマウント! 胸を押さえつけて動きを封じる。腕十字が来たら終わりだ。ブリッジで跳ね返せ!」

 彼は歯を食いしばり、腹筋に力を込めて腰を上げる。

 地面の冷たさが背中に伝わる。

 彼女の体はビクともせず、逆に膝で脇腹をさらに強く締めつける。

「ほら、頑張れ! このままじゃ一方的にやられるぞ!」

 健太は顔をしかめる。

「くっ……どうすれば……!」

 もう一度全身に力を込め、息を止めて体を起こす。

 力尽きて背中を打ちつける。

「うっ……まだ力が足りないのか……!」と悔しさが滲む声で呟く。

 美咲がマウントを解き、腕を組んで見下ろす。

「タイミングだ。相手の重心が前かかった瞬間、腰を45度に爆発させる。腹筋とケツ、全部使え!」

 彼女が立ち上がり、少年を力強く引き上げる。

「次、タックル防御。ブラジリアン柔術のタックルは低い。両手を相手の肩や頭に押し付けて上体を起こさせ、足を後ろに引く、つまりスプロールで防ぐ!」

 彼女が再びタックルを仕掛け、健太は慌てて腰を落とそうとするが、タイミングがずれて膝がガクンと崩れる。

 両手を前に出すも、肩に届く前に彼女の勢いに押し倒され、コンクリートに尻を打ちつける。

「うわっ!」と声を上げ、健太は焦りで汗が滲む。

 美咲が立ち上がり、呆れたように笑う。

「重心下げろ! 膝曲げて、胸張れ! 肩で押しても意味ねえ、腰の力だ! もう一回、立て!」

 彼は息を荒げ、立ち上がる。

 悔しさで唇を噛む。

「次は……絶対、腰で……!」と呟き、膝を曲げて構え直す。

 彼女が再度タックルを仕掛ける。

 彼は膝を沈め、両手を低く構えるが、タイミングがわずかに遅れる。

 肩に手が触れるも、力不足で押し切れず、地面に倒される。

「くそっ、届いたのに……!」と唇を噛み、わずかな手応えに瞳を輝かせる。

 美咲がニヤリと笑う。

「少しコツ掴めてきたな。けど、腰の力もっと入れろ! もう一回だ!」

 美咲が健太の姿勢を修正し、膝の角度や腕の位置を細かく指導。

 彼は汗だくで息を荒げ、体に覚え込ませる。

 屋上に靴底が擦れる音が響く。

「ブラジリアン柔術はスタミナ勝負。タックルをミスさせてスタミナを削れ。ブリッジとスプロール、毎日1,000回。膝蹴りも練習しろ。タックルが甘いなら顔面に叩き込め」

