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极道様と甘い復讐の時間  作者: 朧月 華


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第13話 幹部の査定

一条組本部の会議室は、道場以上に重苦しい空気が凝固していた。長大な黒檀の会議テーブルを囲むのは、組織の核となる幹部たち。一条竜也が主座に座し、鈴原桜は彼の右隣という、誰もが訝しむ特別な位置についていた。


会議が中盤に差し掛かり、新宿地区の縄張りにおける「保護料」の調整問題が議題に上った。鈴原桜は、事前に分析した周辺商業圏の業態変化と人流データに基づき、明快な調整案を提示した。その思路は理路整然としており、論理的だった。


彼女が発言を終えた瞬間、明らかに不満を滲ませた声が響いた。


少主わかとう!」発言したのは、道場で桜に冷たい視線を送っていた短髭の幹部、中村なかむらだった。彼は直接竜也に向き直り、古参の極道特有の率直さと傲慢さを滲ませた口調で訴えた。


「組のシノギに関わる具体的な事柄を、外部の人間、それも財閥のお嬢様にご指導いただくのは、いささか筋が通らないのではないでしょうか?彼女に、この裏の街の**『掟』が理解できますか?一つ一つの店の裏に絡む『因縁』が把握できますか?」


その言葉には、露骨なほどの攻撃性が含まれており、会議室の空気は一瞬で極度の緊張状態に陥った。他の幹部たちは沈黙を守っているが、その多くが中村の意見を傍観していた。


一条竜也の眼差しが、瞬時に氷のように冷たくなった。彼は口を開こうとしたが、桜が静かに手を上げ、自身で対処する意思を示した。


彼女は中村へと向き直った。その顔に怒りの色はなく、相変わらずの平静さを保っている。しかし、その瞳だけは、数段鋭さを増していた。


「中村先生」彼女の声は清らかで澄んでおり、静まり返った会議室に明確に響き渡った。「私の資格を疑問視されるのは、理解できます。では、逆にお伺いしたい」


彼女は中村の目をまっすぐに見据えた。


「組が管轄する新宿地区の三店舗において、上月分の『保護料』の収入が対前月比で15%減少しているのは、なぜでしょうか?」


中村は、まさか彼女からこれほど具体的な、しかも裏のデータを突きつけられるとは思わず、一瞬呆然とした。彼はその地域を任されているが、このような詳細な下落率と原因まで、正確に把握していなかった。


「そ、それは……自然な客足の減少、市場の不景気などが原因かと……」彼は言葉を濁そうとした。


しかし、桜は逃げる隙を与えなかった。彼女は手元のタブレットを取り上げ、事前に黒田に用意させた資料を開いた。


「客足の監視データと周辺の聞き取り調査によりますと、該区域の先月分の客足は横ばい、あるいは微増傾向にあります。真の原因は」彼女は冷静な視線を中村に向け、一語一語を明確に発音した。


「二店舗が、近隣の山口組系の団体の嫌がらせによって客足が阻害されていること。そして、もう一店舗の経営者の甥が山口組に加わり、意図的に上納金を滞納し始めていることです」


彼女は、中村が知っているはずの、しかし目を背けていた**「病巣」を、完璧なデータと分析によって露呈させた。


「これらの状況を、中村先生は、区域の責任者として把握しておられましたか?そして、それに対する有効な対策は、どのようなものでしょうか?」


彼女の質問は、的を射ており、すべてが事実に基づいていた。中村の顔は瞬時に青ざめ、口を開こうとしたが、言葉が出てこない。彼は状況をうっすらと知っていたが、桜ほど徹底的に、そして論理的に把握してはいなかった。そして、有効な手立ても打っていなかった。


会議室は静まり返った。他の幹部たちの、鈴原桜を見る眼差しは、完全に変わった。この令嬢は、若頭の寵愛を受けているだけでなく、驚異的な情報収集能力と、彼ら古参の幹部では気づかない商業的な弱点を見抜く能力を持っているのだ。


一条竜也は、椅子の背もたれに深く体重を預けたまま、中村が言葉を失う様子と、それに対する桜の冷静な態度を見つめていた。彼の眼底には、一瞬、極めて微かな満足の笑みが浮かんだが、すぐに消え去った。


彼は重い声で、沈黙を破った。


「中村、鈴原小姐の質問に答えろ」


竜也の冷徹な眼差しと、桜の平静だがプレッシャーのある問い詰めを受け、中村の額には冷や汗が滲んだ。彼は、先ほどまでの威勢を完全に失っていた。


鈴原桜は、それ以上追及しなかった。彼女はタイミングを見計らい、穏やかに視線を外し、何事もなかったかのように元の席に戻った。


しかし、彼女は知っていた。この一歩で、彼女は彼ら極道の男たちの間で、単なる**「若頭の女」から、「無視できない知性の剣」へと、その地位を昇華させたのだと。

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