45話 一人前への第一歩
後日、私はルシールさんから正式に寮の土地を買った。500万Cという大金を一括払い。だけど、カーネ自治領のお仕事の報酬でもっともらってるから全然大丈夫だ。
私は買った土地にお店兼シェアハウスを建ててもらうため、自分なりに調べて王都ユグドラシアでも有数の大工さんを訪ねた。
⸺⸺王都ユグドラシア、ドラグーン工房⸺⸺
「こんにちは」
「おぅ、いらっしゃ……って、どうした嬢ちゃん、迷子か?」
そう言って出迎えてくれたのは頭に竜の角を生やして背中にも竜の翼を持った“竜人族”のおじさんだった。
「あの、迷子じゃないです。お仕事の依頼に来ました」
「仕事の依頼……? おじちゃんたち、お家を建てる大工さんなんだが、間違いねぇか?」
おじさんはキョトンとしながらそう聞き返してきた。こういう反応、なんか久々だ。
「間違いないです。私、世界樹の麓にある安らぎ亭という宿屋で魔導具を販売しています、シルフィ・ラベンダーです。今日は、安らぎ亭の隣にお店兼シェアハウスを建ててほしくて来ました」
私がそう言うと、竜人のおじさんは目を真ん丸にして「マジか……!」と呟いた。
更に工房の奥から別の竜人族のお兄さんがヒョコッと顔を出す。
「い、今……安らぎ亭の魔導具って……あーっ! シルフィちゃんだ! これ、重宝してますっ!」
お兄さんはそう言って“魔導ランタン”を見せてくれた。
「えっ、私の作った魔導ランタンだ! あっ、お兄さん覚えてるよ! 魔導具全部買ってくれて、かき氷食べすぎてお腹壊した竜人のお兄さん!」
「ローラがもうやめたほうが良いって言っても聞かなかったあんぽんなのだ」
と、ファムが私の頭の上からそう付け加えた。
「うわー、調子に乗ったせいで変な覚え方されちまった……! いやだって、全部の味制覇したくてよぉ……!」
そう言って頭をかきながら苦笑するお兄さん。私の向かいでおじさんがやれやれと首を振っていた。
「迷子と勘違いしてすまなかった、シルフィちゃん。向こうで詳しく話を聞こうか」
と、おじさん。
「あっ、はい、お願いします」
「おーい、お客様だ! お茶をお出ししろー!」
おじさんが奥に向かってそう叫ぶと、元気よく「はーい」と返事が返ってきて、すぐに小猫族のお姉さんがお茶を持ってきてくれた。
「どうぞ、シルフィさん」
「ありがとうございます」
「さっきそこで騒いでいた従業員が“魔導ライター”というのを譲ってくれて、それから毎日の生活が見違えて、手の毛を焦がす心配もなくなりました。あのライター作ったの、シルフィさん何ですよね。ありがとうございます!」
お姉さんは丁寧にお辞儀をして奥へと戻っていった。
「そっか、小猫族はマッチを擦るのが大変だから……」
私は小猫族のお客さんに魔導具を売ってくれと言われたときの事を思い出した。
思えばあれが全ての始まりだったんだよな。
いつの間にか、自分のお店を建てるところまで来たんだ。
⸺⸺
それから竜人のおじさん、レギオンさんと寮の建て替えの話を進めた。
なんと今の安らぎ亭も私の住んでいる寮もこのドラグーン工房のみんなが建ててくれたらしく、今回の建て替えも既にルシールさんから仕事の依頼があったらしい。
ルシールさんと同じ大工さんに辿り着いたのはちょっと嬉しい。レギオンさんも安らぎ亭と並行して進めてくれるとのことだった。
後日レギオンさんたちが寮に測量に来てくれて、そこからどんどんと話が進む。
安らぎ亭は1ヶ月後に改装のため休業する旨を発表し、ローラと私のワゴンは不定期でユグドーラ城の前で続けるという看板をローラが描いてくれた。
⸺⸺そして1ヶ月後。
安らぎ亭も、私たちの寮も取り壊されて、大規模な建て替え工事が始まったのである。
ルシールさんとダグラスさんは予定通り一旦帰国。クウガとテオも宿屋の仕事がなくなった分、急ピッチでダンジョンの攻略を進めていた。
⸺⸺そして私は、この建替え中の期間を利用して人間の国、そして実家の様子を見に行くことにした。この里帰りが、私の一人前への第一歩だ。




