第十話
文化祭の熱気が冷めた校舎は、静けさを取り戻していた。
教室は健太の話題でざわついていたが、颯の存在が重くのしかかる。
健太と優斗は教室の隅で作戦会議。
「柔道部のデカい奴、昨日はノリノリだったのに、颯の名前を聞いただけで逃げた」と優斗がスマホをいじりながら愚痴る。
健太はノートに候補者名を書き、消しては書き直した。
「剣道部のエースも、陸上部のスピードスターも、四天王の噂を聞いただけでビビって……」とつぶやいてため息をつく。
「まだ時間はあるから、頑張って探そう」と健太は声に焦りが滲んだ。
下校時、薄暗い路地裏。
夕暮れの赤みがコンクリートに映り、湿った空気に汗と埃の匂いが混じる。
叫び声と肉を打つ鈍い音が響く中、健太が一人、校門からの近道を歩いていると、路地の奥で騒ぎに気づいた。
角を曲がると、蓮とその傘下の剛、流星、圭が、5人に囲まれ、袋叩きにされている。
そのリーダーは長身で、左耳のピアスが夕暮れの光を反射する。
隣の赤髪の男は拳を鳴らし、「颯様の秩序を乱す奴は、俺がこの手で潰す」と低く唸る。
残る3人は無言で拳を握る。
蓮は額から血を滴らせ、ボクシングの構えで立ち上がる。
「てめえら……こんなことして許さねえ!」と叫んで睨みつける。
だが、徐々に数に押され膝を突く。
剛は彼の前に立ちはだかるが、膝蹴りを受けて胸を押さえて崩れる。
「この程度で負けるかよ!」と拳を握りしめる。
流星は軽やかなステップで蓮を守ろうと動くが、赤髪のフックが顎をかすめ、よろめく。
「ふざけんな……こんな所で終わるかよ!」と唸る。
圭は冷静に叫ぶ。
「蓮さん、刺客は5人、こちらは4人、ツーマンセルで行きましょう!」
健太は迷わず飛び込み、「やめろ!」と男の一人にパンチを放つ。
顎にヒットし、相手が一瞬よろける。
「よし!」と拳を握るが、背後からリーダーの膝蹴りが腰を狙い、振り返った瞬間、赤髪のハイキックが肩を直撃する。
健太は地面に転がされ、埃にまみれる。
蓮が吼える。
「邪魔すんな! お前の戦い方じゃ集団戦で役に立たねえ!」
健太は敵を睨みながら言う。
「でも、こんな状況放っておけない!」
蓮が舌打ちをし、圭に目で合図を送る。
圭が即座に頷き、ブラジリアン柔術の構えを保ちながら声を張る。
「単独で突っ込むな! 剛の左をカバーしろ!」
健太は力強く頷き、「分かった!」と応じ、剛の横に移動する。
圭が鋭く指示する。
「剛、赤髪を抑えろ! 流星、陣形を乱せ!」
剛は力強く立ち上がり、赤髪の腕をつかんで投げ倒す。
流星は素早いステップで刺客の脇腹にキックを叩き込む。
蓮がカバーし、パンチで刺客リーダーの顔面を捉える。
圭は素早く刺客に飛びかかり、相手を地面に押し倒して腕を極める。
「佐藤、剛の投げに合わせろ!」
健太はボクシングの構えでパンチを繰り出すが、剛に合わせて男を誘導する。
剛の大外刈りが相手を地面に叩きつけ、倒す。
健太は目を輝かせ、「剛の投げ、めっちゃ力強い!」と声を上げる。
圭は敵の腕を極めながら指示を飛ばす。
「孤立した奴を狙え! 蓮さん、赤髪の背後を取って! 流星、左だ!」
蓮は赤髪の背後を取って、コンビネーションで顔面を攻める。
流星は素早いステップでローキックを放ち、刺客の右膝を攻撃するが、刺客の反撃を受けてよろめき、蓮がフォローする。
健太は息をのむほどに感動する。
蓮の鋭いボクシング、剛の力強い柔道、流星の素早いキックボクシング、圭の的確な指示が、戦術シミュレーションのように連動する。
