第十三話
体育祭のグラウンドに秋風が流れ、観客席は色とりどりのクラス旗で彩られている。
1ラウンド目の激闘の余韻が観客のざわめきと響き合う。
真央が声を弾ませる。
「さあ、2ラウンド! 1ラウンドは翔のジャブとスピードが火花を散らし、蓮の執念のボディフックが会場を震わせた! このラウンド、翔は距離を保てるか? それとも蓮が重い一撃で逆襲か? リングが熱すぎる!」
カイトがマスクを揺らし、「あの攻防、PicoTubeのトレンド1位間違いなしだ! このラウンド、蓮がコーナーに追い込むか、翔が再びスピードでぶっちぎるか! 観客席、もっと声出せよ!」と叫び、会場から歓声と笑いが沸き起こる。
真央が「カイト、配信見てる暇あったら試合見て! この緊張感! 会場、準備はいい!?」と突っ込み、会場を和ませる。
健太が手を握り締め、目を輝かせて思う。
「相手のテンポを壊せ! お前ならやれる!」
ゴングが鳴り、2ラウンドがスタートした。
翔はゴングと同時に軽快なステップで風のように舞う。
肩をリズミカルに動かし、左パンチを鋭く突き出し、防御をこじ開けた。
鋭い打音が響き、鼻先に命中する。
パンチが決まるたび、観客席の女子から「翔、かっこいい!」と声援が上がり、男子からは「速すぎだろ!」とどよめきが広がる。
リングは汗とわずかな血で濡れ、スポットライトの下で鈍く光る。
翔のステップが刻むリズムが、会場に響く靴音と混ざり合い、まるで戦いの鼓動のようだ。
蓮はロープ際に追い詰められ、鼻血がリングに滴る。
防御を固めるが、右フックが「バシッ!」と頬を掠め、視界が一瞬揺れる。
汗と血が混じる顔に熱気がまとわりつく。
蓮の息は荒く、鼻から流れ出る血が口元に滲み、鉄の味が広がる。
「何か……流れを変えねえと!」と歯を食いしばった。
翔の猛攻が止まらない。
左ジャブでガードをこじ開け、右パンチが「バシッ!」と顎にクリーンヒット。
蓮の膝がガクンと揺れ、観客席が一瞬静まり返る。
ロープがきしみ、蓮の身体が僅かに傾く。
倒れるまいと拳を握り直し、視界の端で翔の次の動きを探る。
だが、翔は一瞬動きを止め、鋭い眼光で隙を伺う。
会場に張り詰めた空気が流れ、静寂が生まれる。
翔が左ジャブを繰り出した瞬間、蓮は無意識に右フックを繰り出す。
「ゴッ!」と重い打音が響き、翔がバランスを崩し、膝が一瞬ガクンと沈んだ。
MMAルールにダウンの判定はないが、会場が「うわっ!」とどよめき、一気に沸騰した。
蓮は倒れた翔を見下ろす。
「……あ? なんだ? なんでこいつは倒れてる?」
自分の手を見つめ、強い疑問に戸惑った。
拳に残る衝撃の感触が、蓮の意識を現実に戻す。
リングの熱気と観客の叫び声が一気に押し寄せ、頭の中で時間が止まったかのようだった。
健太は「その調子だ! やれるぞ!」と咆哮した。
美咲は目を細め、「……さて。気付けるかな?」と呟く。
ゴングが鳴り、2ラウンドが終了した。
割れんばかりの歓声と拍手に包まれ、体育祭の熱気が最高潮に達する。
真央が「なんというラウンド! 体育祭のリングが割れんばかりの歓声に包まれている! 翔のスピードがラウンドを支配したが、蓮の右フックが逆転の火種を灯した! 会場が揺れているぞ!」
と声を張り上げて実況。
カイトが目をギラつかせて叫んだ。
「なんという試合だ! 翔のジャブはまるで芸術! あのテンポと距離感、相手を完全にコントロールしてた! だが、蓮のあのカウンター! どデカい一発! 蓮の魂が拳に宿った強烈な一撃だ!」
蓮はコーナーに戻り、荒い息を吐きながらグローブを握り直した。
鼻血がタオルに赤く染み、セコンドの圭がタオルを差し出しながら声を上げる。
「ナイスダウンです! あのフック、間違いなく効いています! このまま攻め続けましょう!」と叫ぶ。
蓮は目を閉じ、「当たったのはフックか……。ダメージが残ってるとは思えねえ。なぜダウンが取れた?」と考える。
ボクシング歴の長い蓮にとって、ただの偶然とは思えなかった。
自分の顔に手をやり、腫れた頬と鼻血の痛みを確かめる。
「ヒット数はあいつの方が上だ。……なぜ俺を倒さない? 倒せないのか?」
ふと、翔の手が目に入る。
薄いMMAグローブに気づき、蓮の目が光る。
「ハッ! 見つけたぜ!」と呟く。
確信に満ちた笑みが彼の顔に広がる。
彼は立ち上がり、翔を指差し、力強く叫んだ。
