7話 クラフトの可能性と宿屋のお仕事
みんなでレシピブックをペラペラと捲り、どんな物があるかの確認をする。
白紙ではないページには、桶や樽、箒等々、この世界での生活必需品でありそうな物が並んでいた。
それでも25ページしか埋まっておらず、300ページくらいが白紙のままだ。
「今ページが埋まっている分は、シルフィの今のスキル経験値とこの世界の知識で出来る物しか載ってないのだ」
と、ファム。
「スキル経験値……この世界の知識……」
スキルの経験値はまだゼロに等しいし、この世界の知識は今まで令嬢としてポヤポヤ生きてきたからこれもほぼないに等しい。
「それなら、これからこの町で生活して色んなことを知って、たくさんクラフトしていけばもっと作れるものが増えていくってことね♪ ここでの暮らしはみんなで教えてあげれば良いわね」
と、ローラさん。クウガさんもこう続く。
「なら、素材は俺がダンジョンとかあっちこっちで集めてやるよ!」
「本当……!? ありがとう! うん、私、たくさん勉強してもっと色んな物が作れるようになりたい! それに……この白紙のページ……ひょっとして“電化製品”も載っていたんじゃない?」
私はそう言ってファムの方を見る。ファムは「んにゃ」と頷いた。
「良い観点なのだ。その電化製品がこの世界には合っていなかったから、ティターニア様が変更を加えたのだ」
「ってことは……電化製品に置き換わる何かがあるって事だよね……」
「それは、シルフィの理解と発想で新たなアイテムが生み出される可能性はあるのだ。今のところは、まだ置き換わったアイテムは何もないのだ」
「私の理解と発想……。そっか、アイテムを発明できるって事か! わぁ、考えるのすごい楽しそう♪」
私はキャッキャとはしゃぐ。
「あはは、早速やりたいことが見つかったかな?」
と、ローラさん。
「うん♪」
この世界に存在している“魔法”という技術。その魔法のエネルギーをなんとかしてアイテムに取り入れられないかな?
そもそも魔法とは何か。魔力とは何か。勉強しなくちゃいけないこと、たくさんあるな。
でも、それだけこの世界のことを知ることが出来るということ。
「えへへ、楽しみだ……♪」
思わずそう声に出してしまってふにゃっと笑うと、みんなは「可愛いっ!」と悶えてしまっていた。なんだか恥ずかしい……。
⸺⸺
クラフトの話はとりあえず終えて、宿屋のお仕事を一通り教えてもらった。
この世界の宿屋さんは素泊まりが基本。宿屋さんを利用するのは冒険者や旅行者で、みんな酒場で食事を取るのが普通だ。
だから宿屋さんのお仕事は、“快適な寝床の用意”。これに尽きる。
カウンターで受付をして、宿泊料金をもらって空いているお部屋の鍵を渡す。
お客さんが帰ったらお部屋の掃除やベッドのシーツの洗濯をして、また空き部屋へ。この繰り返しだ。
安らぎ亭は4階建てで30部屋。建物は結構大きめだけど、ほとんどの日が満室にはならないそう。世界樹の周辺は宿屋でひしめき合っているため、お客さんが分散してしまうのだそう。
ダイニングでお昼ご飯をいただくと、早速ルシールさんと共にロビーのカウンターへとスタンバイした。
ドワーフでもカウンターから顔が出せるように踏み台が置いてあったため、私のような子どもでもカウンターから顔が出せた。
早速お客さんが入ってくる。あっ、世界樹の洞窟で今日ここに泊まろって言ってたお客さんだ! 本当に来てくれたんだ♪
「いらっしゃいませ!」
笑顔で出迎える。
「おっ、早速仕事してるじゃねーか!」
背中に鳥の翼の生えたお兄さん。立派な槍を背中に背負っている。きっと冒険者の人だ。
「はい! えっと……1泊2000Cになりますが、ご利用になりますか?」
言えた……! 嬉しくて隣に立っているルシールさんをチラ見すると、手でグッドサインを作ってくれた。
ちなみに“クレド”と言うのがこの世界の通過だ。
「あぁ。2泊頼むよ」
「2泊分のご利用ですね。4000Cになります」
「1、2、3、4……っと。はいよ。4000Cだ」
お客さんは“1000C”と書かれた紙幣を4枚カウンターに置いた。
「ありがとうございます。4000Cちょうどいただきます。それではこちら、302号室の鍵のお渡しになります。3階に上がって……えっと……」
壁に掛かっている安らぎ亭のマップをチラッと確認する。ルシールさんもお客さんもはにかみながら見守ってくれた。
「あっ、3階に上がって左手にございます。ごゆっくりどうぞ!」
「すごいじゃないか! お金の計算もちゃんと出来るし、言葉遣いも丁寧だし、女将さんも優秀な看板娘を雇ったな」
と、お客さん。ルシールさんは「あっはっは。そうでしょう? ごゆっくりどうぞ♪」と笑っていた。
お辞儀をして宿屋の奥に入っていくお客さんを見送ると、ふぅーっとひと息吐いた。
「ルシールさん、ごめんなさい。ちょっと分からなくなっちゃった……!」
私がそう言ってペコペコと頭を下げると、ルシールさんは笑いながら私の肩をバシバシと叩いた。
「何言ってんだい! 初めてであんだけ出来れば上等だよ! お客さんもシルフィちゃんに接客してもらえて嬉しそうだったじゃないか。今日はこの調子で受付を頑張ろうねぇ♪」
「ルシールさん……! うん、頑張る♪」
それから続々とお客さんが入ってきて、15時過ぎには満室になったので建物の外に掛かっている看板を『空き有り』から『満室』へクルッと回した。