終話 妖精王と空のお散歩
あれから更に数ヶ月が経って、私は8歳になっていた。
魔導具に興味を持ったドワーフ族の職人たちが、魔力を持つエルフ族や魚人族、そして人間族を誘って私のもとへと弟子入りをして魔導具の研究。
魔導具には魔導ランタンのように仕組みが単純明快な物もあれば、明暗センサー付きの魔導街灯のように仕組みが“?“となってしまう物もある。
それを4種族で力を合わせて解明し、私には4人の魔導具職人の弟子ができた。彼らによって私のスキルがなくても魔導具が作れるようになり、正式に“魔導具職人“という職業が誕生したのである。
これにより魔導具はあちこちの国で気軽に買えるような物になり、キャットシルフィの客足も開店当初に比べるとやっと落ち着いてくれた。
⸺⸺ある定休日の午後。
『シルフィ、今日はどこかへ出掛けているのか』
そうオベロン王から念話が入る。
『ううん、今日はどこにも行ってないよ。みんなでリビングでゴロゴロしてる』
私がそう返すと、ファムも『日向ぼっこなのだ』と念話で続いた。
『暇なのであればシェアハウスの上空へ来い』
ここの上空に……? なんでまた……とも思ったけれど、暇なのは事実だったので『分かった、今行く』と返事をした。
みんなに出掛けてくると伝えて妖精伯の羽根を出現させてファムと共にシェアハウスから飛び立つと、すでに上空にはオベロン王が浮かんでいた。
「お待たせ!」
「いや、待ってはいない。早かったな」
「まぁ、暇だったからね……」
「ひまひま星人だったのだ」
「……そうか。実は、私もだ」
「……知ってる」
オベロン王が暇な時は平和な証拠。逆に忙しい時は問題が起こってるから大変だ。
「……というわけで、空の散歩と行こうではないか。お前が初めてここに来た時も一緒に上空を飛んだのを覚えているか」
「うん、覚えてるよ。あの時はまさか森の奥にこんな世界が広がってるなんて思いもしなかったなぁ」
「あの時とはまた見える景色も違ってくるはずだ。私は最近それを強く感じる」
「本当? じゃぁ、早速行ってみよう」
どんどん高くに上昇していく。オベロン王がかけてくれた魔法のおかげで上空の寒さもへっちゃらだ。
まず見えてきたのは大きな大きな世界樹。私はこの世界樹で加護を受け、そこから私の新しい生活が始まったんだ。
次に向かったのは大陸の中央に位置する荒野地帯。ここに大陸中の大きな街道が集まっているおかげで、馬車でどこへでも行くことができる。最近この街道の集まりの中にフリシア王国への街道も整備された。その街道を進んでいくと“シルフィ街道“へと繋がり、フリシア王国へと行くことができる。
「そっか、見える景色が違うっていうのは、人間族のことなんだね」
フリシア王国への街道を辿っていくと妖精の森があり、その先にはフリシア王国が広がっていた。妖精の森がまだ魔の森と呼ばれて結界が張られていた頃は、魔の森より先の風景は上空からでも見ることができなかった。ぼんやりとして、ずっと森が続いているように見えていたのだ。
「あぁ、一度でいいからお前にもこの目に見えて変わった景色を見てもらいたかったのだ。これを、まだ8歳になったばかりの少女が成し遂げたのだと思うと、感慨深いではないか」
「それって、私のこと?」
「他に誰がいる」
「うーん、私が1人でやったんじゃないからなぁ」
「確かにお前1人の力で成し遂げた訳ではないが、この世界が繋がろうとしていた輪の中心にお前は確実にいた。お前が日々直向きにコツコツ努力を重ねてきた結果がこれなんだ。お前の努力に感化された世界の王たちが動き、そして世界は1つになった」
「あはは、なんか恥ずかしいなぁ……」
私は照れて街道の集まる荒野を見下ろした。このちょうど真下に、ドワーフ族の王国である“ヴォルカノ王国“が広がっている。そこでドワーフの職人に魔石について教えてもらって、そして魔導具が誕生したんだ。
「そっか、オベロン陛下はさ、私を魔の森で助けてからずっと見守ってくれていたんだね。私が世界樹の麓に来た時とか、ヴォルカノ王国に行った時とか、初めて町単位の街灯の依頼を受けた時とか、大事な事は全部オベロン陛下が導いてくれた。私ね、オベロン陛下の事は“お父さん“だと思ってるよ」
「……私は、家族を持つことは許されてはいないし、それに、お前にはちゃんと父親がいるだろう」
「ローザン伯爵は、私の“お父様“。オベロン陛下は、“お父さん“だよ。家族を持った訳じゃない。だって一緒に暮らしてはいないし、役場で手続きをした訳でもない。ただ、お父さんだって思ってるだけ。それなら家族を持ったとは言わないでしょ?」
オベロン王は少し目を見開くと、しばらく言葉を失った。私がニッコリと微笑みかけていると、彼はやがてこう言った。
「……屁理屈だな。だが、認めよう。私もシルフィの事は娘のように思っている。ティターニアもこの事には気づいているはずだ。だが、私は未だ妖精王でいることができる。このグレーゾーンをティターニアが許してくれているのは、きっとシルフィだからだ。ありがとう、お前は、私のこの何百年という長い年月の中でできた、ただ1人の娘だ」
「そっか。何百年も1人じゃ寂しいからね。その内の何十年かは、1人じゃなくたってバチは当たらないよ」
私はニッと笑うと、もっと大陸中を見て回ろうとスィーッと飛んでいった。
「……ありがとう、愛しき子よ」
「何? 今何か言った?」
「独り言だ。さて、ウェント山脈の上空にでも行こうか」
「テオの実家があるところだね。行こう行こう!」
テオの実家であるホークアイズ家に私も仲間入りする事になるのは、まだ10年以上も先の話。
⸺⸺完⸺⸺
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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