43話 宿屋のドワーフ夫妻
様々な魔導具を発明し、商品化をして1ヶ月ほどが経った。ローラの故郷の魔導街灯設置も並行してやっていたので忙しくも楽しい日々を過ごしていた。
そのローラの故郷であるカーネ自治領のお仕事も終わり、オベロン王が打ち上げも兼ねてユグドーラ城へと招待してくれた。
そのため安らぎ亭のみんなも誘いたいと言うと、お城のメイドさんを宿屋の店番に付けてくれて、ルシールさんとダグラスさんも参加をする事ができた。
⸺⸺ユグドーラ城、食堂⸺⸺
みんなを連れて食堂へ案内されると、立食パーティーの用意がしてあり、オベロン王とティターニア様が待っていた。
「久しぶりだな、ダグラス、ルシール。あなた方には一度ちゃんとシルフィのお礼を言わなくてはならないと思っていた。彼女を拾ってここまで世話をしてくれて感謝申し上げる」
オベロン王はそう言って2人に丁寧にお辞儀をした。久しぶり……? 宿屋夫妻はオベロン王と昔から面識があったんだ?
「ご無沙汰しております、オベロン陛下。本日はわたくし共までお招きいただきありがとうございます。お礼を申し上げるのはこちらの方です。シルフィちゃんには宿屋をどんどんと良くしてもらって、本当に感謝してもし尽くせません」
ダグラスさんもそう言って深く頭を下げた。
更にルシールさんが続く。
「わたくし共は若い子の夢をサポートするため、“小人王”の紹介でヴォルカノ王国からこの世界樹の麓へとやって来て宿屋を開きました。初めはただ若い子たちの夢への後押しが出来れば良いと思っておりましたが、まさかわたくし共の宿屋まであんなにも立派なものになるとは思ってもいませんでした」
「それは、あなた方が若い芽を必死に育てた結果だ。シルフィも“恩返し”と言う言葉をよく口にする」
オベロン王がそう言って私へ視線を送ってきたので、私は3人を見上げてニコッと微笑んだ。
「ありがとう、ルシールさん、ダグラスさん」
そう言う私に続いてローラとクウガとテオも「ありがとう!」とお礼を言う。
「こちらこそありがとうねぇ」
「あぁ、ありがとう」
と、ルシールさんにダグラスさん。
みんなでありがとうを言い合う事で、この立食パーティーは始まった。
⸺⸺
「オベロン陛下、“兄”は息災でしたか?」
と、ダグラスさん。オベロン王はうむと頷く。
「相変わらず元気に満ち溢れてパワフルなお方であったな」
「そうですか、それはそれは……」
「ダグラスさんのお兄さんもオベロン陛下と知り合いなの?」
私のすぐ側でそんな気になる会話をしていたので、私は思わずそう首を突っ込んだ。
するとダグラスさんは、ルシールさんとアイコンタクトを取って頷くと、優しい表情で私へこう言葉を返した。
「もう何ヶ月も前の話になるが、シルフィちゃんがうちの宿で働き始めてすぐくらいの頃に、オベロン陛下にヴォルカノ王国へ連れて行ってもらったことがあっただろう?」
私は「うん」と頷く。
「あの時に、オベロン陛下は私の兄と会っているのだよ」
「……」
あの時オベロン王が会っていた人。思わず無言になってあの時の記憶を夢中で辿った。ローラとクウガも同じことを考えていたみたいで、やがて3人で同じ結論へと至った。
⸺⸺あの時オベロン王が会っていた人、それは。
「小人王!?」
3人で声を揃えてそう叫ぶと、残ったテオも遅れて「小人王!?」と叫んだ。
「そう。私の兄はヴォルカノ王国の国王、通称“小人王”なのだよ」
ダグラスさんはそう言って、はははっと朗らかに笑っていた。
「そんな話全然知らなかったわ……」
と、ローラ。
「えっ、じゃぁ、ダグラスさんもルシールさんもヴォルカノ王家の王族さんなの!?」
私がそう尋ねると、2人は「そうだよ」と頷いた。
ルシールさんが口を開く。
「旦那はヴォルカノ王国の“公爵”で、アタシはシルフィちゃんと同じ“伯爵令嬢”だった。だけどね、アタシは昔から貴族体質ではなくて異端児だったのさ。この人はなぜかそんなアタシに興味を持って、アタシたちは結婚した」
「おぉぉ、なんか今すげぇこと聞いた気がするぜ……」
「僕も……」
と、クウガとテオ。
ダグラスさんが続ける。
「私はルシールに、結婚後も何でも好きなことをしていいとそう言ったんだ。そうしたら彼女は、身分を隠して初めはヴォルカディスで宿屋を始めたんだ」
「そうしたらね、気付いた事があったんだよ。宿に泊まっていく人にはそれぞれの物語がある。ほとんどの人がただ宿屋に来て泊まっていくだけだったけど、たまにこんなアタシにも色んな話をしてくれる人がいてねぇ、特に他種族の人の話は新鮮で面白かった」
と、ルシールさん。
「その内彼女は『もっと色んな種族がたくさん集まる場所で宿屋を開きたい』と私に提案をしてきた。そこで王である私の兄がオベロン陛下と引き合わせてくれたのだよ」
ダグラスさんがそう言うと、今度はオベロン王が口を開く。
「ルシールの、彼女の意気込みは本当だった。だから私は世界樹の麓の空いていた土地を彼女に売って、宿屋の営業を許可した。すると、まさかのダグラスまでもが公爵の地位を返上してこちらへと移住してきたのだ」
「ははは、私もどこまでも彼女を追いかけたくなりましてなぁ。それに、今度の宿屋は従業員の夢も応援したいと言う彼女の言葉が魅力的だったのですよ」
と、ダグラスさん。
「アタシはね、頑張って生きるみんなを応援して、それがアタシ自身の活力になっているんだよ」
「それが、ルシールさんが私たちを雇ってくれた理由なの?」
と、ローラ。
「そうだよ。あんたたちはみんな立派に成長した。アタシはそんなあんたたちに寄り添えてずっと幸せだったんだよ?」
ルシールさんはそう言って、あっはっはと笑った。
嘘偽りのない真っ直ぐで純粋な言葉。自分からは決して何の見返りも求めずにみんなの夢を追いかけ続ける。
きっとダグラスさんは、そんな真っ直ぐなルシールさんを魅力に思ったんだろう。
「小人王は、いつでも戻って来ていいと仰っていたぞ」
と、オベロン王。ダグラスさんが「ははは」と苦笑いをする。
「私たちはもう、この世界樹の麓の虜です。兄やヴォルカノ王国の皆も好きですが、もう私たちが国へ帰ることはないでしょうな」
「大丈夫だ、私も『帰らんとは思うぞ』と返事はしておいた」
「そこでね、立派に育ったあんたたちに、相談があるんだ。この立食パーティーを借りて申し訳ないけど、良かったら聞いてくれないかい?」
と、ルシールさん。
私たちはお互いに顔を見合わせて「私たちに出来ることなら何でも!」と返事をした。
私も、この場を借りてみんなに伝えたいことがあったんだ。まずは、ルシールさんの相談を聞こう。