 美咲が膝蹴りを披露。

 膝が鋭く上がり、空気を切り裂く音が響く。

 健太は目を丸くし、優斗が「すげえ! これで圭ぶっ倒せるぜ!」と拳を振り上げる。  

 健太は汗で濡れた拳を夕陽に翳す。

「……絶対、圭に勝ってみせる!」

 美咲が「気合だけじゃ勝てねえ。技術と頭使え」と笑い、健太の肩をポンと叩く。

 屋上は三人の熱気で満たされ、夕陽が彼らの影を長く伸ばす。

 健太は汗と希望にまみれ、圭との戦いに向けて一歩踏み出した実感を噛み締める。

 コンクリートに響く足音が、闘志の鼓動と重なる。


 健太と優斗が帰宅中、疲れた足取りで校門へ向かう。

 屋上での特訓が体に残り、健太のシャツは汗で重い。

 優斗がスマホを弄りながら呟く。

「なあ、健太。美咲さんのブリッジ、かなり効きそうだな。圭のタックルも防げるんじゃないか?」

 健太は苦笑しつつ拳を握る。

「だといいけど……実戦だと、頭真っ白になりそうでさ……」  

 その瞬間、砂利を踏む重い足音が背後から迫る。

 中位グループの藤井葵ふじい あおい松本陽まつもと ようが、夕暮れの影を引きずるように現れる。

 葵が目を細め、低く唸る。

「底辺のくせに剛を倒して目立ってるらしいな。中位の看板を守るため、潰してやる」

 陽が一歩踏み出し、ニヤリと笑う。

「調子に乗る前に、力の差を教えてやる」

 健太の背筋がピリッと引き締まる。

「やるしかないのか……」

 葵が突然、右ストレートを放つ。

 健太は素早くステップバック。

 砂利が足元でザリッと鳴る。

 優斗がスマホを構え、「健太、動画撮るぞ! これで圭への宣戦布告だ、やってやれ!」と叫び、素早く周囲を警戒する。

 健太は右ストレートを放つ。

「バチンッ!」と葵の顎にクリーンヒット。

「ぐっ!」とよろめく。

 健太は拳を握り直し、驚きと興奮で息が荒くなる。

「パンチ……効いてる!」

 陽が「舐めんな!」と吠え、低い姿勢でタックルを仕掛ける。

 美咲の警告が脳裏に響く――

「圭のタックルは速くて低い! スプロールで防げ!」

 健太は腰を落とすが、陽のスピードに圧倒され、膝がガクンと震える。

「重心下げろ!」

 美咲の声がよぎるが、体が追いつかず、陽の肩が腹に当たる。

 両手を前に出すも、バランスを崩して膝をつく。

 健太は歯を食いしばるが、陽のタックルが浅かったため、完全に倒されずに済んだ。

 健太は這うように体を起こす。

「まだ……やれる!」と歯を食いしばり、陽が次のタックルを仕掛ける前に、必死で腰を落として構え直す。

 胸を張り、両手を低く構える。

 陽が即座に体勢を立て直し、柔道の内股で「ドスッ!」と健太を地面にたたきつける。

 砂利が背中に刺さり、息が詰まる。

 陽がフルマウントで首を絞めようとする。

「地面で締め上げる……これか……!」 

 健太は「ブリッジで重心を崩せ!」を思い出し、腹筋と臀部に力を込め、腰を爆発的に上げる。

「ハッ!」

 陽のマウントがずれ、腰をひねって振りほどく。

 健太は素早く立ち上がる。

 陽が即座に再度タックルを仕掛ける。

 その瞬間、健太は美咲の膝蹴りを脳内で再生する。

「今だ!」と叫び、膝を鋭く振り上げる。

 タイミングがわずかに遅れ、膝が陽の胸を捉える。

「ゴッ!」と鈍い音が響き、陽が「グッ!」とよろめくが、踏み止まる。

 陽が目を鋭くし、すぐに右拳を振り上げる。

 健太はとっさに左腕を上げて拳を防いだ。

「バシッ!」と衝撃が腕を走るが、踏ん張る。

 健太は息を荒げ、「くそっ、膝もっと鋭く……!」と悔しさを噛み締める。

 陽の反撃の隙に、膝を曲げて構え直す。

「次は……絶対当てる!」と目を光らせる。

 葵が慌てて陽を支え、睨みつける。

「今日はここまでにしておいてやる!」

 二人が夕闇に消えると、健太は膝をつき、息を切らす。

「膝蹴り……顔面に当たった……! でも、圭は……もっと速いのか……?」

 優斗が興奮気味に背を叩く。

「すげえ! また勝ったな! 動画、バッチリ撮れたぞ」

 健太は拳を握り、街灯の光に目を凝らす。

「俺……強くなってるのか……!」 

 砂利に響く足音が、闘志の鼓動と重なる。


 夜の公園。

 彼は傷だらけの体で街灯の下に立つ。

 夕方の戦いで擦りむいた傷が砂利の感触を呼び起こし、誰もいない夜の静寂が心を締めつける。

 スマホに美咲からのメッセージが届く。

「カウンター当てたのは悪くねえ。マウントにブリッジ効いたのもいいじゃん。けど、本物のブラジリアン柔術はもっとキレてる。今日はこの動画見て練習しな」と発破。

 健太は拳を握り、街灯の光に目を細める。

 タックルに膝をついた瞬間、ブリッジでマウントをずらした感触が脳裏に甦る。

 送られてきた雷神カイトの動画を開く。

 動画の中で、カイトが低いタックルを防ぎ、相手の腕を素早く捉えて締め上げる姿が流れる。

「圭の締め……こうやって防ぐんだ……!」

 健太は立ち上がり、膝を曲げる。

 美咲の声が脳裏に響く。

「重心下げろ! 胸張れ!」

 健太はスプロールのフォームを試し、両手を低く構える。

 汗が頬の痣を伝う。

 何度も膝がガクつくが、「次は……!」と呟き、構え直す。

 美咲の「肩の隙に膝蹴り!」を思い出し、膝を鋭く上げる。

 夜の空気を切り裂く音が響き、不完全な膝蹴りの悔しさが胸を熱くする。

「技術と頭を使え……!」

 息を荒げ、拳を握り直す。

 圭との戦いはまだ遠いが、今日の失敗と小さな成功が胸に火を灯す。

 街灯の光が汗に濡れた拳を照らし、「絶対、勝つ!」と夜空に誓う。

「絶対、勝ってみせる……! 底辺だって、変われるんだ!」

 夜空に拳を突き上げ、誓う。

 砂利に響く足音が、闘志の第一歩を刻んだ。


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