第1話 桜の下、運命の再会
四月、東京。帝都大学。
新入生の入学式が終わり、深色のスーツやセーラー服をまとった人々が潮のようにホールから押し出されていく。道の両脇に咲き誇る数百本の桜の木々は、今まさに満開の盛りだ。粉雪のように舞う花びらが微風に煽られ、それはまるで、盛大で優しい雨を降らせているようだった。
鈴原桜は立ち止まり、そっと顔を上げた。
花びらが彼女の清楚な頬を撫でる。枝葉の隙間から差し込む陽光が、彼女の漆黒の瞳に細かな光の粒を宿した。周りは生命力に満ちた朝の活気に溢れているというのに、彼女の心は、まるで氷の海の底に沈んでいるようだった。
――戻ってきた。
十八歳の身体には、二十五歳で屈辱的な死を遂げた魂が宿っている。意識の最後に残ったのは、車内の吐き気を催すような甘い匂いと、電話越しに聞こえた鈴原翔太の冷たく嘘に満ちた「誕生日おめでとう」の言葉。
落ち着いて。今世、私はもう誰かの思い通りになる駒ではない。指先を掌に深く食い込ませる。この鮮明な痛みこそが、“新しい”世界と繋がる唯一の現実だった。
彼女は視線を上げ、習慣のように「大和撫子」という仮面を被った温和なフィルターをその瞳に重ねた。
しかし、そのとき。理性を超越した直感が、まるで運命に弾かれた弦のように、彼女の視線を引き寄せた。それは、ざわめく人々の頭上を越え、講堂の側面にある、ひときわ高く聳える一本の桜の木へと正確に投じられた。
――そして、時間が無形の手によって強制的に停止させられた。
彼女の呼吸も、心臓の鼓動も、すべてが一瞬で止まった。
雪のように舞い散る桜の向こう、その太い幹にもたれかかる、あの見慣れた黒い影。
その姿は松のようにすらりと伸びている。純黒の特注スーツは無駄なく身体に沿い、彼の持つ力強いラインを完璧に浮かび上がらせていた。その研ぎ澄まされた佇まいは、周りの青臭い学生たちとは一線を画している。彼は微かに俯き、横顔の輪郭は冷たく硬質だ。左の眉骨に走る浅い傷跡が、斑になった光の中で、極道の世界の危険と野性味を無言で物語っていた。
一条竜也。
前世の記憶の中で、常に彼女の後ろに付き従い、最も忠実で、最も冷酷な影のように振る舞っていた極道の若頭。そして、彼女の死後、最も凄惨な方法で復讐を果たし、自らの命を捧げ殉じた男――。
心臓を無形の手でぎゅっと掴まれたかのように、胸を締め付けるような酸味と激痛が、津波のように彼女を瞬時に飲み込んだ。
彼もまた、彼女のあまりにも集中しすぎた、ある種の“重み”を帯びた視線を感じ取ったのだろう。一条竜也が、弾かれたように顔を上げた。
鋭い鷹のような眼差しが、騒がしい人混みと舞い散る花びらを貫き――正確無比に、寸分の狂いもなく、彼女を捉えた。
「――ッ」
世界の音は、一瞬にして遠のいた。
彼の瞳は、もはや記憶の中の“静かな古井戸”ではなかった。その奥には、生死を超えた信じられないほどの衝撃、失ったものを再び得たことによる、彼自身を焼き尽くさんばかりの狂喜、そして過去への深すぎる痛みと後悔が――あまりにも多くの、激しい感情が渦巻いていた。
最終的に、すべての感情が、彼女を飲み込まんばかりの、熱く、一途な**“確認”へと収束した。
彼は彼女を見つめている。まるで、果てしない荒野を何千年と彷徨い続けた旅人が、ようやく唯一のオアシスを見つけたかのように。
桜は、その視線の持つ千鈞の重さと、自身の魂の奥底と同源である、過去の歳月から来る悲鳴と執念をはっきりと感じ取った。
――彼もまた、戻ってきたのだ。
この確信が、彼女の全身の血液を沸騰させ、そして急速に冷却させた。
彼の身体が一瞬で硬直する様子、そして脇に垂らされた手が反射的に握りしめられ、西服の縫い目に強く押し付けられているのが見えた。極度の力で指の関節が白く浮き上がり、手の甲には青筋が浮かんでいた。彼は今すぐ、この邪魔な人混みを切り裂いて、彼女の元へ駆けつけたいのだろう。だが、それはあまりにも巨大で、激しい感情によって、その場に縫い止められている。
鈴原桜は深く息を吸い込み、胸の奥で荒れ狂う感情を抑え込んだ。
前世、彼女は死ぬまで、自分たちはただの他人だと信じ込んでいた。しかし、今この瞬間になって、ようやく悟った。自分が何を間違え、そして彼が一人で何を耐え忍んでいたのかを。
――二度と、間違えてはいけない。
今度こそ、運命の輪は彼ら自身の手で回すのだ。
舞い散る桜吹雪の中、周囲の人々の好奇や驚きに満ちた視線の中で、鈴原桜は背筋をまっすぐに伸ばした。彼女の足取りは優雅でありながらも確固としており、一歩また一歩と、迷いなく、輪廻を覆したその男へと歩み寄る。
彼と一歩の距離で立ち止まり、顔を上げて、その底の見えない、感情に満ちた瞳を見つめ返す。
周囲のすべての喧騒は、すでに遠い場所へ消え去っていた。
彼女は微かに口角を上げ、悟り、試探、そして運命の共鳴を帯びた弧を描く。そして、静かに口を開いた。それが、重生後の彼女の最初の言葉となる。
「一条さま、お久しぶりでございます。」
清冽なその声は、まるで凍てついた湖に投げ込まれた石のように、彼の心に滔天の荒波を巻き起こした。
一条竜也の瞳孔が、強く収縮した。彼は、目の前の魂に刻み込まれた顔を凝視する。千の言葉が喉元で渦巻き、ぶつかり合う。喉仏が激しく上下し、すべての荒々しい感情が無理やりに押さえ込まれた。それは、低く、掠れていながらも、岩盤のように揺るぎない決断を秘めた、たった一言の返事となった。
「……ああ。」
一瞬の間を置き、彼の眼差しは、最も強固な枷のように彼女を絡めとった。
「今度こそ、二度と手放さない。」




