第10話 朝食の約束
朝の光がブラインドの隙間から差し込み、床に明暗が交錯した光の帯を刻んでいる。
鈴原桜がちょうど鞄の整理を終えた時、ドアベルが鳴った。彼女がドアを開けると、一条竜也がいつもの仕立ての良い濃色のスーツ姿で立っており、その表情は相変わらずの冷徹な静けさを保っていた。
「行くぞ」彼は簡潔に言った。
「こんなに早く?」桜は少し驚いた。昨夜の「隣人宣言」の後、少なくとも少しの緩衝期間があると思っていたからだ。
「ついでだ」彼は背を向け、彼女に続くよう促した。その口調は当然のことであり、拒否を許さない。
マンションの下には、流線形の黒いセダンが音もなく停車していた。竜也が彼女のために後部座席のドアを開け、彼女が乗り込んだ後、彼は反対側に回り込み、自身も車に乗り込んだ。
車内は広々としており、淡い革とシダーウッドの香りが漂っている。それは、彼自身の匂いと同じだった。運転手は無言の黒田で、バックミラー越しに彼女に微かに会釈をした。
車はスムーズに朝のラッシュアワーの流れに合流する。
短い沈黙の後、竜也は精巧な二段重ねの弁当箱を彼女の前に差し出した。
「家の料理人が、ついでに作った」彼は前を見たまま、淡々とした口調で、本当に片手間で済ませたかのように言った。
桜はそれを受け取り、蓋を開ける。上段には完璧な焼き加減の玉子焼きと焼き魚。下段にはご飯と数種類のさっぱりとした彩りの野菜。どれも彼女の好物ばかりだ。これは決して**「ついで」でできる代物ではない。
「……ありがとう」彼女は小さく感謝を口にした。心の底に微かな波紋が広がる。このような細部にまで及ぶ気遣いは、彼の外見の冷徹さと特異な対比をなしていた。
「ああ」彼はそれだけ応じ、やはり前を見据えている。
車内には、彼女の微かな食事の音だけが残る。雰囲気は気まずくなく、むしろ奇妙な安寧に包まれていた。まるで、彼らはこの**「共に過ごす」という形式に、既に慣れているかのようだった。
朝食を終え、彼女が弁当箱を片付けた後、竜也が再び口を開いた。やはり公的な事柄を話すような口調だが、その内容は断定的な取り決めを伴っていた。
「伊藤家が来週、慈善晩餐会を開く」彼は顔を横に向け、彼女の顔に視線を落とす。「お前にはエスコート役が必要だ」
それは質問ではなく、通告だった。彼は自分の立ち位置を明確にし、彼女を彼の保護圏と行動の範疇に組み込んだのだ。
桜は彼の意図を瞬時に理解した。伊藤健は必ず出席する。これは、彼らが初めて、同盟者として、公の社交の場で潜在的な敵に対峙するシグナルであり、計画の一部だ。
「わかりました」彼女は少しの躊躇もなく、頷いて了承した。「準備しておきます」
竜也の口元が、ほとんど気づかれない程度に動いた。彼女の迷いのない対応に満足したようだ。彼は顔を正面に戻した。
車は、帝都大学の門前で静かに停車した。
桜は鞄を提げて車を降り、ドアを閉める前に、車内の彼に向かって言った。「朝食、ありがとうございました、一条さま」
竜也は彼女を見た。朝の光が車の窓越しに彼の彫りの深い横顔に落ち、その深淵のような瞳に、ごく薄い温かさが一瞬閃いた。
「迎えに来る」彼はそれだけ言うと、車の窓を上げた。
黒いセダンは音もなく走り去る。
桜は立ち尽くし、車が流れに合流して見えなくなるまで見送った。彼女はそっと手のひらを握りしめる。あの朝食の温もりが、まだ残っているかのようだった。
彼は、彼女の好みを知っているだけでなく、彼女のすべてを彼の管理と守護の中に組み込んだのだと、彼女は悟った。この完全に包み込まれている感覚は、強い侵略性を帯びながらも、不思議なほどの安心感を彼女にもたらしていた。




