56話 地下都市再び
私たちはニコラス王から魚人の国『ピスキス王国』への招待状をもらってユグドーラ城へと一時帰宅。
私とクウガ、テオにローラの4人で出かけることになり、それぞれ旅の疲れを癒やし、再び旅に出る準備をしていた。
私は都市国家ホークアイズとピスキス王国の王都に魔導街灯を取り付ける仕事もあるので、しばらく転送魔法であちこち飛び回りながら生活することになりそうだ。
ローラもローラで何か新作を模索しているようで、今後のカフェが楽しみでしょうがない。
⸺⸺翌日。
「じゃぁ、行ってきます!」
ユグドーラ城のみんなに「行ってらっしゃいませ!」と見送られて、まずは転送魔法でドワーフの国であるヴォルカノ王国へ。
⸺⸺ヴォルカノ王国、地下都市ヴォルカディス30F⸺⸺
「わぁ、懐かしい……! ここで魔石の事を教えてもらってから、私の生活が一変したんだよなぁ」
私はフロアの柵に手をかけて、そのドーナツ状の都市を一望した。確か初めて来たときもこうやって見渡して感動したんだったよなぁ。
「なるほど、ここが魔導具誕生の聖地という訳だね。ありがたや、ありがたや」
なぜかそう言って中央の吹き抜けに向かって拝み始めるテオ。彼は相変わらず魔導具信者だ。
⸺⸺
私たちがピスキス王国を訪ねる前にここを訪れた理由は、このヴォルカノ王国が“中継地点”であるのとローラの“ある修行”のためだった。
「まずは、デイヴィット王への謁見だね」
私はオベロン王から、小人王であるデイヴィット王へ預かっている親書を握り締めてそう言った。うんと頷く一同。
「ルシールさんとダグラスさん、会えるかしら?」
と、ローラ。クウガも「会いてぇなぁ。相変わらず元気にしてんだろうなぁ」と続いた。
⸺⸺30F 王の間⸺⸺
王の間への入り口で妖精伯だと名乗り、証拠の妖精の羽と世界樹の精であるファムを見せると、すぐにみんな揃って中へと通してもらえた。
衛兵さんに玉座まで連れて行ってもらうと、そこにいたのはルシールさんにダグラスさん、そして、ダグラスさんにそっくりなおじさんが玉座に腰掛けていた。あのお方が小人王、デイヴィット王……!
「みんな、久しぶりじゃないか! よく来たね!」
と、ルシールさん。やっぱり元気いっぱいだ。
「みんなあれから更に成長したようだな。雰囲気が立派になったよ」
ダグラスさんはそう言ってニッコリと微笑んだ。
「やぁやぁ、よく来てくれた! 君たちとは一度会ってみたいと思っていたのだよ。デイヴィット・ヴォルカノ3世だ。いやぁ、本当によく来てくれた」
デイヴィット王は玉座から立ち上がり、私たち一人一人の手を取って熱い握手を交わしてくれた。
私たちもデイヴィット王へそれぞれ名乗り、私はオベロン王からの親書を彼へと手渡した。
デイヴィット王はすぐにぶつぶつ言いながらその親書を熟読し始める。
「ふむふむ、なるほどなるほど、そんなことが……。良いなぁ、これからピスキス王国へ行くのだな。余も行きたいぞ。弟よ、一日国王変わってくれんかね? きっとバレないだろう」
「バレますので、やめておきましょう」
と、即答するダグラスさん。デイヴィット王はトホホ……としょげていた。
でも、私は思った。ワンチャンバレなさそう……と。それくらいに良く似ているのだ。
「テオバルト殿下よ、余にも魔法を見せてはくれぬか?」
「はい、ただいま……!」
テオは返事をすると、すぐに手のひらの上に水の球を作り出して、パッと消していた。
「おぉ、すごいぞ! 本当に鳥人族が魔法を使っておる! 良きものを見せてくれた。感謝するぞ」
バンザイをして喜ぶデイヴィット王。なんだか無邪気なお方だ……!
「ありがとうございます、勿体なきお言葉です」
デイヴィット王は話を続ける。
「シルフィ嬢の魔導具というのも非常に興味はあるのだが、この都市は常に松明に火を灯しているため、魔導街灯というのは特に必要なさそうなのだよ。興味はあるのだが、いや本当に」
「あの、物を冷やすような魔導具はどうでしょうか? 良ければこのヴォルカディスにもワゴンで販売に来ます!」
私はすかさずそうアピールをした。
「ほぉ、そんな物があるのか! うむ、ピスキスやホークアイズでの作業が終わってからで構わぬ。ぜひとも販売に来てくれたまえ」
「ありがとうございます!」
「次にクウガよ。この火山の地下にも“炎海のダンジョン”という巨大ダンジョンがあるぞ。レベル的には“天空のダンジョン”と同等だ。こちらの挑戦も検討してくれたまえ」
「はい、いずれ挑戦するつもりです! ありがとうございます!」
クウガは力強く返事をした。
「最後にローラよ。料理の火加減の修行をしたいそうだな?」
「はい! 飲み物だけではなく、焼き菓子も提供したいと思いまして」
そう言うローラに私は「次の新作はお菓子かぁ! 楽しみ♪」と微笑みかけた。
「あはは、バレちゃった。あの、こちらには火の扱いのスペシャリストが揃っていると伺っています。どなたか弟子入りさせてくださる方はいらっしゃらないでしょうか?」
「良いではないか。余も焼き菓子は大好物だ。それならば余が“王宮料理長”に頼んでやろう。必ず何かを得られるはずだ」
そう言うデイヴィット王に、ダグラスさんが「料理長は少々厳しいのでは……? 彼女はスパルタで有名ですぞ」と耳打ちしていた。
「私、ぜひそのお方に弟子入りしたいです! スパルタで構いません!」
と、ローラ。気合入ってるぅ。
「大丈夫? ローラちゃん。最初の内は皿洗いとかキッチンの掃除とかそんなんばっかさせる系のお人だけど」
ルシールさんも心配してローラに声をかけるが、ローラは「大丈夫です、何でもやります!」と即答した。
⸺⸺
結局ローラはこのままここでしばらく修行をしていくことになり、ドワーフの“オネエ”に「アタシの修行は厳しいわよ!」と連れていかれてしまった。
修行が終わったときに転送魔法で迎えに来れるようファムをローラに付き添わせる。私たちは今度はデイヴィット王からニコラス王への親書を預かると、3人でピスキス王国へと出発した。




