17話 初めての商売
⸺⸺安らぎ亭、洗濯場⸺⸺
「クウガさん、クウガさん、忙しいところごめん、ちょっと教えてほしいんだけど……」
私はメモと鉛筆をサッと構える。
「おっ? どうしたシルフィ、んな慌てて」
クウガさんは洗ったシーツの水をギューッと絞った。
「あのね、実は……」
⸺⸺
「なるほど、遂に売って欲しいときたか……。いや、俺は絶対いつかそういう人も出てくるだろうって思ってたぞ。特に魔力を持たねぇ俺らにとって、魔導具はめちゃくちゃ便利なんだよ」
「うん……小猫族さんはお手手が肉球だから、マッチ擦るのも大変なんだって」
「にゃぁもコツがいるから、小猫族の気持ちは良く分かるのだ」
と、ファム。そうだ、ファムは器用にマッチを擦ってくれていたけれど、あれはコツを掴んでやっと出来た事だったのか……。
「だろうな……。えっと、魔導ランタンの素材って何だったっけか?」
「砂とスチール鉱石と魔石と炎の魔石だよ」
「了解。俺がいつも道具屋に売ってる額を言うぞ。砂は……売り物にはならねぇから原価はゼロだな。んで、スチール鉱石は30C、魔石は80C、炎の魔石は420Cだな」
「炎の魔石たかっ!」
そうツッコミながらも今の額をメモする。
「まぁな、炎の魔石はそこそこレアな素材だからな」
「素材の売値は530Cって事ね。ってことは、道具屋が職人に売っている値段はもう少し上がるわよ」
そう言って会話に入ってきたのは箒を持ったローラさんだった。
「ローラさん! どのくらい上乗せするんだろう?」
「うーん……1.25倍くらいかしら……」
「ってことは、素材の原価は……だいたい660Cくらいかぁ……」
メモを取っていると、更にそこへ大量のシーツを抱えたダグラスさんが加わった。
「よっこらせっと。クウガくん、これも洗濯よろしく」
「おうよ」
「ドワーフの職人たちは、魔法の力を込めた物を販売するときは、原価を4倍して更に魔力分を個人で自由に上乗せしているそうだよ」
「ダグラスさん! ってことは、660を4倍したら……2640……ちょっと、高くないかな……?」
この宿屋に泊まるより高いんだけど……。
「けど、俺のこの腕輪は3800Cもしたぜ?」
「そっか、そうだった……」
「ちなみに、キャンドルランタンは600Cくらいで売られているわよ」
と、ローラさん。
「なるほど……じゃぁ、私は道具屋から素材を仕入れている訳じゃないし……キャンドルランタンのちょうど4倍の2400Cで売ろうかな」
「うん、そこそこの適正価格だろうね」
と、ダグラスさん。
「みんな、ありがとう! 2400Cでお客さんに提案してくる!」
みんなに笑顔で送り出され、私はロビーへと戻った。
⸺⸺
「お待たせしました! 魔導ランタン、魔導ランプ共に1つ2400Cになります。どちらも1つまでの限定販売となりますが、どうなさいますか?」
私が小猫族のお客さんへそう尋ねると、彼女は二つ返事で「買います! どちらも1つずつください!」と言った。
その後すぐに寮の自室へと戻って魔導ランタンと魔導ランプを1つずつクラフトして、宿屋のロビーで待っていたお客さんへ、それらの魔導具を販売した。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
お客さんは4800Cも払ったにも関わらず、泣きながらお礼を言って旅立って行った。
その背中を見送って、なんだか感慨深くなってしまう私。
⸺⸺私の本当にやりたい事、見つかったかもしれない。
その日の晩ご飯中に、私は覚悟を決めてみんなへ想いを告げた。
「あ、あの……私……!」
みんなは「うん?」と私に注目をする。
「私、安らぎ亭のロビーで魔道具屋さん、したいの……!」
「うんうん、そう言うんじゃないかと思ってたよ」
ルシールさんはそう言ってニッコリと微笑んだ。
他のみんなも「良いね!」と賛成してくれたため、私は更にファムを通してオベロン王とティターニア様にも報告をした。
『良いではないか。安らぎ亭の中でのみの販売で、宿泊客限定にすれば人でごった返して混乱になることもあるまい』
『遂にここまで来ましたね。実は、あなたのスキルを開眼させたときから何かしらの大きな事をしてくれるのではないかと期待していたのです。応援していますよ。頑張ってくださいね』
「お二人とも……ありがとうございます! 私、魔道具屋さん、頑張ります!」
こうして、私の魔導具屋さんへの挑戦が始まった。




