迷子になりました
しばらくすると目が覚めた。
どこかの丘の上だろうか。乾いたそよ風が心地いい。
「ここが.....異世界か.....」
パッと見、元居た世界となにも変わらない気がする。
青い空、白い雲。太陽が輝いていて、地面は雑草が生い茂っている。
すこし先には川が見える。水も流れているらしい。
「なんだか実家を思い出すな。」
奏翔の実家はかなり田舎で、祖父母は畑で野菜をつくっている。子供の頃は夏休みによく行って、とれたてのトマトやキュウリをかじっていた。
「さてと。どうするかな。」
転移されたはいいものの、どうしようか。
.....ん?これ、本当にどうしようか?
「人通りもないな.....というよりそもそもここどこだ?」
少し歩いてみる。こういう時は水場の確保が優先だと某サバイバルチャンネルで学んだ。
川に近づいてみると......おお、魚だ。こっちの世界にもいた。
「釣るにしてもなにもないしな......ちょっと移動しよう。村か町が近くにあればいいけど。」
20分ほど歩いただろうか。なにやら整備.....?はされていないが、乗り物が通っている形跡がある。
「馬車でも通ってるのか....?なんにせよ、これしか手掛かりがない。跡に沿って歩いてみよう。」
少し進んだところで物音がした。あれは......馬車だ。ほんとにあるんだ。
乗せてもらうか?でも一文無しだしなあ.....どうしようか。
迷っていると、逆に声をかけられた。
「お~い!こんなとこでなにやってんだ~?」
銀色の鎧にカブトをつけた、いかにもな人がこちらへ叫ぶ。
よくよく見てみると、馬車の中には某魔術学校にありそうな帽子を被っている人や、中世って感じの刺繡の入った服を着たおじさんもいる。
「どうした坊主、迷子か?」
「え?あー......まあそんな感じです」
迷子になった。この年で迷子になるとは。
でも間違ってないしな......ここは素直に迷子になるか。
「そうか、ならノーディアまで乗ってけ!俺たちが守ってやる!」
「ノーディア.....?あっ、いいんですか!?」
「あったりまえよ!坊主一人見捨てるほど俺たちぁ落ちぶれてねえ!」
ありがたい。正直これからサバイバル生活でも始まるのかと思っていた。
ノーディア.....がどこだかわからないが、たぶん町の名前だろう。
手招きするいかついおっさんに釣られるように、僕は馬車に乗り込んだ。
「俺は冒険者のウィルってもんだ。見ての通り冒険者パーティを組んでてな、今はこのおっさんの護衛をしてんだ」
「ちょっとウィル!おっさんなんて言い方やめて!.....あ!あたしは同じパーティのリル!よろしくね!」
「いえいえ、いいんですよリルさん。私は商人をしているグランと申します。今回は私の護衛依頼でして。」
「そんで坊主、どっから来たんだ?この辺の出身か?」
どうも今回はこのグランさんの護衛でここを通りがかったらしい。ありがたや。
さて、どうしようか。出身はこの辺じゃないし、かといって町の名前も知らないしな.....
適当に誤魔化すしかないか。
「いえ、僕実はかなりの田舎の出身でして、家族とともに山奥に暮らしていたんです。一人前になったので家を出て、町に行く途中で迷子になってしまい.....」
「そうか.....なるほどな。まあ町までは俺たちが守ってやるから安心しな!なにかあればこのウィルに言え!」
ずいぶん豪快だ。でも同じ男としてちょっと憧れる部分もある。
「坊主!名前は?」
「あ、奏翔です。春谷奏翔っていいます。」
「カナトか!苗字があるなんて珍しいな!貴族か?」
しまった。名前だけでよかったか。
「いえ!辺境に住んでいたので貴族なんて......!」
「そうなのか。てっきり飛ばされた貴族様なのかと思ったぜ!ガハハ!!」
.....どういう顔をすればいいんだ、こういう時。
「ノーディア.....にはここからどのくらいかかるんですか?」
「そうね.....だいたい半刻くらいかしら?」
半刻ってなんだ。わからぬ。
そういえば言葉がわかるのは神様のおかげなんだろうか。
あの時はパニクってて聞けなかったけど、神様に感謝だ。
「ここの辺りは魔物の数も少ないし、疲れてるだろうから休んでていいわよ。」
「そうですか?.....ありがとうございます。実はけっこう歩いて足がくたくたで。」
「ガハハ!男は体力つけんといかんぞ!俺を見てみろ!フンッ!」
ウィルさんが筋肉をムキっとした。いや、体力関係ないでしょ、それ。
「ウィルのバカはほっといて、ゆっくりしなさいね。」
「なんだと!?」
僕は久しぶりに感じた人との会話に安堵しながら、到着を楽しみにしつつ眠りについた。
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