血桜
午前三時五十分、港区三号倉庫区。
月光は濃い雲に覆われ、数本の寂しい街灯だけが、湿った空気に黄昏色の光を滲ませていた。巨大な倉庫は、身を潜める巨獣のように、夜の闇の中で沈黙している。空気には、海水の塩気と、かすかな鉄の匂いが漂っていた。
倉庫内部には貨物は積まれておらず、がらんとしていた。一条組の精鋭たちは、獲物を待つ狼の群れのように、影の中に潜伏している。彼らの呼吸は静かで、眼差しは鋭い。竜也は二階の鉄製プラットフォームに立っていた。動きやすい黒の戦闘服は、ほとんど闇と同化している。彼は耳に通信機をつけ、冷静に各配置からの報告を聞いていた。
「一番隊、配置完了。入口異常なし」
「二番隊、配置完了。裏通路封鎖」
「三番隊は制高点。視界は良好」
時間は一秒一秒と過ぎていく。空気は、張り詰めた弓の弦のように緊迫していた。
午前四時ちょうど。
ナンバープレートのないバン数台が、幽霊のように音もなく倉庫区に滑り込み、予定されていた三号倉庫の扉の前に停車した。車のドアがガラリと開き、数十名の山口組の組員が、鋼管や日本刀を手に、次々と飛び出してきた。彼らの動きは迅速かつ秩序立っており、周到に準備されてきたことが窺える。
先頭に立っていたのは、柴田派の腹心で、「毒蛇」の異名を持つ佐久間だった。彼は残忍な笑みを浮かべ、手を振った。
「入れ!速戦即決だ。一条組のこの**『ブツ』を全て焼いちまえ!」
しかし、彼らが倉庫の扉を押し開けて飛び込んだ時、彼らの前にあったのは、予想されていた積み上げられた荷物や、まばらな守衛ではなく、空虚な空間と死のような静寂だった。
佐久間の顔色が変わった。「まずい!罠だ!引け!」
彼の声が終わる寸前――
「轟!」
倉庫の天井に設置された数台のサーチライトが一斉に点灯した。その眩いほどの白光は、倉庫の内部全体を白昼のように照らし出し、侵入者たちの狼狽した表情を白日の下に晒した!
「地獄へようこそ」
竜也の冷徹な声が、拡声器を通じて広大な倉庫内に響き渡り、聞く者に寒気を感じさせるほどの殺意を伴っていた。
次の瞬間、闇に潜んでいた一条組の精鋭たちが、黒い潮のように湧き出し、瞬く間に山口組の人間を分断し、包囲した。余計な言葉は交わされない。金属がぶつかり合う**「キン!」という音、刃物が肉を裂く鈍い音、そして突如として爆発した怒号と悲鳴だけが響いた。
竜也は二階のプラットフォームから一気に飛び降りた。その身のこなしは、獲物を狙う豹のようにしなやかだった。彼の手に握られた特製の黒い短刀は、サーチライトの下で致命的な弧を描いた。彼が通り過ぎる場所には、立ち向かえる者はおらず、その動作は簡潔で効率的だ。一撃ごとに、相手の関節や急所を正確に捉え、瞬時に戦闘能力を奪っていく。
鮮血が飛び散り、白い照明の下で、その赤は眩いほどだった。
乱闘の中、一人の血に飢えた山口組の男が、戦神のような竜也の姿を見て、敵わないことを悟ると、目標を竜也の隣で敵と揉み合っていた若い組員へと切り替えた。手にした鉈を、その組員目掛けて振り下ろした!
「危ない!」若い組員は仲間の叫びを聞き、振り返ったが、既に避けるには遅すぎた。
危機一髪の瞬間、竜也の眼差しが鋭さを増し、身を翻してその若い組員を強く突き飛ばした。彼の左腕は、そのために完全に避けることができなかった――
「チッ!」
刀身が彼の左上腕の外側を通過し、黒い服が瞬時に裂け、血が滲み出した。鮮血はすぐに袖を濡らした。
竜也は微かに眉をひそめただけで、即座に反撃。その短刀で襲撃者の手首を貫き、男の凄まじい悲鳴の中で、一蹴りで吹き飛ばした。
「若頭!」周りの組員はそれを見て激昂し、さらに猛烈な攻勢をかけた。
竜也は、自分の流血する左腕を一瞥した。その瞳の炎は、痛みによって、以前よりもさらに冷たい狂気を帯びていた。
「一人たりとも生かすな」彼は顔に飛び散った血を拭い、その声は九幽から来たかのように低く、最後の抹殺命令を下した。
戦闘は、サーチライトの容赦ない光の中で、一方的な屠殺へと変わった。倉庫内の最後の叫び声が静寂に帰した時、床には山口組の男たちが横たわっていた。
竜也は、その屍の真ん中に立っていた。腕の鮮血は指先を伝い、彼の足元に小さな濃い赤の血溜まりを作っていた。強光の下、彼の黒い姿は、血を浴びて帰還した修羅のように見え、周りには窒息しそうなほどの圧迫感が漂っていた。




