19話 売店の準備と新しい従業員
翌日から午前中だけ宿屋のお仕事を手伝って、お昼すぎからは寮の庭でローラさんと打ち合わせをするようになった。
⸺⸺安らぎ亭、寮の庭⸺⸺
「これは……大きな手足の魔物ねぇ。ダンジョンにはこんな恐ろしい魔物がいるの?」
ローラさんは私の描いたアイデアイラストを覗いてそう尋ねてきた。
「これ……ワゴン販売をしてるローラさんの絵……」
「えっ! 嘘っ、これ私!? ちょ、あはは! 無理無理、お腹痛い……!」
ローラさんはその“化物のような自分”のイラストを見て、お腹を抱えてゲラゲラと笑っていた。
そんなローラさんに追い打ちをかけるように、私はもう1つイラストを描いた。
「じゃーん、これはクウガさんの似顔絵だよ♪」
「ちょぉっ……! なんで首が2つあるの!?」
ローラさんは似顔絵を見ながらプルプルと悶ている。
「違うよ、これは首が2つあるんじゃなくて、肩にファムを乗せてるの♪」
「うっそ、これファムなの!?」
「にゃぁ、完全にクウガの肩から生えているのだ……。にゃんでヒトみたいな髪の毛が生えているのだ……」
笑い過ぎで今にも倒れそうなローラさんの隣で、ファムは大きなため息をついた。
⸺⸺
「えっと……ワゴン……こんな感じかしら?」
なんとか息を吹き返したローラさんは、サラサラとワゴンのイラストを描き上げていく。
「わぁ、すごーい! そうそう、こんな感じのワゴンがあれば、ロビーでワゴン販売出来るのになぁって……」
すると、私がそう願望を呟いた瞬間、そばに置いておいたクラフトレシピブックが淡く光ったのである。
「えっ、このタイミングで新たなレシピが……!?」
「何かしら、見てみましょうよ♪」
「うん!」
レシピブックを開いてみると、新たに追加をされたのは“木製ワゴン”だった。見た目はローラさんがデザインしてくれたテーマパークにあるようなものだったが、なぜか正面に猫のイラストが入っていた。
「私がデザインしたものがそのまま……じゃ、ないか、なんか猫が追加されてるし……」
あはは、と笑うローラさん。
「うん……猫のデザインが入るものと入らないものがあるんだけど、今回は堂々と入ったね……。どうしよう、これで良ければ木材さえあれば作れるけど……」
「むしろ猫入ってた方が可愛いから、これにしましょ♪ でも、大きい物だから木もたくさん必要そうね……」
「メタの木っていう木が世界樹のダンジョンの最初のフロアにいっぱい生えてるから、2人で集めよっか。私の近くで作業してくれれば魔物も寄って来ないよ」
「おっけー♪ 早速行きましょ!」
⸺⸺
私たちがダンジョンでメタの木の枝を集めまくって帰ってくると、鳥の翼を持った鳥人族の男の子がクウガさんに寮の案内をされていた。
「クウガ、その子は?」
と、ローラさん。
「おうよ、今日から安らぎ亭で働くことになった“テオ”だ。仲良くしてやってくれ」
「あっ、あの、テオと申します……。年は12歳です……よ、よろしくお願いします……」
テオ君はモジモジとしながらきゅーっと縮こまっていた。恥ずかしがり屋さんの男の子だ。
「よろしくね、テオ君。私はシルフィだよ」
「えっ、こんな小さな子が……?」
「シルフィはまだ7歳なんだぜ? お前、自分の年齢が低いこと気にしてたんだろ? これで解決だな」
クウガさんはそう言ってニシシと笑った。
「あぅ、それは、言わないでください……」
「お? 秘密だったのか? わりぃ、わりぃ」
「クウガ、あんたホンット、デリカシーの欠片もないんだから。テオ君、私はローラよ。何か困ったことがあったら何でも聞いてね」
「はぃ……ありがとうございます……」
テオ君はキュッと小さくなり、逃げるように101号室へと吸い込まれていった。
⸺⸺
「やべぇな……俺、怖がられてんのかな……上手くアイツに教えてやれっかな……」
クウガさんが珍しくしょげている。
「クウガさんだけじゃなくて、みんな怖いって感じだったけど……。人見知りなだけじゃないの?」
「お、おぅ……だよな、ま、そのうち慣れるか」
「クウガ、ルシールさんは他が雇わなさそうな人をあえて雇って居場所を作ってくれているの、あんたも分かってるでしょ? 私も、あんたも、シルちゃんだって訳ありだったんだから。あの子にも、ここが居場所だって思ってもらえるようにちゃんと面倒見なさいよね」
と、ローラさん。あれ? ローラさんとクウガさんも、訳ありなんだ……。
ローラさんは、お金が貯まるまでの期限付きだからって、ことかな?
「あぁ、そうだよな。邪魔してわりぃ。開店準備頑張ってくれ」
クウガさんは気合いを入れ直すと、101号室の扉をドンドンと叩きながら「なぁ、テオー、この辺の案内してやるから出て来いよ〜」と話しかけていた。
だ、大丈夫かな……全然返事ないな……。
いや、今は開店準備だ。クウガさんも頑張ってくれって言ってくれたし。
私は早速クラフトで木製ワゴンを生成すると、どの商品をどの価格でどれだけ販売するかを考えることにした。




