5話 家族の名付け
宿屋の1階にあるルシールさんとダグラスさんのお家のリビングで、ローラさんが淹れてくれた温かいカフェラテを飲んでホッとする私。ふかふかのソファも居心地が良い。
「美味しい……」
「本当? 良かった。ちょっとは落ち着けたみたいね」
「うん……元のお家で飲んでいたカフェラテよりずっと美味しい。おかげで元気出た♪」
私がそう言ってニコッと笑うと、ローラさんもふふっと微笑んだ。
みんなは自分たちには敬語なんて使わなくていい、と言ってくれタメ語で話させてくれた。とっても話しやすい。
ちなみにルシールさんが店番をしていてくれて、ローラさんとクウガさんとダグラスさんの4人でお話をしている。
「元の家か……シルフィちゃんは伯爵家のお嬢様だって言ってたね」
と、ダグラスさん。私は「もう、違うよ」と返した。
「ねね、元のお家には、メイドさんとかいたの?」
ローラさんは興味津々に尋ねてくる。
「うん、いたよ?」
「マジか! なら、掃除とかしたことねぇのか?」
と、クウガさん。
「うん……でも、私、頑張って覚える!」
「大丈夫よ、私が一から全部教えてあげる♪」
「ありがとう、ローラさん!」
「貴族のご令嬢から、こんな宿屋の下働きになってしまって、申し訳ないなぁ」
と、ダグラスさん。
「ううん、そんなこと言わないで、ダグラスさん。私、自分でお家には帰らないって決めたの。だから私、一生懸命働くよ!」
「うっ……なんて健気なんだ……」
ダグラスさんはそう言って目頭を押さえた。
「なぁ、シルフィ……わりぃ……ずっと気になってんだけどよ……」
クウガさんはチラチラとこちらを見ながら頭を掻いた。
「どうしたの? クウガさん」
「その本、なんだ?」
クウガさんはそう言って私のすぐ側に置いてある“クラフトレシピブック”を指差した。ケットシーがその上で毛づくろいをしている。
「あ、これ、私のスキルなんだって。これでクラフトって言うのが出来るみたいなんだけど……」
「シルちゃんスキル持ちなの!? すご〜い! どんなスキル?」
相変わらずローラさんは興味津々だ。
「えっと、どんなスキルなのかな……?」
私がそう言って首を傾げると、みんなは「自分でも知らないのか!」と笑っていた。
「ケットシーが知ってるみたい。まずは、この子の名前決めなくちゃ」
「にゃぁの名前付けてくれるのだ?」
ケットシーはそう言って「にゃぁ〜」とあくびをした。
「その子まだ名前なかったんだ。何にするのかな、楽しみね♪」
と、ローラさん。
「うーんとね、私の家族だから、家族って感じの名前にしたいんだけど……」
「なら、カゾクちゃんで良いんじゃねぇか?」
と、クウガさん。それに対しローラさんが「クウガはちょっとお口チャックしてようね」と微笑みかけた。目が笑ってない……。
「うっ、すまん……冗談だっての……」
ガーンと落ち込むクウガさん。2人の上下関係が一瞬でハッキリしてしまった……。
「あはは……」
「家族と言う言葉なら、ファミリーとかファミリアなんて言葉に置き換えることが出来るぞ」
と、ダグラスさん。この世界には日本語だけじゃなくて、外国の言葉も混在している感じなんだ。
「ファミリーかぁ……ファミ……ミリア? いや、違うなぁ……ファム……ファム! ねぇ、ケットシー。ファムなんてどう?」
「ファム! うん、にゃぁ、気に入ったのだ♪」
ケットシーはそう言って二足歩行で立ち上がり「やった、やった♪」とバンザイをして踊っていた。
「良いね、ファム♪」
「なんか、ケットシーって思ってたより自由な感じだな……」
クウガさんはぴょんぴょん跳ねるファムを見て苦笑いしていた。妖精って言っても、猫だからね。猫は自由な生き物だ。
「無邪気で可愛くていいじゃないか」
と、ダグラスさん。それです。
「ファム。早速なんだけど、私のスキル、どんなのか教えてくれる?」
「うん、適当にレシピブックを開いてみるのだ♪」
適当に……。
私はとりあえず真ん中辺りをガサッと開いてみることにした。




