鈴原家の新評価
鈴原家本宅、書斎。長年使い込まれた書籍と高価な香の匂いが混じった空気が満ちていた。鈴原康政は広大な机の奥に座り、一条組と山口組の衝突に関する詳細な報告書を、指先で静かに叩いていた。彼の表情からは、喜びも怒りも読み取れず、長年の権力の中で培われた、深遠な沈着さがあるだけだった。
心腹の執事が、背後で控えている。息を潜め、康政の次の言葉を待っていた。
「一条竜也、か……」鈴原康政は、ゆっくりと口を開いた。その声は、静かな書斎に明確に響き渡る。「あの温順だったはずの娘が、図らずも**『思いがけない鋭利な刃』を見つけてきたようだ」
彼は報告書を手に取り、そこに記された**「関東の龍」という新しい称号に目を落とした。その眼差しは複雑だった。報告書には、一条組がいかに劣勢を覆し、いかに正確に反撃し、そしてこの機に乗じて周辺勢力を統合したかが詳細に記されていた。これは、ただの暴力的な暴漢には決して成し遂げられない謀略の証拠だ。
「当初は、表舞台に上がれない極道風情と侮っていたが、まさか、これほどの胆力と手腕を持つ人物だったとは」彼は報告書を置き、身体をわずかに背もたれに預けた。指先を腹の前で組み、その瞳は、狡猾な計算に光っている。「短期間で地位を確立し、山口組を重創し、周辺勢力を傘下に収める……この能力と魄力は、あの口先ばかりで陰湿な小細工しかできない伊藤健よりも、遥かに優れている」
執事は用心深く言葉を合わせた。「旦那様は、つまり……」
鈴原康政の眼差しに、冷酷な光が閃いた。「伊藤家は近頃、ますます傲慢になり、あの伊藤健は到底大器とは言えない。当初は縁談で伊藤家の勢力を利用しようと考えていたが、今や、より良い選択肢があるかもしれない」彼は言葉を区切り、上から目線で品定めするように言った。「この新しく見つけた**『刀』が、十分に鋭く、そして……従順であるかどうか、それが問題だ」
彼は執事へと顔を向け、指示を下した。「家族の名において、改めて一条竜也と桜を、来週の晩餐会に正式に招待せよ。この私自らが、一条竜也が本当に使える人物なのか、それとも単なる虚名なのかを、この目で確かめるとしよう」
「畏まりました、旦那様」執事は深く頭を下げ、静かに退出した。
書斎には、再び鈴原康政だけが残された。彼の視線は窓の外、鈴原家の広大な庭園に向けられている。それは、家族の百年の基盤と栄光の象徴だ。彼の**「棋盤」の上では、子供たちでさえも、利便性に応じて秤にかけられる駒に過ぎない。以前は伊藤家だったが、今、より可能性を秘め、よりコントロールしやすい「極道の刃」へと駒を替える時が来たと彼は考えている。
しかし、彼が**「刀」だと見做しているその相手は、既に彼の娘と、利用という枠を超えた同盟を結んでいることを、彼は知る由もない。彼が企んでいる支配の算段は、二匹の重生した龍と鳳の目から見れば、既に見透かされ、そして反撃されることが運命づけられた、滑稽な計算に過ぎなかった。




