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3話 世界樹の祝福

「あぁ、そうだ。この国で暮らすことになったため、念の為あなたのところへ連れてきた、世界樹の意思、ティターニア」

 と、オベロン王。世界樹には意思があって、それがこの目の前の光の球、ティターニア様なのか。

 私は一歩前へ出ると、思いっ切り深く頭を下げた。

「は、はじめまして、ティターニア様……! シルフィ・ラベンダーと言います! 義理の母に殺されそうになっていたところをオベロン陛下に助けてもらいました! 人間なのにまことにきょーしゅくですが、ここに住ませてもらうことになりました!」


『人間なのに……? オベロン、この子はまだ幼いのに余計なことを言いましたね?』

「……シルフィは人の7年の思考よりも賢いと判断した故に、事実を話したまでです」

 人の7年の思考よりも賢い……。意味深な言葉が。


『確かに、魔力は7年と出ていますが、その魂は……30年ほどの月日が過ぎているようですね』

「やはりそうか……」

「えっ……そんなことまで分かるんですか!?」

『ええ、分かりますよ。徳を積んできた質の高い魂です。私はあなたを歓迎しましょう、シルフィ・ラベンダー』

「あ、ありがとうございます……!」

 なんか助かった……!


『転生者と言うことで間違いないですね』

「はい。私……前世の記憶があって、前世はこことは別の世界の日本という国で23歳まで生きました。その世界では魔力は空想上のもので現実にはないものだったので、私には魔力なんてないような気が……」

『この世界では人間という種族は元々魔力を持っている種族であり、あなたのその小さい身体の中には魂の質に沿った膨大な魔力がありますよ』

「えーっ、初耳です!」

 この世界には魔力なんてものがあって、私の身体の中にもあるなんて、ビックリだ……。


『ふむ。自身の魔力を認識していないからでしょうか? 転生の際にスキルを得ているようですが、まだ開眼はしていないようですね……』

「ス、スキル!?」

『“クラフト”というスキルのようですが、仕様が日本の国に沿ったもののようで、この世界には合わないようです。開眼をしていないのは魔力の認識だけではなく、そのせいかもしれないですね。“世界樹の祝福”を授け、この世界に沿ったものに改変し、開眼させてしまいましょう』

「世界樹の……祝福……?」

 何がなんやら……。


「目を閉じてジッとしていろ」

 と、オベロン王。

「あ、はい……」

 私は素直に目を閉じた。私にとって良いことであることに間違いはないんだから。

 すると、身体全体がふわっと何か温かいものに包まれ、その心地良さに身を委ねていた。

 ドサッと、私の目の前に何かが落ちる音がする。


『終わりましたよ、シルフィ。目を開けてください』

「はい……」

 ゆっくりと目を開けると、私の視界は小さな白猫の姿で埋め尽くされていた。

「えっ、な、何!?」

 落ちちゃうんじゃないかと思い、思わず両手を差し出すと、その猫は私の両手の中にスポッと収まった。7歳の両手のひらに収まるくらいに小さい白猫。

 よく見ると背中の付近にオベロン王と同じ見た目の小さな妖精の羽が浮かんでいることに気付いた。この羽で浮かんでいたのか! じゃぁ、落ちることはなかったじゃない。


 白猫はちょこんと座ったまま甲高い声で「名前を付けてほしいのだ」としゃべった。

「しゃべるの!? 名前を……? えっと、ティターニア様……あの、これは……」

『ふふふ。祝福を授けるとなぜか誕生するのです。“世界樹の精”と呼ばれ、(あるじ)の一番望む姿の種を表現します。今回現れた世界樹の精は“ケットシー”でした。シルフィは猫が好きなようですね』

「世界樹の精、ケットシー……! はい、私、猫大好きです……。この子、私の家族ですか!?」

 こんな可愛い猫の妖精と一緒に暮らせるの!? そう思うと一気にテンションが上がってきた。


『下僕でもなく、ペットでもなく、家来でもなく、“家族”と表現するのですね。私は今、あなたに祝福を授けて良かったと心から思っています。そのケットシーはあなたの家族です。大切にしてあげてください』

「わぁぁっ……! はい! えっと、名前……ちょっと考えたいから、後でも良い?」

 後でちゃんとじっくり考えたい。だって、家族になるんだもの。

 ケットシーは「良いのだ♪」と返事をしてふわっと飛び上がって私の頭の上に降り立った。


『世界樹の祝福とは、私とオベロンの認めた人に授ける証のようなものです。ステータスアップの効果や、魔物に対する結界の効果などが付与されます。今回のステータスアップはあなたの“クラフトスキル”に対して行いました。また、世界樹の精を通して私やオベロンと連絡を取ることも可能です。何か困ったことがあれば何でも尋ねてください』

「えええっ……なんだかすごいものをもらってしまった気が……」


『それから、あなたのスキルを開眼させた際に、そのような本が現れました。あなたのスキルを発動する上で必要になるはずなので、大切に保管してください』

「おぉっ、さっきの音はこれかぁ!」

 私の足元には分厚い本が1冊。本のタイトルは『クラフトレシピブック』だそう。よっこいしょと拾い上げる。

「にゃぁはそのスキルの中を通って生まれたから、使い方分かるのだ。後で教えてあげるのだ」

 と、ケットシー。一人称が“にゃぁ”……可愛い。

「そうなの!? ありがとう! すごく助かるよ!」


『それから、オベロンは妖精王としての責務を全うするため、家族を持つことはできません。私も同様です。ですので、このままではあなたは一人で生きていかねばなりません。どなたか育ててくれる人を探すことは可能ですが……どうしますか?』

「えっと……この国のお仕事はどんなものがありますか?」

『仕事をするのであれば、冒険者ギルドがありますのでそこで探すのが良いかと思います。戦闘の行える冒険者に向けての依頼だけではなく、日雇いの仕事や長期の仕事の依頼もありますので。子どもでも雇ってもらえるところもたくさんあるはずです』

「特に、世界樹の祝福の証である世界樹の精を連れているなら、なおさら優遇してもらえるだろう」

 と、オベロン王。

「それなら私、一人で頑張って生活してみます。この国に行きたいって言ったのは私なので、出来る限りのことは自分でしてみます」

『頑張ってください、応援していますよ』

「はい! 頑張ります!」

 オベロン王もうんと頷き励ましてくれる。


 これから私にはどんな生活が待っているのだろう? そう思うととってもワクワクし、上機嫌でティターニア様に別れを告げて転送魔法陣の上へと飛び乗った。


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