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16話 人生の転機

 それから私は毎日コツコツ魔導ランタンと魔導ランプをクラフトして、クウガさんとファムと共にダンジョンを下へ攻略しながら素材を採集し、またクラフト。

 昼間は宿屋のお部屋の掃除と受付をする。そんな忙しくもほのぼのとした、順風満帆な日々を過ごしていた。


⸺⸺1ヶ月後。


 宿屋の全個室分の魔導ランタンと魔導ランプの作成が終わったため、全個室のキャンドルランタンとキャンドルランプを魔導具へと切り替えた。

 ちなみに取扱メモはまたしてもローラさんが書いてくれた。ローラさんのイラストは上手だし温かみがあるので、私は大好きだ。


 魔導ライターは個室では用済みになったため、“アメニティグッズ”として泊まってくれたお客さんに提供することにした。


「な、なぁ、女将さん! この魔導ライターってやつ、本当に持って帰っていいのかい!?」

 イヌ耳のお客さんが興奮気味にカウンターへ尋ねてくる。私の隣にいたルシールさんは笑顔でこう答えた。

「はい。そちらの魔導ライターはこのシルフィが発明した魔導具です。良ければ冒険のお供にお持ちください」


「こっ、これをこの子が!? まさかこんな小さな子が発明した物だとは……あの魔導ランタンとランプもすごかった。ボタン一つで火が点くんだもんな……。このライター、ありがたくもらっていくよ。松明やランタンに火を点けたり、野宿の時に焚き火をするのもこれでめちゃくちゃ楽になるよ♪」

 お客さんはそう言って嬉しそうに宿屋を出たので、私も一緒に外までお見送りに行く。


「ご利用ありがとうございました! お気を付けて行ってらっしゃいませ!」

 ペコリとお辞儀。

 嬉しい……私の発明した魔導具、安らぎ亭の人たちにもお客さんにもすごく喜ばれてる。

 私、恩返し、出来ているのかも……!

 もっと、たくさんの人が魔導具を使って笑顔になってくれたらいいな。私は、そう思うようになっていた。


⸺⸺


 全個室を魔導照明に切り替えてからすぐの出来事だった。

 あるお客さんの一言で、私は人生の転機を迎えることになる。


「あの、この魔導ライター持っていっても良いって書いてあったんですけど……」

 そうカウンターへ尋ねてきたのは、二足歩行の猫。猫と言ってもドワーフ族と同じくらいの背丈がある。

 彼らは獣人族の中の小人種、“小猫族”である。


「はい、よろしければ旅のお供にお持ちください」

 女将さんはこの数日でこのやり取りを何十回もしている。まるでゲームの宿屋さんのように定型文をしゃべっているようで、ちょっと面白い。


 しかし、小猫族のお客さんは嬉しそうに「やったぁ」と反応をすると、更にこう続けた。


「お部屋にあった魔導ランタンと魔導ランプ……ライターのようにタダで欲しいなんて言いません。お金ならいくらでも出します! ランタンとランプを売ってくれませんか!?」


「……!」

「まぁ……!」

 売る……!? 道具屋さんみたいに、魔導具を販売する……!?

 私はその発想は今までになくて、頭が真っ白になっていた。


「私たち小猫族は、見ての通り、手が肉球です」

 お客さんはそう言って手を前に差し出し、パーッと広げた。本当に猫の肉球そのまんまだ。っていうか、手広げてるの可愛い……。

「マッチを擦るのもコツがいるし、獣人族であるため魔力も持たず、魔法で火を点けることも出来ません。小さい頃には失敗して手の周りの毛が焦げてしまうなんて事もありました」


「うわぁ……」

 小猫族の人たち、ずっと可愛いなって思ってたけど、可愛い裏でそんな苦労をしていたんだ。

「ですが、昨晩この安らぎ亭に泊まった時は、明かりは全てワンタッチで灯すことが出来たんです……! 魔導具とは、なんて素晴らしいものなんでしょうか。これを発明したシルフィというお方はどちらにいらっしゃいますか? 女将さんに決定権がないのであれば、そのお方に直接頼みに行きます」


「あの……私がシルフィです」

 私は恐る恐る手を挙げる。すると、お客さんの反応は案の定「えっ!?」だった。


「ルシールさん……物って、勝手に売ったりしていいもの? それに私、お金を取るってなんか……あげちゃっても、良いのかな……?」

 どうしていいか分からない私は、ルシールさんに助けを求めた。

 すると、ルシールさんは優しい表情でこう尋ねてきた。


「シルフィちゃんは、お客さんに魔導具をあげることは賛成なんだね? ちなみに、シルフィちゃんはウチの従業員だから、この宿屋の敷地内で商売をすることは出来るんだよ」

「うん。私の作る魔導具でもっとみんなが笑顔になってくれたら良いって、思ってるから……。そっか、この宿屋の中でなら、物を売っても良いんだ」


「だったら、ちゃんと適正価格で売ってあげなさい。魔導ライターは原価もそこまで高くはないだろうし、泊まってくれたオマケで良いかもしれない。だけど、何でもかんでもタダであげてしまっては、逆に混乱を招いてしまって、商人さんたちが困ってしまうんだよ」


「そっか……。キャンドルランタンを売ってる商人さんが、売れなくなって困っちゃうってことか……」

「そう。やっぱりシルフィちゃんは賢い子だ。ローラちゃんやクウガ君みたいな身内は置いておいて、無差別にばらまくのは良くないね」

「うん、分かった。ありがとうルシールさん。えっと、じゃぁ……今からお金の計算をするので、ちょっと待ってもらえますか? そのお金で納得出来たら、すぐに作るので買ってください」

「! ありがとうございます! 待ってます!」

 お客さんはロビーの隅にあるソファにちょんと腰掛けてわくわくしていた。


 私は、適正価格を知るために、客室のベッドシーツをゴシゴシ洗濯中のクウガさんのところへと向かった。


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