6話 クラフトで気付いた事
「あれ、真っ白なんだけど!」
私が適当に開いたページは、全く何も書かれてはおらず、真っ白だった。
「もっと前を開いてみるのだ」
ファムにそう言われて狂ったようにどんどん前のページへ捲っていく。
すると、しばらく真っ白なページが続いたけど、あるページから突然アイテム図鑑のようにイラスト付きでアイテムの説明が始まった。
「あっ、なんか書いてある!」
左側の20ページの上半分には“蝋燭が、下半分には“キャンドルランタン”が載っている。右側の21ページの上半分は“オイルランタン”、下半分は“キャンドルランプ”だった。
なんか……前世の世界では一昔前の照明ばっかりだ。ちなみに、20ページの左上には『照明』という見出しが付いていた。
「マジかよ! “ハゼの実”を3粒用意すりゃぁ蝋燭が出来んのか!?」
クウガさんは突然大興奮をする。
「クウガ、あなた道具屋に売ってない分があるんじゃない?」
と、ローラさん。
「おうよ! つーか、“砂”と“スチール鉱石”と“蝋燭”で“キャンドルランタン”っつーのも気になるぜ……。全部俺の部屋から持ってくるからちょっと待ってろよ!」
クウガさんはそう言って大慌てで裏口から出ていった。
彼の興奮ぶりに違和感を覚えた私は、今いるリビングダイニングをキョロキョロと見渡す。
柱には21ページに載っていたキャンドルランプが、天井を見上げると、蝋燭が4つ付いたシャンデリアが吊るされていた。
ハッとしてレシピブックのページを1ページ捲ると、“キャンドルシャンデリア”という名前のアイテムが載っており、私の真上に吊るされているものと同じものだった。
「あれ!? もしかして……電気、ない……!?」
「「電気?」」
と、同時に首を傾げるローラさんとダグラスさん。
そう言えば、お屋敷で暮らしていたときも、自分でやることなんかほとんどなくて気にしていなかったけど、メイドさんが蝋燭に火を着けたり消したりしていたかも……。
「どうやらシルフィは気付いたようなのだ」
と、ファム。
「な、何を!? 電気ってやつ!?」
食い気味なローラさん。
「うん……私の前世の世界では、お部屋の明かりはスイッチ一つで全部付いて、消すときもスイッチ一つなの……」
「「魔法ってこと?」」
と、2人。私はううんと首を横に振る。
「魔法なんてすごいものはなくて、例えば物を燃やしたときに発生するエネルギーを“電気”っていう力に変えて、その力で明かりを付けていたんだよ」
「なんと……魔法に変わる電気という力か……。その力を使うには、魔力のように生命エネルギーか何かを消費したのか?」
と、ダグラスさん。
「ううん。電気のエネルギーをお金で買って、そうすれば誰でもスイッチ一つで使えるの」
「「エネルギーをお金で買う!?」」
と、2人。めちゃくちゃ驚いてる……。
「それってつまり、魔法のエネルギーをお金で買えば、私みたいな魔力を持たない種族でも蝋燭の灯りを一瞬で着けて、一瞬で消せるってこと? すごくない……?」
ローラさんは大興奮している。そうか、獣人族は魔力を持たないんだ。
「ダグラスさんたちドワーフさんは、魔力があるの?」
私がそう尋ねると、ダグラスさんは「あぁ、そうだよ。訓練次第でこういう事が出来るようになる」と言って、柱に付いているキャンドルランプに手をかざした。
すると、ダグラスさんの周りにふわっと風が起こり、柱に付いていたキャンドルランプにボッと火が灯った。
「おぉぉぉ、すごい! それが魔法!? カッコいい……!」
今度は私が大興奮。
ダグラスさんは「はっはっは。普通のことをしているのになんだか照れるなぁ」と笑いながらもう一度手をかざしてキャンドルランプの火を消した。
「ただいまー! 素材、持ってきたぜ!」
クウガさんが裏口から舞い戻って来る。彼はレシピブックの隣に何かの実を20粒くらいとグレーの模様の入った石ころ、そして、小さな巾着袋をポスッと置いた。
「これが、ハゼの実?」
「おうよ。この実がなる“ハゼノキ”ってやつはそこら中に生えてるから、気にしないで使ってくれ」
「分かった、ありがとう。じゃぁ、早速蝋燭を作ってみようかな……」
レシピブックのページを1つ前に戻してもう一度蝋燭のレシピを確認する。
⸺⸺⸺⸺
【蝋燭】
必要素材
・ハゼの実×3
消費魔力
2
⸺⸺⸺⸺
「目の前に必要素材を置いて両手をかざし、クラフトしたいアイテムと“クラフト”という呪文を詠唱するのだ」
と、ファム。
「なるほど……とにかくやってみよう。ハゼの実を3粒置いて……こうかな? 『蝋燭をクラフト!』」
両手をハゼの実の上にかざしてそう唱えると、3粒のハゼの実が光に包まれ、やがて光が収まると1本の蝋燭が出来上がっていた。
「おぉ、出来た……!」
思わず感動。
興味津々に見ていたみんなは、
「すげぇぇ!」
「えっ、まさか、こうやって色んなアイテムが一瞬で作れるってこと!?」
「ワシの魔法よりも……全然すごいじゃないか……」
と、絶賛してくれた。
「これが、クラフトのスキル……」
なんか、私の好きだったお店経営のゲームみたい。あれも確か蝋燭と鉄でランプを作っていたような……。
まさか、私が前世で好きだったものがスキルになったの……?
「ちなみにシルフィの魔力を数値化すると2000を超えているから、ほとんどのアイテムは消費魔力は気にしなくて良いのだ♪」
と、ファム。
「2000……1日に蝋燭1000個作れるぜ……」
唖然とするクウガさん。なんかそれは別の意味で気が狂いそうだ。
⸺⸺その後。
⸺⸺⸺⸺
【キャンドルランタン】
必要素材
・蝋燭×1
・スチール鉱石×1
・砂×10g
消費魔力
5
⸺⸺⸺⸺
さっき作ったばかりの蝋燭と石ころと巾着袋の中に入っていた砂を使ってキャンドルランタンをクラフト。
スチール鉱石×1って何? gじゃないの? って感じだけど、鉱石は掘り出すと全て一定の大きさで採れるそうなので、1つ2つと数えるようだ。
レシピに載っていたランタンと全く同じシンプルなものが出来上がり、周りは「おぉぉー!」と盛り上がった。