33話 魔導具の更なる進化
暗くなったら自動的に火を付けてくれる街灯のレシピを開発するため、私は色んな方法を試していた。
空が暗くなってくると自動的に付く街灯を想像してみたり、暗くなったのを想像して実際に空中に火を灯してみたり……。
想像力が乏しいのかと思って外に出て直に街灯を見つめて、勝手に明かりが付くのを想像してみたり。
しかし、部屋に戻っても新たなレシピが増えることはなく、早くも手詰まりになっていた。
「うーん……なかなか思い付かないなぁ……」
ファムはと言うと、既に飽きてしまって鉛筆をちょんちょんして遊んでいた。
そんな時、ふとローラの事が頭に浮かんだ。
ローラは自分の納得する出来のコーヒーが完成するまで、何度も改良に改良を重ねていた。そんな彼女の努力があったから、ホットコーヒーはアイスコーヒーに生まれ変わったんだ。
「……そうか、改良か!」
私はある事を思い付くとクラフトレシピブックをペラペラとめくり、紙コップのページを開いた。
紙コップの項目には、色んなバリエーションがある。
⸺⸺⸺⸺
【紙コップ】
必要素材
・木材(量によって生成量が変わる)
特性
・断熱加工
・サイズ
浅型(S、M、L)
深型(S、M、L)
・カラー
白(猫シルエット)
焦げ茶(木目調)
消費魔力
1、特性付与に付き+1
⸺⸺⸺⸺
これは、初めからこの項目が全部書いてあったのではない。こう言うのを作りたいと思ってクラフトの呪文に色やサイズを追加して叫んだら勝手に“特性”っていう項目が追加されたんだ。
魔導具ではない普通の雑貨は、ある時を境にレシピが変化するようになった。ファムは、私のクラフトレベルが上がってきたから出来るようになった派生だ、と言っていた。
じゃぁ、魔導具でも同じことが出来るはず。
私はひとまず魔導ランタンのページへと移動した。
⸺⸺⸺⸺
【魔導ランタン】
必要素材
・砂 10g
・スチール鉱石×1
・魔石×1
・炎の魔石×1
消費魔力
20
⸺⸺⸺⸺
魔導ランタンにはまだ他の雑貨のように“特性”がない。雑貨は呪文の時に付け足すだけで特性が増えていくけれど、魔導具は試してみたけれど特性を付け加える事は出来なかった。多分、魔石を素材にしているから雑貨とは明確に違うんだ。
だったら、“魔法の想いの力”を直接このレシピに注いでみよう。
私はレシピに両手をかざすと、心の中である想いを唱えながら魔力を送り込んでみた。
“暗くなったときに自動で付けて、明るくなったら自動で消して〜!”
レシピブックがほわっと光を放ち、ファムが飛び起きて慌ててレシピブックを覗きに来る。すると、光が収まると同時に、必要素材と消費魔力の間にひとりでに文字が浮かび上がってきた。
“特性 明暗センサー”
「にゃぁ!? すごそうな特性が付いたのだ!」
「よしっ! 早速このランタンを作ってみよう!」
嬉しさのあまりグッとガッツポーズをする。この自分なりの解決方法が見つかった瞬間がたまらない。
そして、明暗センサー付きの魔導ランタンをクラフトする。一見ただの魔導ランタンかと思いきや、それには“ボタン”が付いていなかった。
私はベッドから毛布を引っ張ってきて、マントのように頭から被ってランタンを覆った。
すると、ランタンの中にポッと火が灯って毛布の中が優しい明かりに照らされたのである。
「おぉぉぉぉ!」
「すごいのだ! すごいのだ♪」
ファムは毛布の中でバンザイをして小躍りしていた。
毛布をはがすと、ランタンの火は勝手に消えていった。完璧だ。明暗センサー!
⸺⸺
魔導街灯のレシピにも明暗センサーの特性を付けると、すぐにオベロン王に連絡をした。
『シルフィか、どうした?』
「オベロン陛下! 商品の準備が整いました!」
『ほう、あっという間だったな。では、明日の魔導具屋の業務終了後、安らぎ亭へ迎えに行く。素材はこちらで用意しよう。街灯以外の必要素材を教えてくれ』
「うん、あのね、街灯1つにつき、魔石と炎の魔石が1つずつだよ」
『承知。では、また明日』
その後ヒントをくれたティターニア様にも報告をして、ワクワクしながら翌日を迎えた。
⸺⸺翌日、業務終了後。
オベロン王が安らぎ亭へ来ると、お昼休憩に入ったクウガとテオとローラの3人も付いてきて、安らぎ亭から一番近い街灯へと向かった。
まずは1つだけ試しにクラフトしてみることに。
「明暗センサー付きの魔導街灯をクラフト!」
みんなが「明暗センサー?」と首を傾げる目の前で街灯が光に包まれ、ピカピカの新品の街灯へと姿を変えた。
「綺麗になったわ」
と、ローラ。それに対しテオが「これだけでもクラフトしたかいがあったかもね」と続く。
「あれ? シルフィ。魔導具にはみんな付いてるボタンがねぇぞ?」
と、クウガ。私はふっふっふとドヤ顔をした。
「暗くなったら勝手に付きます」
ドヤ顔から更にニヤッと笑う。
「何っ!?」
目を真ん丸にするオベロン王。
「明暗センサーってそういうこと!?」
「マジかよ……魔法よりすげぇじゃねーか……」
「は、早く暗くならないかしら!?」
みんなは隠すこともなくわくわくをさらけ出していて、私は嬉しくなってふふっとはにかんだ。
それから日が傾き始める17時半に再びこの街灯の前で待ち合わせをして、一旦解散に。
⸺⸺17時半。
5人で集まるはずが、安らぎ亭の近くの街灯の前にはエルフ族の人だかりが出来ていた。
「すまん、役所の皆が付いてきてしまった」
と、オベロン王。
「あはは、そういうことか……」
今になって明かりが付かなかったらどうしようと不安になってくる。大丈夫、大丈夫だよね……?
⸺⸺懐中時計が18時を回った時、空が薄暗くなってくると、目の前の街灯がぽわーっと明るくなったのであった。
「うわぁ、すげぇ!」
「本当に勝手に付いたぞ!」
「もう、毎日交代で町中を回らなくても良いんだ……!」
「ありがとう、魔導具屋さん!」
「シルフィちゃん、ありがとう!」
上手くいったことに安堵した私は、エルフ族の人たちに揉みくちゃにされながらニシシと笑った。




