内部粛清
夜の色は墨のように深く、一条組本部の道場は、煌々と照明に照らされていた。普段は訓練に使われる広大な空間には、今、刀の刃よりも冷たい殺伐とした雰囲気が満ちている。コア幹部と関連する中堅組員は全員が招集され、それぞれの席に静かに座っていた。誰も口を開かず、空気に漂うのは抑圧された呼吸音だけだった。
竜也は主座に端座し、墨色の和服が、彼の面持ちを一層冷徹に際立たせていた。鈴原桜は彼の右脇、少し後ろの位置に座り、素朴な濃紺の和服姿で、まるで単なる傍聴者であるかのように平静を装っていた。
最後に、出席を求められた島田と、彼の配下数名が道場に入ってきた時、重厚な扉が彼らの背後でゆっくりと閉じられ、鈍い衝撃音を立てた。その音は、多くの者の心臓を震わせた。
竜也の眼差しは、実体を持つかのように、ゆっくりと会場全体を掃射し、最終的に、無理に平静を装う島田の顔に固定された。
「今夜、皆を集めたのは」竜也は口を開いた。声は決して大きくないが、一人ひとりの耳に明確に届き、絶対的な威厳を伴っていた。「一つ、公の場で清算すべきことがあるからだ」
彼は微かに手を上げ、傍らに控えていた黒田が、丁重に書類の束を彼の前の低いテーブルの上に置いた。
「組に、害虫が発生した」竜也の声は突如として冷え込み、氷の錐が静寂を突き破るかのようだった。「外敵である山口組と結託し、組の核心メンバーの動向を漏洩させ、あわや大禍に至るところだった」
道場内は、沈黙に包まれた。誰もが息を呑み、静かに、しかし意識的に島田の方へと視線を向ける。
島田は猛然と立ち上がり、侮辱されたかのような憤慨を顔に浮かべた。「少主!どういう意味でしょうか?この島田が、組に、貴方に不忠であると疑っておられるのですか!」
竜也は彼を一瞥だにしなかった。すらりとした指が、一番上の書類、銀行の振込記録のコピーを手に取った。
「先月十五日。貴様の秘密口座の一つに、海外のペーパーカンパニーから五百万円の送金があった。このペーパーカンパニーの実際の支配者は、山口組柴田派の資金の流れと密接に繋がっている」彼の口調は淡々としていたが、その一語一語が島田の心を貫いた。
島田の顔色は瞬時に青ざめた。彼は、かすれた声で反論した。「そ、それは通常のビジネス上の取引です!」
「ビジネス上の取引、だと?」竜也は冷笑し、その書類を置き、別の書類を手に取った。「では、説明してもらおう。なぜ貴様が常連のあのクラブで、夫人が襲撃される二時間前に、山口組柴田派の若衆と密かに会っていたのか?そして、貴様がその会合を終えて三十分も経たないうちに、夫人の通常の護衛ルートが**『臨時区域巡回』という理由で、二名減らされていたのか?」
島田の額から冷や汗が噴き出し、唇が震える。彼は何か言おうとしたが、言葉が出てこない。
竜也は、もはや彼に弁解の機会を与えなかった。彼は最後の数枚の写真をテーブルに放った。それは、さらに以前に、島田が柴田派の人間と、より隠密な場所で接触している様子を捉えたものだった。
「自ら白状するか」竜也の身体は微かに前傾し、その眼差しは、最も冷たい氷の獄のように、顔面蒼白の島田を威圧した。「それとも、俺が貴様の行ったすべての汚れた行為を、一つ残らず暴き出すのを待つか?」
証拠は完全かつ明確で、タイミングは完璧に合致していた。竜也の、魂を凍らせるような注視の下で、島田の心理的な防壁は完全に崩壊した。彼は、力の抜けた足で「ドサッ」と音を立ててその場に崩れ落ち、涙と鼻水を流しながら泣き叫んだ。
「お、少主!私がどうかしていました!柴田、柴田めが私を脅したのです!奴らが私の過去の弱みを握っていて……私には、どうすることもできませんでした!」彼はそう喚きながら、前へと這い寄ろうとした。
竜也の眼差しは冷酷で、まるでゴミを見るかのようだった。
その時、島田の後ろに座っていた、同じく顔面蒼白の若い幹部の一人が、その巨大な圧力に耐えきれず、激しく頭を地面に打ち付け、絶望的な泣き声で叫んだ。「少主、お許しください!島田に強いられたのです!彼が……彼は、事が成功した後、柴田が我々を港の新しいシノギに組み込むと約束したと……わ、私は知っています!奴らの明日の計画を!彼らは明日の午前四時に、港区の三号倉庫を襲撃する予定です!」
この予想外の自白は、静かな水面に投げ込まれた巨大な岩のように、道場内に抑圧された驚愕の声を響かせた。
竜也の瞳に、予期していた冷たい光が閃いた。彼はゆっくりと立ち上がり、地面に崩れ落ちた島田と、自白した幹部を見下ろした。
「引きずり出せ」彼の声は冷徹で、感情の欠片もない。「組の掟に従い、処断せよ」
数名の黒衣の組員が即座に前へ進み、顔色を失った二人を、まるで死体を引きずるかのように道場から連れ出した。残された者たちは、声を失い、深く頭を下げ、竜也と視線を合わせることを避けた。
竜也の視線は、再び会場全体を掃射した。今度は、血の警告が伴っていた。
「これが、裏切りの末路だ」




