表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷神の拳 - 逆襲のカーストブレイカー  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/20

第三話

 健太は、学校の屋上で美咲と向き合っていた。

 夕暮れがコンクリートをオレンジに染め、手すりが赤く輝く。

 頬の痣はまだ疼くが、拳をかすめた感触が心に火を灯した。

 彼女からの言葉はシンプルだった。

「パンチ力をつけろ」

 彼は気合を入れ、シャドーボクシングを披露した。

 右ストレートを空に突き出すが、彼女に一蹴される。

「シャドーなんて意味ねぇ! 敵をイメージできる経験がお前にないだろ!」

 彼はたじろぐ。

「え……でも、動画で……」と呟くと、彼女に遮られる。

「いいからあたしを攻撃してみな!」

「女の人は殴らない!」と健太は即座に答えた。

 彼女はため息をつき、「舐めるな!」と右拳でボディブローを放つ。

 彼は「うっ!」とよろめく。

「ほら男の子なんだろ? 反撃してこいよ!」

 意を決し、右ストレートを彼女の顎に打ち込む。

「バシッ!」 

 軽い音が響くが、彼女は平然としている。

「殴れとは言ったけど、女子の顔を躊躇なく殴るってどうなんだ?」と笑い、「でもノーダメージ。これがお前の実力だ!」と一喝。

 再びパンチを繰り出すが、かすりもしない。

 彼女の動きは速く、まるで舞うように軽やかだ。

「打撃力を鍛えるなら、実際に人を殴る経験をしろ。あと、家で筋トレ。筋力がない奴がテクニックだけ身につけても意味がない」

 彼の声が小さく震える。

「……はい」と呟き、決意が胸に刻まれる。

「お前、これから報復されまくるぞ」

「えっ」

「弱者がメンツをつぶしたんだから、当然だろ」

「……」

「中途半端な力じゃ簡単に潰される。ある程度形になるまでは身を隠して時間を稼げ」

「……わかりました」

「1,000円」

「……はい」


 夜、健太は近所の公園に立っていた。

 冷たい夜風が頬を刺し、錆びたブランコがキィときしむ。

 遠くの街灯がアスファルトに淡い光を投げ、虫がチカチカと点滅する光に集まる。

 雷神カイトの「パンチ力強化入門」を流す。

「打撃の基本は筋トレだ! 重りをつけたダッシュで下半身を強化しろ! スクワットジャンプで爆発力を! 鉄を殴って部位鍛錬! 腕立て伏せで瞬発力を磨け!」

 力強い声が耳に響き、心に火をつける。

 リュックに水ボトルを詰め、肩に重さがのしかかる。

「逃げ切る持久力……耐える防御力を!」

 公園の坂道を全力で駆ける。

「ハァ……ハァ!」

 太ももが悲鳴を上げ、息がゼエゼエと荒くなる。

 5本登り終え、膝がガクガクと震える。

「……下半身を強化する!」

 鉄棒にタオルを巻き、すねで10回蹴る。

「ズン!」と鈍い痛みが走るが、「防御力を!」と耐える。

 汗が額から滲み、地面に小さな水たまりを作る。

 リュックを背負ったまま、スクワットジャンプを始める。

「1……2……!」

 重さが腰に響き、着地で膝が震える。

「10回……!」

 太ももが悲鳴を上げ、息がゼエゼエと荒くなる。

「……瞬発力を磨く!」

 次に、地面に手を突き、腕立て伏せ。

「ハッ!」

 腕が弾けるように動き、内側が熱くなる。

「諦めるな……これで強くなる!」

「筋力がない奴がテクニックだけ身につけても意味がない」という言葉が蘇り、10回、12回とやり続ける。

 汗がポタポタ落ち、Tシャツが肌に張り付く。


 翌日、健太は学校の裏口から帰ろうとしていた。

 西日がアスファルトを染める中、蓮の仲間、渡辺剛(わたなべ つとむ)斎藤流星(さいとう りゅうせい)の声が響く。

「弱者に舐められたら、俺たち降格だぞ!」

 剛が苛立った声で吐き捨て、流星が「佐藤、どこだ! 見つけたら絶対に潰す!」と叫ぶ。

 健太は咄嗟に物陰に隠れ、「出てこい!」という嘲笑に心臓がドクンと高鳴る。

 彼らがゴミ箱を蹴った隙に、別の路地を駆け抜ける。

 息を切らし、家にたどり着く。

「こんな生活を、いつまで……?」


 数日後、健太は裏口を抜けようとしていた。

 だが、校庭の端で悲鳴が響く。

 剛と流星が優斗を虐めている。

 流星が優斗を突き飛ばし、「底辺のゴミは黙ってろ!」と嘲る。

 カーストの重圧がその場の空気を支配する。

 健太の心臓がドクンと跳ねる。

「また……逃げ続けるだけか……」

 恐怖が甦るが、クラスメイトの怯えた目を見て、胸が熱くなる。

「誰も虐げられない世界を作るなら……この状況は放っておけない!」

 健太はスマホを取り出し、辺りを撮影する。

 そして手を固く握り、校庭に飛び出す。