「お前はもう俺には勝てねえ! 次のラウンドで、絶対にぶっ倒してやる!」
その勝気な声が響き、会場がどよめきと歓声に包まれる。
蓮は拳を握り締め、燃えるような闘志を宿す。
翔はタオルで汗を拭い、「言ってろ」と内心で呟く。
だが、あのフックが頭を離れない。
「たった一発……。なのに、なぜ効いた? いや、俺が負けるはずはない!」と闘志を奮い立たせるが、微かな焦りが心をよぎった。
応援団の太鼓が「ゴーン!」と重々しく響く。
健太が「頑張れー!」と吠え、美咲が「まぁ勝てるだろ」と呟く。
観客の声援が試合をさらに熱くする。
ゴングが響き、運命の3ラウンドが始まった。
翔はゴングと同時に軽快なステップで、嵐のように攻め立てる。
左ストレートを繰り出し、防御の上から打音を響かせる。
だが、蓮はガードを高く上げ、じりじりと前進する。
「じゃあ試してみるか!」
2ラウンドの違和感を確かめるように、蓮はジャブが飛んできた瞬間に右ストレートを放つ。
「ゴン!」と翔の顔面を捉え、ボクシンググローブの重みが鈍い衝撃を響かせる。
観客席が「うおお!」とどよめく。
「やっぱりな……」
蓮の目に火が灯る。
彼は、ボクシンググローブの厚いパディングが衝撃を分散し、頭部を揺らして脳震盪を引き起こしやすいことを知っていた。
対して、MMAグローブは薄く、衝撃が集中して裂傷や打撲を与えるが、脳への振動は少ない。
翔の左ジャブが再び飛んできた瞬間、蓮は殴られた勢いで右フックを返す。
「バゴッ!」と翔の頬に命中。
翔は動揺し、「まずい……押され始めている。なぜ俺の攻撃が効かない」と内心で焦る。
蓮がリングの中央で吠えた。
「スポーツマンよぉ! これがボクシングだ!」
蓮の大振りのパンチが翔のガードを徐々に抜き始め、左フックが「バシッ!」と脇腹にクリーンヒット。
翔は焦りからクリンチに持ち込み、腕を必死に掴んだ。
「このままじゃまずい……!」と内心で呟き、咄嗟にMMAの戦術に切り替えた。
「バシッ!」とローキックが蓮の太ももに叩き込まれ、鈍い痛みが走る。
蓮はクリンチを力強く振りほどく。
「どうした! ボクシングごっこはもう終わりか!?」
蓮は捨て身のカウンターストレートで顔面を捉えた。
翔の右クロスが飛んできた瞬間、殴られた勢いを逆手に取り、左ストレートを返す。
「ゴン!」と重い一撃が翔の鼻先に命中。
蓮は確信を深め、拳を繰り出し続けた。
「さあ! 我慢比べだ! どこまで耐えられるか、勝負しようぜ!」
翔は「待て!」と手を上げ、距離を取ろうとしたが、蓮は一歩も引かず、猛然と踏み込んだ。
翔のジャブが頬を捉えた瞬間、蓮は痛みを堪え、右ストレートを返す。
「バシッ!」と顎に命中し、翔の膝がガクンと揺れる。
すかさず蓮は渾身の右ストレートを顎に叩き込む。
翔の意識を奪い、彼の身体がリングに崩れ落ちる。
レフェリーが素早く近寄り、翔の状態をチェック。
そして両手を天に振り上げ、「KO!」と高らかに宣言した。
割れんばかりの歓声が響き、体育祭のグラウンドが熱狂に包まれた。
応援団の太鼓が「ドドドン!」と勝利を祝うように轟き、会場全体が熱狂に包まれた。
真央が「KO! 蓮、KO勝利! 信じられない逆転劇、最高です! 体育祭のグラウンドが熱狂の渦だ!」と声を張り上げた。
カイトが目をギラつかせて叫ぶ。
「蓮の執念の拳が翔を沈めた! これぞ漢の魂だ! 蓮の我慢比べに軍配が上がった! 体育祭のリングでこんなドラマ、鳥肌もんだぜ!」
健太は「勝った!? マジすげえ!」と衝撃と興奮で叫んだ。
美咲は冷静に、だが口元に笑みを浮かべて呟く。
「泥臭くても、いい勝利だ」
蓮はリングから降り、汗と鼻血にまみれた顔で剛と流星に近づいた。
「バチン!」と力強くハイタッチし、汗だくの顔に笑顔を浮かべる。
「次はお前らだ。俺が勝ったんだから、気楽にぶちかませ!」
椅子にドカッと座り、口元に笑みが浮かぶ。
健太が蓮に近づき、ボクシンググローブのテープを外そうと手を伸ばした。
「かっこ良かったよ、俺も絶対勝つからな!」と目を輝かせて宣言。
蓮は「自分でできる」とぶっきらぼうに手を払うが、健太の熱い声に一瞬驚いた顔をし、すぐに目を逸らす。
蓮が「……好きにしろ」と呟く。
健太は内心で拳を握り、呟いた。
「俺も颯との試合で根性見せる! お前の執念、絶対に受け継ぐぜ! 次は俺たちの番だ!」




