9話 新しい生活の始まり
⸺⸺翌朝から、私の新しい生活が始まった。
朝はゼンマイ式の目覚まし時計で起きて、カーテンを開けてベランダで深呼吸。
顔を洗って髪をとき、買ったばかりのワンピースに着替えてローラさんと一緒に1階の庭でバシャバシャ洗濯。大変だけど、おしゃべりをしながらの洗濯は楽しかった。
ローラさんは自分の部屋のベランダに干しているみたいだけど、私はあんまり気にしなかったので庭の共同の物干しへ干した。
既にクウガさんの干している洗濯物もあり、クウガさんは夜に洗濯しているんだなと思った。
洗濯が終わるとすぐ隣の安らぎ亭へ出勤。「おはようございます!」と元気に挨拶をして、朝食作りのお手伝い。
朝ご飯は白米に焼き魚、味付け海苔と煮物にだし巻き卵にお味噌汁。まるで旅館の朝食だ。
食器の洗い物を終えると、安らぎ亭の共用部分の掃き掃除に拭き掃除。
チェックアウトをして旅立っていくお客さんを建物の外までお見送り。
「ご利用ありがとうございました。お気を付けて行ってらっしゃいませ!」
「また来るのだ♪」
ファムと一緒にペコリとお辞儀。顔を上げるとすぐに“魚人族”のお姉さんに話しかけられた。
「あっ、あなた、昨日オベロン陛下と一緒にいた人間の子よね? もう働いてるの? ここが安らぎ亭?」
「はい! ここが安らぎ亭で、昨日から働かせてもらっています」
「偉いわね〜。お部屋は空いているの?」
「はい、今2部屋空いたところです。午後にはチェックイン出来ると思います。ご予約もうたたまま……あれ? うけたまま……あれ!?」
「うふふふふ♪」
いくら前世の記憶があっても、身体は7歳児で心も7歳児に染まってしまっている私。発音が厄介な言葉はろれつが回らなくて苦戦……。
「ゆっくりで良いわよ。もう1回言ってみましょ♪」
優しい魚人族のお姉さん。
「はい、えっと……ご予約も、う、け、た、ま、わっております……! 言えた!」
思わずぱぁっと笑顔になると、お姉さんも盛大な拍手を送ってくれた。
「おめでとう! じゃぁ、予約をして行こうかしら♪」
「ありがとうございます! こちらへどうぞ!」
安らぎ亭の扉を開けて、お姉さんを中へ招き入れる。
「噛んだおかげでお客さんをゲットしたのだ」
「ちょ、ファム、余計なこと言わないで!」
「ふふふふっ♪」
こんな感じで今日もお部屋は満室に。私たち従業員は16時で業務はおしまい。
⸺⸺
お仕事の終わった私は、晩御飯までの間『世界樹のダンジョン』と呼ばれる世界樹の地下に広がるダンジョンでクラフトの素材を採取していた。
場所は世界樹の洞窟に入って左の通路を進んだ先だ。
⸺⸺世界樹のダンジョン、初級の森B1F⸺⸺
ダンジョンに潜ってすぐのフロアは森のフロア。B10Fまで続いており、B10Fのボスを倒すと次のB11Fへと進めるらしい。
「本当に魔物が寄って来ない……」
「世界樹の祝福の力なのだ」
あちこちで初期装備の冒険者が魔物と戦闘をしている中、私のところには一切魔物が寄ってこなかったため、黙々と素材の採取をしていた。
「これがハゼの実だね。いっぱいなってる。いっぱい採っていこう」
「手伝うのだ」
ファムと一緒にプチプチ実をちみっていると、背後から「シルフィじゃねぇか! ここダンジョンだぞ!? 分かってんのか!?」とクウガさんの声が聞こえてきた。
「あっ、クウガさん。うん、分かってるよ。魔物が寄って来ないから、最初のフロアで採取しようと思って……」
「世界樹の祝福か! マジか、最強じゃねぇか……。つーことは、パーティ組んでB11Fまで連れてってやれば、次の“初級の火山洞窟”も自分で好きなように採取出来る事になるな」
「えっ、連れてってくれる!?」
「おうよ。お前、何でも自力でやりたがりだから、素材を採って来てやるよりこっちのが良いだろ? これなら俺に頼るのはB11Fまで行く1回きりだもんな」
「ありがとう! クウガさん!」
そんなこんなで毎日行けるところまでクウガさんに付き合ってもらい、少しずつ下のフロアへと進んでいった。
1度到達したフロアは転送魔法陣でいつでもどこでも好きなフロアへ飛んでいける。
そして5日かけて、B11Fのフロアへと到達したのである。ちなみにB10Fのボスはクウガさんが愛用の大剣でワンパンした。
“初級の火山洞窟”のフロアは、主に鉱石を採掘出来る。クラフトで作った自前のピッケルでトンテンカンテン、黙々と鉱石を掘り出していく。更に、“魔石”と言う鉱石もそこら中に転がっており、何に使うのかはよく分からないけれど、とりあえず拾っておいた。
⸺⸺
そんな毎日を繰り返すこと1ヶ月。遂にルシールさんより初任給をいただいたのである。
⸺⸺安らぎ亭1階、リビング⸺⸺
「初めてのお給料……! えっ、1万クレド札が……20枚もある! こんなに良いんですか!?」
私は封筒の中身を数えてガクガクブルブルした。
「おっ、俺も先月より3万Cも増えてんじゃねーか!」
「私も3万増えてる!」
大はしゃぎの従業員の3人。
「おかげさまで、この1ヶ月満室続きだっただろ。それは、シルフィちゃんの頑張りと面倒見の良いあんたたち2人のおかげだよ。3人ともありがとうね。これからも頼んだよ」
「はい!」
私たちは声を揃えて返事をした。
⸺⸺
私は早速1万クレド札をポシェットへ入れて、近くの本屋さんへと向かった。
「何を買うのだ?」
と、ファム。
「あったあった、これだよ!」
手に取った本は、
『魔力の全て』オベロン/著 2500C
「私、これで、この世界の魔力の仕組みを勉強するんだ♪」
「なるほど、どうしても電化製品に変わる何かを生み出したいのだ?」
「そうなのだ♪」
それで私は、安らぎ亭の人たちに。そしてこの国の人たちに、恩返しをするんだ!