「やめろ!」

 剛がフェンスに寄りかかって、ニヤリと笑う。

「やっと現れたな。蓮さんからの命令だ。お前をボコボコにしてやる」  

 流星が続ける。

「それともまた逃げ続けるか? お前が隠れても、こいつが次の標的だ。どうする?」

 健太の肩が硬くこわばる。

「卑怯な……!」

 剛が土を蹴り散らし、力強い右パンチを繰り出す。

 健太は鍛えた脚でステップバック。

 剛の足が砂利で滑る。

「スタミナ勝負だ!」

 健太はフェンス沿いに走る。

 剛が追うが、息が荒くなり、顔が赤く染まる。

「特訓のダッシュ……効いてる!」

 剛がフェンスに手をつき、「この……底辺が!」と唸りながら再び突進。

 健太は軽やかにかわし、拳が空を斬る。

「絶対に……掴ませない!」

 健太の心に小さな自信が芽生える。

 流星が「剛、遅え!」と叫び、砂利を蹴り上げ、健太の視界を遮る。

 刹那、ローキックが膝を狙い、ミドルキックが脇腹に飛ぶ。

 健太はすねでローキックを受け止め、半歩下がってミドルキックをかわす。

「今だ……!」

 スクワットジャンプで磨いた爆発力を発揮し、低くタックルする。

 腕立て伏せで鍛えた上半身で流星の腰を強く押す。

「ドスッ!」

 流星の軽い体が倒れ、「ザッ!」と滑る音が響く。

「ぐっ……!」と呻き、素早く跳ね起きる。

「まだだ、佐藤!」と叫び、健太の脇腹に肘打ちを狙う。

 健太は肘打ちを肩で受け流す。

「ハァ……効いてる!」と息が弾み、脈が速く鼓動する。

 剛が流星の姿を見て顔を歪める。

「底辺が……調子に乗りやがって!」

 剛が息を整え、拳を握り直して踏み込むが、砂利で足が滑り、ゼエゼエと息が荒い。

 健太はフェンス沿いに軽くステップを踏む。

 剛は苛立ちが顔に滲む。

「チッ……」

 剛が流星を睨み、「行くぞ! こんな奴に構うのは時間の無駄だ!」

 流星が「覚えてろ!」と吐き捨て去る。

 剛が振り返り、「次は逃がさねえぞ!」と低く唸る。

 健太は息を切らし、汗で濡れた額を拭う。

「特訓……ほんとに効いたんだ!」

 鉄を蹴ったすねの痛み、スクワットジャンプで鍛えた脚力、掴みやキックを耐えた実感が、全身に力をみなぎらせる。

 ふと、校庭の端で縮こまる優斗の姿が目に入る。

 彼は震え、怯えた目で地面を見つめている。

 いつも教室の隅で縮こまり、嘲笑を耐えてきた肩に、重圧がのしかかっているようだ。

「大丈夫か?」

 優斗が震える声で呟く。

「怖かった……いつもみたいに、誰も助けてくれないと思ってた……」

 健太はしゃがみ、目を合わせて言う。

「二度とこんな目に遭わせない」

 彼の震える肩を見つめ、決意を胸に刻む。

「本当に……? 僕、いつも底辺で……」

 健太は力強く頷く。

「大丈夫だ。一人なら無理でも、俺がついてる」

 優斗が小さく笑い、涙を拭う。

「……ありがとう」

 健太は立ち上がり、彼の肩を軽く叩く。

「いつかお前も、負けない力つけようぜ」

 校庭の砂埃が夕陽に舞い、二人の胸に新たな力が宿る。


 夜、健太は部屋でスマホを手に汗を握る。

 校庭での戦いを収めた動画をチェックした。

「美咲さんに送るのは怖いけど……」

 意を決し、動画を送信。

 メッセージを添える。

「剛と流星を相手に戦ってみました!」

 送信ボタンを押すと、胸が高鳴る。

 数分後、美咲からの返信が届く。

「やるじゃん。スタミナ切れを誘ったのは悪くない。けど、タイミングはもっとシビアに詰めろ。次は顎狙ってKOしろよ」

 健太はノートに「タイミング」と書き込み、拳を握る。

「次はKO……!」

 カイトの動画を再生し、顎を狙うパンチをイメージ。

 美咲の「か弱い女子も倒せない」が頭をよぎり、苦笑する。

「次は……美咲さんを驚かせてやる!」  


 翌朝、教室で優斗が健太に近づく。

「昨日は助けてくれて……ありがとう!」と笑う。

 優斗の目が輝く。

「僕も強くなりたい。一緒にカーストをぶっ壊そうぜ!」

 健太はハッとする。

 初めて自分の理想が誰かと繋がった瞬間だった。

「一緒に強くなろう」

 健太はスマホでカイトの動画を共有し、二人は笑い合う。

 優斗が声を潜めて言う。

「剛たちに立ち向かった話……少し広まってるぞ。底辺でも戦えるって、僕、ちょっと希望持てた」

 教室の隅で、いつも俯いていた数人の生徒が、チラチラと盗み見る。

 健太は驚きつつ、胸が熱くなる。

「……それなら、もっと強くなるよ」

 美咲からのメッセージが届く。

「次は頭じゃなく体で勝て」

 健太はノートを握りしめ、つぶやく。

「そうか……初めて、勝ったんだ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