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4話 大人気の人間の子

⸺⸺世界樹の洞窟⸺⸺


 世界樹の洞窟に戻ってくると、さっきのエルフのお姉さんが「戻って来たわ! オベロン陛下と人間の子よ!」と騒ぎ立てたことがきっかけで、私とオベロン王は色んな種族の人に取り囲まれた。


「本当に人間の子どもなのか? ドワーフみたいだな」

「この大陸の人間って絶滅したんじゃないのか!」

「もしかして、あの頭の猫……ケットシーじゃないか!?」

「世界樹の祝福を受けたのね!」

「なんでオベロン陛下と一緒に?」

 等々、四方八方から声が飛び交い、私はそのものすごい圧に圧倒されていた。


「お前たち、この子が怖がっているだろう。この子はずっと“禁断の森”の向こう側で生活をしてきて、この国に来たばかりだ。お前たちのような自分とは違う他種族を見るのも初めて。魔力という存在を知ったのもついさっきなのだ。そういじめてくれるな」

 オベロン王がそう言うと、彼が話している間に一瞬しんと静まり返ったが、また一気にざわざわとし始める。

「禁断の森の向こうだって!?」

「魔力を知らない!?」

「そうか、だから世界樹の祝福を……」

「大変な思いをしてきたのね……」

「怖がらせてごめんな、頑張って生きるんだぞ」

「ほら、撤収、撤収。他種族は怖い奴らばかりだと思われるぞ」

「さぁて、んじゃダンジョン行きますかぁ」


 そう言って散り始める群衆。最初は圧にビックリしたけど、みんな心配をしてくれている人ばかりだ。これは、チャンスかもしれない。

 私は勇気を出してこう叫んだ。

「あの! すみません! 私、これから冒険者ギルドで一生懸命働きます! なので、こんな私でも住めるところ……どなたか知りませんか!?」

 きっとこのままジッとしてたらオベロン王がなんとかしてくれちゃう気がする。だから、住むところくらいは自分で探さなくちゃ。


 散り始めていた群衆は一斉にバッと振り向く。

「何!? ユグドーラ城に住むんじゃないのか!?」

「そういやオベロン陛下って、家族が持てないんだったな……」

「なら、独りで生活するのか!?」

「おい、誰か泊めてやれよ」

「こんな幼いのに、ギルドで働こうとしているのね……」


 そのざわついた中から一人のドワーフの女性が一歩前へ出てきた。私よりも小さいくらいの背丈に、ふくよかな体型で優しそうなおばちゃんだ。

「おばちゃん、すぐそこで宿屋をしているんだけど、良かったらウチで働かないかい? ギルドに依頼も出してるし、必要な人には宿屋に併設してある寮も貸し出してる。どうだい?」

「えっ、良いんですか!? ぜひ、お願いします!」

 やった、早速働くところも住むところも確保出来ちゃった。幸先良い♪


「良かったな、頑張れよ」

「すぐそこって『安らぎ亭』だよな。俺今日の宿そこにしよー」

「俺もー」

「ありゃ、こりゃウチの看板娘決定だねぇ」

 おばちゃんはそう言ってあっはっはと笑った。


「なら、私の役目はここまでのようだな」

 オベロン王はそう言って立ち去ろうとする。

「あっ、オベロン陛下……! 本当に、ありがとうございました! この御恩は一生忘れません!」

 私はそう言って深く一礼をする。オベロン王は「お前に世界樹の導きがあらんことを」と一言だけ言って、クールに去って行ってしまった。


⸺⸺


 世界樹の洞窟を出て少し歩いたところに冒険者ギルドがあり、まずはそこで『安らぎ亭』の仕事の依頼を受注した。期限は無期限で3食寝床付きだ。

 おばちゃんは安らぎ亭の女将で名前はルシールさん。5年前にドワーフの国からこの国の王都に越してきて宿屋をしているそう。

 この国はエルフの王が治めているけれど、エルフ以外の人も暮らしていいんだ。そう思うと、ちょっとホッとする。


 仕事の依頼を受けたところで、早速ギルドの向かいの『安らぎ亭』へと向かった。


⸺⸺安らぎ亭⸺⸺


「みんなー、新しい従業員が増えたよ〜」

 ルシールさんがそう叫ぶと、宿屋の奥から「はーい!」と声がして、イヌ耳のお姉さん、そして鬼の角の生えたお兄さんにドワーフのおじさんが顔を出した。


「今日からここで働く人間のシルフィ・ラベンダーちゃん、7歳だ。みんな優しく仕事を教えてあげるんだよ」

 ニッコリと微笑むルシールさん。しかし、みんなの反応は「人間!? 7歳!?」だった。

 そりゃ、そうなるよね……。でも、さっきの重圧のおかげでこの反応にももう慣れてきている自分がいる。こればっかりはこの先慣れていかないとどうしようもなさそうだし。


 私は、自分の置かれた状況を彼らに説明した。


⸺⸺


「人間って禁断の森の奥でまだ生きていたんだ……。後で人間のこと教えてね、よろしくね♪」

 イヌ耳のお姉さん。獣人族という種族で名前はローラさん。

「義理の親に殺されかけたって、マジか……。オベロン陛下がいて良かったな、マジで……。あっ、よろしくな。力仕事は俺がやるから、出来そうなことをやってくれ」

 鬼の角の生えたお兄さん。鬼族のクウガさんだ。筋肉ムキムキですごい力持ちそう……。

「ウチは大歓迎だよ。これから一緒に頑張ろうじゃないか」

 最後にドワーフのおじさん。ダグラスさんで、ルシールさんの旦那さんだ。


 一通り紹介と挨拶が終わったところで、ルシールさんが口を開く。

「住むとこもなくて困ってるんだろうと思ってとりあえず声をかけたけど、ここでの暮らしもまだよく分からないんだろう? 良いかい? まずは暮らしに慣れて、この世界のことを良く知るんだ。まだ小さいんだから、他にもやってみたいことがたくさん見つかるかもしれない」

「俺はここで働きながら他の冒険者ギルドの依頼でダンジョン潜ったりしてんだ」

 と、クウガさん。

「私は貯金を貯めていつか自分のカフェを開きたいな〜って、願望があるのよ」

 と、ローラさん。

「2人とも、素敵ですね……!」

「だから、シルフィちゃんも自分の本当のやりたい事を見つけると良いよ。寮から追い出したりなんかしないからさ。せっかくこの国に来れて、世界樹の祝福までもらえたんだ。思いっ切り人生楽しまなくちゃ損だからね」

 ルシールさんはそう言ってあっはっはと笑った。


 そんな彼女らの温かい言葉と、これまでのティターニア様やオベロン王の優しさの蓄積で、私はポロポロと涙を流していた。

「シルフィちゃん!?」

 と、驚く一同。

「ごめんなさい……こんなに良くしてもらえるなんて思っていなくて……」


 思えば前世はどんなに努力をしても叶わないことがたくさんあって、それでも頑張って前向きに生きていたけれど、結局酔っぱらいの車にひかれて死んでしまった。

 今世でも貴族の家に生まれて幸せになれるかと思いきや、最愛の母親は早くに死んでしまい、義理の母親とは上手くは行かず、父親は外面だけ良くてだらしのない人だった。


 私は、どんなに生まれ変わっても幸せにはなれないのかなって、そう諦めているところもあった。


 でも、私、幸せになって良いのかな。自分のやりたい事、しても良いのかな。そう思うとなかなか涙が止まらず、ルシールさんとローラさんに思いっ切り抱き締められる私であった。



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