深夜の拉麺
竜也の傷口に施された麻痺剤の処置が終わり、解毒剤が注射され、張り詰めていた空気は、ようやく和らいだ。本部に戻った時には、既に夜明け前の時刻で、月は空に高く澄んでいた。
戦闘の喧騒は遠く去り、アドレナリンが引いた後の疲労と空腹感が押し寄せてきた。竜也は複雑な食事を用意させず、大半の手下を帰し、鈴原桜と数名のコア幹部だけを連れて、組本部裏手の路地にある、深夜営業のラーメン屋台へと向かった。
薄暗い裸電球が夜闇の中で揺れ、屋台の主人である老人の背中を照らしている。熱いスープの湯気が立ち昇り、深夜の冷え込みを和らげた。路地の脇には、簡素なテーブルと椅子が並べられ、すぐ近くにある本部の厳粛な建物とは、奇妙な対比をなしていた。
勝利した組員たちが、二、三名ずつ隣のテーブルに座り、低声で談笑している。その雰囲気はリラックスしていた。しかし、竜也と鈴原桜のテーブルは、異様なほどに静かだった。竜也は彼女のために椅子を引き、自身は彼女の向かいに腰を下ろした。
屋台の老主人は、竜也の顔をよく知っているようで、恭しく会釈をしただけで、余計な口は挟まなかった。間もなく、熱々の豚骨ラーメンが二人の前に運ばれてきた。濃厚なスープの香りが、瞬時に周囲に広がる。
鈴原桜は、小口で息を吹きかけながら、麺を箸で持ち上げた。緊迫した夜を乗り越えた後、このシンプルな一杯のラーメンは、格別の温かさをもたらした。
竜也は、自分の丼に入っていた厚切りのチャーシューを、全て自然な動作で彼女の丼に移した。
「もっと食え」彼の声は、夜の闇に溶け込むように低く、そして普段よりも柔らかだった。「痩せすぎだ」
鈴原桜は、丼の中に増えた肉を見て、微かに目を見張ったが、顔を上げて彼を見た。彼は静かに麺をすすっており、横顔はライトの下で輪郭が際立っている。上顎の浅い傷跡も、幾分柔らかく見えた。彼女は拒否せず、静かに「ええ」とだけ応じ、彼がくれた肉を噛みしめながら麺をすすった。
周囲には、組員たちのリラックスしたざわめき、食器の音、低声での笑い声が交錯している。しかし、彼ら二人のテーブルは、まるで見えない結界に包まれているかのようだ。静かに食事をする音と、二人の間に流れる言葉を必要としない默契と温情だけがあった。戦闘の血腥さと残酷さは、この一杯の熱いスープと、この一瞬の静寂によって洗い流されたかのようだった。
屋台の主人は、テーブルを拭きながら、その場にいる異彩を放つ若者たちを見た。薄暗い老眼には、慈愛の笑みが浮かんでいる。彼は、訛りのある日本語で、静かに呟いた。
「実にお似合いの夫婦だ……」
その声は小さかったが、ちょうど二人の耳に届いた。
鈴原桜の耳元が微かに赤らみ、彼女はスープを飲むことに集中した。竜也の動作が一瞬止まった。彼は顔を上げ、対面にいる、伏し目がちで柔らかな光を帯びた女性の横顔を見つめた。その瞳の奥には、彼自身もまだ気づいていない、微かな温もりと、所有の喜びが垣間見えた。