健太は心の中で叫ぶ。
「すごい連携だ……! この人たち、マジでやばい!」
赤髪が声を上げる。
「撤退だ! 颯様に報告するぞ!」
集団は散り散りに逃げる。
路地に静寂が戻り、汗と血の匂いが漂う。
健太は息を切らし、蓮に手を差し伸べる。
「颯を倒すには皆の力が必要だ! あいつの支配から皆を解放したいんだ! 一緒に戦ってくれ!」
彼は手を払いのけ、睨みつける。
「俺は中位に戻るために戦う。お前の正義なんてどうでもいい!」
だが、その声には微かな迷いが滲む。
剛が「俺たちだけで十分だ」と胸を張り、流星が「俺たちの戦いに首を突っ込むな」と低く唸る。
圭は「悪いが、私は蓮さん以外の下には着かない」と不敵に笑う。
四人はそれぞれのプライドを胸に、よろめきながら路地を去る。
蓮が振り返り、健太に一瞬だけ目をやる。
その瞳には怒りと屈辱、そしてほんの一瞬の敬意が混じる。
「……あの強さ……絶対に仲間にしたい!」
夕暮れの空を見上げ、颯への決意を新たにする。
翌朝、校舎裏。
健太と優斗がチーム結成の作戦を練るが、進展なし。
優斗がスマホをいじりながら言う。
「蓮たち、めっちゃ強いけど、プライド高すぎだろ。どうやって仲間にすんだよ?」
健太はノートに候補者名を書き、ため息をつく。
「確かに……でも、あの連携は絶対必要だ」
そこに蓮が単身現れる。
剛、流星、圭が少し離れて見守る。
蓮は目をそらし、拳を軽く握りながら渋々言う。
「昨日は……まあ、助かった。だがよ、俺が颯をぶっ潰したいのは、お前の正義なんちゃらじゃねえ。剛や流星、圭を守れなかったあの日の借りを返すためだ」
健太が「だから、一緒に颯を……」と言いかけると、彼が鋭く遮る。
「お前の傘下には入らねえ。だが、颯の吠え面は拝みてぇ。その為にお前が俺に協力しろ」と吐露。
彼の目には、かつての傲慢さだけでなく、悔しさと怒りが宿る。
「だが、中位に戻ったら、お前をまたボコボコにしてやるからな!」
健太は目を輝かせ、彼を抱きしめる。
「お前、最高だ!」
彼は「うぜえ! 離せ!」と振りほどくが、口元に笑み。
剛と流星が「蓮さんがやるなら俺らも!」と拳を合わせ、圭が「私が参戦するからには負けは認めませんからね」と意を決める。
放課後、屋上。
美咲がいつもの定位置に座り、健太、優斗、蓮、剛、流星、圭が集まる。
彼女がジュースを飲みながら、「なんでここに集まるんだよ」とつぶやく。
健太は照れ笑いを浮かべながら言う。
「一応、師匠に報告しとこうと思いまして」
「いらねーよ! 静かに眠らせろよ!」
健太は屋上の柵を握り、夕暮れの空を見上げる。
校舎の喧騒が遠く響き、体育祭へのカウントダウンが始まる。
皆が屋上を後にする中、美咲が最後まで残り、健太の背中に視線を投げる。
彼女は一瞬、髪をかきあげ、頬がわずかに赤くなる。
「なあ、健太」と珍しく小さな声で言う。
健太が振り返ると、彼女は目をそらし、ジュース缶を握り潰しながら続ける。
「今日……うち、来られる? ちょっと話したいことがあるんだけど」
彼は一瞬、顔が熱くなり、目を丸くするが、すぐに真剣な表情で拳を握りしめる。
「行きます! 行かせてください!」と力強く答える。
彼女は「うっさい!」と缶を投げつけ、顔を背けて「なら、来な」と呟いて屋上を去る。
健太は投げられた缶を手に持って、夕暮れの空を見上げ、静かにつぶやく。
「これ……そういうことだよな」
胸の高鳴りを抑えながら、握った拳に力を込める。




