15話 安らぎ亭へ恩返し
⸺⸺世界樹のダンジョン、初級の火山洞窟B11F⸺⸺
「マジで魔物寄って来ねぇな……」
「世界樹の祝福の効果なのだ♪」
「うん、だから夢中で素材を集められるよ」
私とクウガさんとファムは、そんなふうにブツブツ会話をしながら火炎草を取りまくっていた。私はこの淡々とした採集活動も大好きだ。地道な作業だけどやってみると結構面白い。
「っつーことは、後々炎の魔石だけじゃなくて他の属性の魔石も欲しくなってくるよな?」
と、クウガさん。
「そうだね……まだレシピブックには炎の魔石を使う魔導具のレシピしか載ってないけど、他の属性の魔石を作るレシピは載っていた。ってことは、1回でも他の属性の魔石を手に入れたら、その魔石を使って出来る魔導具もリストに追加されるんじゃないかって思ってる」
「だよな。なら……またダンジョンの攻略を進めないとだな。B21ᖴからは初級の雪山のフロアになっていて、“氷雪草”が採れる。そしたら氷の魔石が作れるからな」
「うん、またボス討伐お願いしてもいい?」
「もちろんだ、任せとけ!」
「ありがとう!」
バスケットに山盛りの火炎草を集めたところで、私たちは寮の庭へと帰還した。
⸺⸺安らぎ亭、寮の庭⸺⸺
寮の庭に戻ると、ローラさんが洗濯用の作業台の上でメモをたくさん書いていた。
上手な魔導ライターのイラスト付きの、超分かりやすい図解だ。
「えっ、ローラさんめちゃくちゃ絵、上手だね!」
「うわっ、マジじゃん。意外な才能……」
クウガさん、その言い方は……。
「意外は余計よ! クウガの馬鹿!」
ローラさんはベーッと舌を出した。ほらね、怒らせた……。
「うっ、すまん……」
「私、カフェを開く夢があるって言ったでしょ?」
「うん」
「ほら、カフェってさ、看板とか、手描きな事が多いじゃない? だから、私もそういうのが描けるようにならなくちゃって、練習したの。上手って言ってもらえて良かった♪」
「あ、そっか、確かに……カフェの看板ってオシャレだよね。あっ、ローラさんのこの絵がカフェの入り口に飾ってあるの、なんか想像出来るなぁ」
私はオシャレなカフェの入り口にカフェラテの絵の描いてある看板が立っているのを想像した。
「うふふ、ありがと♪ あっ、そうそう、ルシールさんとダグラスさんにはもう言ってあるから。とりあえず宿の個室全室に魔導ライターを取り付けたいって、そう言ったわよ? 2人ともビックリしてたけど、すごい感謝してたわ」
「ありがとう! 良かったぁ……。本当は魔導ランプとかも取り付けたいんだけど、30部屋全部に何個も取り付けるのはちょっと時間かかりそうだから、魔導ランプとかは共用部分から始めようと思ってる」
「うんうん、十分よ♪」
それから私はまずは大量の炎の魔石をクラフトし、そこから30個の魔導ライターをクラフトした。
更に、魔導ランタンもクラフト。必要素材は砂とスチール鉱石と魔石と炎の魔石。魔導ライターは炎の魔石1つで10個分作成出来たけど、魔導ランタンは炎の魔石1つで1つ分だ。
「出来た! 魔導ランタン!」
オイルランタンのような見た目。下の方に付いているボタンを押し込むと、ランタンの中にボッと火が灯った。
「すご……蝋燭を入れなくても、オイルを足さなくても良いのね……」
「俺、これ普通に自分の部屋にほしいんだけど……」
「もちろん! 魔導ランタンだけじゃなくて魔導ランプも作るからちょっと待ってね」
「「ぃやったー♪」」
2人は飛び跳ねて喜んでいた。
私はせっせとクラフトを繰り返し魔導ランタンを15個、魔導ランプは12個、更に魔導シャンデリアというものも2つクラフトした。
ちなみに魔導ランプも魔導シャンデリアもライターと同じ素材で出来る。ただし、魔導ランプは炎の魔石1個で1つ分。魔導シャンデリアは炎の魔石6個で1つ分だ。
ローラさんも30個分の魔導ライターの取扱メモを描き終えてくれたので、まずは寮の自分たちの部屋へ魔導照明の設置に行った。
⸺⸺安らぎ亭、寮、202号室⸺⸺
魔導ランタンは、魔導ランプよりも光源は小さい。しかし、どこにでも簡単に取付けられるというメリットがあり、更にどこにでも持ち運べる。
玄関に1つ、部屋の机の上に1つ、シャワー室に1つ、更にトイレに1つ設置した。
魔導ランプは魔導ランタンよりも光源は大きいけれど、壁に固定をする必要のある“壁掛けタイプ”の物だ。部屋の柱に2つ、更に洗面所に1つ設置してあるキャンドルランプと取り替える形で設置した。
後の2人も同じように設置をしたそうなので、残ったのは魔導ランタン3個に魔導ランプ3個、そして魔導シャンデリア2つだ。これは全部ダグラスさん宅にプレゼントする予定。
木箱の中に残った照明具と魔導ライター30個を入れて、クウガさんに安らぎ亭まで運んでもらった。
⸺⸺安らぎの亭、1階ロビー⸺⸺
「あらあら、これ全部シルフィちゃんの手作りかい? すごいねぇ……! まぁ、こんな大きなシャンデリアまで……こんなものもらってしまって、本当に良いのかい……?」
ルシールさんは興味津々に1つ1つをじっくりと眺めていた。
「これが魔導具という物か……このシャンデリア、ボタン1つで6個のランプに全て火が灯るじゃないか……これは、魔法が使えるものでもずっと生活が楽になるぞ。シルフィちゃんはとんでもない物を発明したんだな」
ダグラスさんはそう言ってシャンデリアの火を点けたり消したりしていた。
「あの、良いんです。ぜひ使ってください。お二人には本当にいつもお世話になっているので、ささやかなお礼です。それから、この魔導ライターもローラさんが取扱メモを書いてくれたので、空いた部屋からメモと一緒に個室に置いてきますね」
「シルフィちゃん、本当にありがとうね。こんな画期的な物を置いてくれたら、きっと冒険者の間で話題になってこれからも満室続きだねぇ」
ルシールさんは両頬を手で抑えてモジモジと照れていた。
翌日から部屋が空くと掃除のついでに蝋燭と魔導ライターを取り替えていった。
全部の部屋の取り替えが終わる頃には、ルシールさんの予想通り「安らぎ亭には魔力がなくても魔法のようなことの出来る“魔導ライター”が置いてある」と話題になり、連日満室が続いたのである。




