勝利の代償
本部医療室。消毒液の匂いが、空気中に強く漂っていた。
竜也は椅子に座り、組の専属医師が左腕の傷口を処置するのに身を任せていた。傷は深くはないものの、肉がめくれ上がり、大量の血が流れたため、見た目はかなり凄惨だった。しかし、彼は微塵も眉をひそめることなく、まるで自分の身に起きたことではないかのようだった。
その時、医療室のドアが勢いよく開けられ、鈴原桜が足早に入ってきた。報告を受けて慌てて駆けつけたようで、その呼吸はまだ荒く、額には微かな汗が滲んでいた。彼女の視線が、竜也の切り裂かれた袖と、露わになった傷口、そして血に染まった包帯に落ちた瞬間、彼女の顔色は、瞬時に蒼白になった。
「小傷だ」竜也は彼女を見上げ、その口調は穏やかで、彼女を安心させようと努めていた。
鈴原桜は何も言わず、唇を固く結んだ。彼女は彼の前に歩み寄り、強引とも言える動作で、医師の手から消毒用の綿棒と軟膏を受け取った。医師は一瞬戸惑ったが、すぐに空気を読んで脇に退いた。
彼女は、彼の前にしゃがみ込んだ。この姿勢では、彼女は微かに顔を上げなければ彼の傷口を見ることはできない。照明の下で、彼女の伏せられた長い睫毛は、蝶の羽のように微かに震えている。綿棒を握る指先は、関節が白くなるほど力が込められていたが、傷口に触れる動作は、驚くほど優しく、そして熟練していた。彼女は慎重に周囲の血の汚れを拭き取り、その一挙手一投足に、抑圧された集中力が漲っていた。
竜也は、静かに彼女を見下ろした。彼女の漆黒の髪の頭頂部、引き締まった横顔のライン、そして常に冷静沈着だったはずの瞳が、今は長い睫毛の下に覆い隠され、すべての感情を秘めている。だが、彼女の微かに震える指先が、彼女の内なる動揺の激しさを漏らしていた。酸味と熱を帯びた、形容しがたい感情が、彼の冷徹だったはずの心の最深部に、猛烈に突き当たった。
彼女が薬を塗布しようとしたその時、彼女の視線が、ふと脇に置かれたトレイに落ちた。そこには、傷口から拭き取られた少量の汚れた血液と組織液が載っている。彼女の動作が、唐突に停止した。瞳孔が微かに収縮する。
「待って」彼女の声は、微かな緊張を伴っていた。彼女は別の清潔な綿棒を取り上げ、極めて慎重に傷口の滲出液を少量採取し、鼻先に近づけて静かに匂いを嗅いだ。
その瞬間、彼女の顔色は一変した。
「この匂いは……おかしい。竜也、あなたを斬りつけたその刃物、何か塗られていた可能性があります」




