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妖精王の愛し子、世界樹のふもとで魔導具屋さん始めます!  作者: るあか
第四章 家族

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37話 小さな近衛

「あの、ローラは……大切な家族ですか?」

 どう聞こうか迷った挙句、私はそう切り出す。ローラのご両親はうんうんと何度も頷いた。


「もちろん、もちろんです。ですが……私たち親も含め、あの子の兄妹たちがあの子に対して冷たくしてしまったりとか、どうせ運動出来ないんだからと馬鹿にしてしまっていた事は事実です……」

 と、母のイリナさん。父のディグさんが続く。


「あの子はまだシルフィさんくらいの年の頃から武道の稽古をせずに部屋に閉じこもって絵ばかりを描いていました。そのため私も『稽古をサボるな、お前も将来は近衛になるんだぞ』と叱りつけてしまっていました。あの子が15になった時に書き置きを残して出ていってしまったことで、私たちはあの子をどれだけ追い詰めていたのかを、思い知ったのです……」


「ローラ、小さい頃から絵の練習してたんだ……」

「あの子は今も絵を……?」

 と、イリナさん。

「はい。魔導具の取扱メモを描いてくれたり、売店のメニュー表なんかを描いてくれていますけど、上手であったかくて、とっても和みます。最近は安らぎ亭の看板も描いていますよ。何より、楽しんで描いています」

「っ! そうですか……」

 イリナさんは再び号泣していた。


「私たちのような魔力を持たない種族は、力が全てだと思っていました。特に力のない者に近衛兵など務まる訳がないと、そう思っていましたが、実はローラが幼い頃にラウル様のお命を救っていたことが明らかになったのです」

 と、ディグさん。

「ほぅ、それは一体……?」

 オベロン王がそう聞き返すと、ロベルト族長が「私から説明しましょう」と口を挟んだ。


「ラウルもローラもまだ幼かった頃、2人はよく一緒に遊んでおりました。ある日、2人はおやつだからとこの屋敷に呼び戻されましたが、そこでローラが『このおやつ変なニオイがするから食べない方がいいよ』と言ったのです」

「まさか、毒ですか……?」

 と、オベロン王。ロベルト族長はうんと頷いた。

「ええ、そのまさかです。念の為、毒を検知する植物を使って検査をしたところ、魔力を持たない者に対して極めて致死性の高い“ネクロの毒”が検出されたのです」


「一体誰がそんな事を……なるほど、“ステリア族”ですか」

 と、オベロン王。私は「ステリア族?」と首を傾げる。

 ロベルト族長は「はい、その通りです」と答え、続きを話した。


「ステリア族は同じイヌ耳の獣人族の一族で、10年ほど前までこのカーネ自治領の中で我らの傘下に加わっていた一族です。そのステリア族に仕える者がネクロの毒を仕込んだ菓子をこちらへ送り付けたようです」


「10年前にカーネ自治領からステリア族が出ていったのは知っていましたが、そんな内部抗争があったとは……」

「この事を周知すれば更なる部族間抗争へと発展する恐れがあったため、この事は当時その場にいた者の胸に留めておくことにしたのです。表向きには、ステリア族は方向性の違いから出ていったことになっています」

「ふむ、この世界樹の大森林内でのこれ以上の抗争を未然に防いでいただき、感謝します」

 オベロン王は軽く頭を下げた。


 ここで族長の息子のラウルが口を開いた。

「ローラは俺たちカーネ族の中でも、一際鼻が利いたのです。そのおかげで俺は命を救われたというのに、そのことを誰にも周知出来ないまま、ローラは出ていってしまいました」

「あの子が出ていって、ラウル様が私たちに今の話をしてくださいました。あの子は誰よりも小さい頃から立派に近衛をしていたというのに、私たちは……」


「ちょっと待ってください!」

 私は机をバーンと叩いて立ち上がった。

「どうした、シルフィ?」

 と、オベロン王。


 私は彼らの話を聞いていて思っていたことを一気にぶちまけた。

「ローラは獣人族だけど運動は出来ないかもしれない。だって人には向き不向きがあります。いくら獣人だって、運動の出来ない人くらいいると思うんです。でも、ローラはとっても鼻が利いて、その得意を活かして将来の族長を守った。そのことを、ローラが出ていった時に家族は知ったんですよね!?」

「はい……」

 と、ご両親。多分、このあと私が何を言うか分かっている顔だ。


「それで、ローラが世界樹の麓にある安らぎ亭という宿屋にいることまで突き止めた。もちろん、ローラには謝りに行ったんですよね!?」

「いえ……」

 と、イリナさん。ディグさんが続く。

「……お恥ずかしい限りです。今更どの面を下げて会いに行けば良いのか分からず……」

「それは、俺もなんです。もう、ローラはカーネ族のことなんて見限ってしまったのだろうって、そう思うと、怖くて……」

 と、ラウルさん。


「ローラは! 今でも、家族に冷たくされたり、馬鹿にされた思い出しかありません……。いくら家族がその過ちに気付いていたとしても、本人に伝えてあげないと、ローラは知ることすら出来ません……」

「それは……その通りですね……」

 イリナさんはそう言って涙を流した。


 私自身も、親友のローラのことを思うと自然と涙が流れてきて、敬語も忘れて子どもが駄々をこねるようにこう続けた。


「ローラは、故郷が便利になるのは嬉しいから、魔導街灯で埋め尽くしてきてあげてって、そう言っていたんだよ! ローラだって本当はお家に帰りたいかもしれないじゃん……。私、こんなに絵が上手になったんだよ、こんなに美味しいコーヒーが淹れられるようになったんだよって、そう言いたいかもしれないじゃん……。違ったらごめんけど、でも、言ってみないと分かんないじゃん……うわぁぁぁぁん!」


「ローラには拒絶されるかもしれないのだ。でも本当に反省をしているのであれば、ローラのことは散々傷付けておいて、自分たちが傷付く覚悟がないのは良くないのだ」

 泣き崩れて言葉が出なくなってしまった私に変わって、ファムが私の気持ちを代弁してくれた。


「本当に……その通りです……。こんな小さな子に気付かされるとは……」

 ディグさんもそう言って涙を流していた。


「もし安らぎ亭に迷惑がかかると考えているのなら、ローラの休憩中を狙うといいでしょう。だいたいいつも15時頃、安らぎ亭の寮で4人集まって楽しそうになんやかんやしていますので」

 と、オベロン王。

「何で知ってるの……?」

 私は泣きながらオベロン王を見上げた。しかし彼は「さぁな。では、今日のところはこれで失礼します」と言って、私を抱えて族長のお屋敷を後にした。


⸺⸺


 オベロン王は、私を抱えたまま上空へと飛び上がった。

「わぁっ、飛んで帰るの!? 転送魔法は?」

「たまにはこういうのも良いだろう。少し大回りをして帰るか」

 そう言われてユグドーラの景色を見下ろすと、落ちかかった夕日に照らされたオレンジ色の大絶景が広がっていた。

「綺麗〜!」

 その景色を見ると、私の涙はあっという間に引っ込んでしまった。


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