ツアーの集合場所でお客様の中に知り合いをたくさん見つけて暗澹たる気分になりました
そして、ついに添乗の日が来てしまった。
今世では初のチーフ添乗員だ。前世では出発する前に交通事故で死んでしまったし……
いきなり生まれて初めてのチーフ添乗で、緊張して昨夜はあまり寝れなかった……はずだ。
気付いたら朝だったからよく判らないけれど……
でも、ツアーの客は友人に元知り合いに私を振った婚約者候補と客を見てもやりにくいことこの上ないんだけど……
まあ、やるしかない!
今日の私の服装は動きやすい侍女の私服といった感じだろうか。エヴァにつきあつてもらって探してきたのだ。青の目の覚めるようなワンピースなのだ。まあ、私の赤髪にも映えるし……目立ちすぎるかとも思ったのだが、添乗員は目立ってなんぼですとか言われたんだけど、本当だろうか?
「リーゼ! 久しぶりじゃない!」
ステファニーが迎えに来てくれた。
「ありがとう。ステファニー、本当に助かったわ。今回はよろしくお願いします」
私はステファニーの御者のメイベルさんにも挨拶する。
「わざわざご丁寧にありがとうございます」
メイベルさんは恐縮していた。でも、今回移動手段が無かったら大変なことになっていた。それにおそらく御者の中でもメイベルさんは一番のベテランのはずだ。御者の束ねの役をお願いすることになる。きちんと挨拶しておくに越したことはないはずだ。
30分前に集合場所の大広場に行くと既に他の馬車とヨハンが来ていた。
「遅いぞ、リーゼ」
シモン部長も来ていたのだ。
「すみません、部長」
私が慌てて馬車を降りて駆け寄ると、
「今日はよろしく頼むぞ」
「はい、頑張ります」
「リーゼさんのフォローは俺がします」
自信満々にヨハンが言ってくれるけれど、
「お前はリーゼの足を引っ張るなよ」
ヨハンはシモン部長に注意されていた。
私は早速、御者と護衛を集めて行程の確認をする。
御者は見た感じ普通の御者だったが、護衛がボサボサ頭の黒髪の男だった。何かとっつきにくそうな男だった。それと若手の冒険者が二人。
「リーゼちゃんか、宜しくね」
ヤンと名乗った男が手を差し出してきた。
「護衛のくせになれなれしいぞ」
さっそくヨハンが噛みついていたけれど、
「まあ、そう言うなって。これでも剣には自信がある」
笑ってヤンは流していた。
そうしているうちに、お客様がやってきた。
「おはようございます。ペーテルさん。今日はよろしくお願いします」
私は歩いてきた大店のご夫婦のペーテルさんに挨拶した。
「おはよう、リーゼさん。今日からよろしくね」
「リーゼちゃんが今回はチーフなんだって、頑張ってよ」
良かった。あなたが添乗員なの?って不安がられなくてほっとしたのだ。
「5号車でよろしくお願いします」
馬車の番号札を渡す。馬車は指定席なのだ。この馬車の席を決めるのも添乗員の大切な仕事だった。ここで間違うと後々大変なのだ。
「まあ、あなたみたいな若いのがチーフ添乗員なの? 本当に大丈夫なの?」
出たー! エーディット・バルーン侯爵令嬢だ。最後までお兄様をセシリアさんと取り合っていた私より3歳上の令嬢だ。王宮の舞踏会で二三回話したことがある。でも、見た目で私だとは判らなかったみたいで、そこはほっとした。
学園では重なっていなかったので、性格はよく知らなかったが、皆の噂によると気の強い我が儘令嬢だそうだ。今回のツアーのネックの一人だ。
「これはエーディット様。若輩者ですがよろしくお願いします。馬車は2号車です」
私は如才なく挨拶したが、ちゃんとしないと判っているわね! という感じで睨まれたんだけど……
「これは、リーゼさん。今日からよろしくお願いしますね」
そこに助け船という感じでモーリスさん等が来てくれた。
「モーリスさん。こちらこそよろしくお願いします」
何かあったら助けてください!
私は目で挨拶したのだ。
「リーゼ嬢、よろしく頼むよ」
その後ろからロンバウトが現れた。
「ロンさん、こちらこそよろしくお願いします。お二人は2号車です」
私が座席番号札を渡した。
「まあ、あなたも一緒なの」
エーディットが見目麗しいロンを見て少し赤くなっていた。えっ、そうなるんだ。私は口うるさいエーディットの面倒をモーリスに見てもらおうとして一緒の馬車にしたのだけれど、ロンバウトに赤くなるとは思っていなかった。まあ確かに見た目だけならロンバウトは良いから。
「おい、俺の座席はどこだ?」
そこに声高にデ・ボック子爵が現れた。
「これはデ・ボック様、いらっしゃいませ。デ・ボック様は2号車です」
私は座席札を渡した。
「それよりもカルラが見えないようだが」
「前日にデ・ボック様の執事様にご連絡させて頂いたのですが、カルラは急病で参加できなくなったのです。私リーゼ・ブラストがご一緒させていただくことになりました」
「なんだって! 俺は聞いていないぞ。俺はカルラが参加するから参加することにしたのに! なんて言うことだ」
何だって! 確かに執事には伝えたのに! 執事が煩いと思って伝えなかったのか、聞いていなかったのかどちらかだ。デ・ボックの性格からしたら後者の可能性が高いけれど……
このまま怒って帰ってくれたらいうことは無い!
「まあまあ、デ・ボック子爵様。リーゼは我が社のこれからを背負って立つ若手なのです。旅慣れたデ・ボック様よりきちんとご指導賜ればこれほど嬉しいことはございません」
そこにシモン部長がさっさと寄って来て、余計な事を言って適当にヨイショしていた。
「そうか、じゃあ、手取り足取り指導してやるか」
ニタリと不気味な笑みを浮かべて、デ・ボック子爵が笑ってくれたのだ。
私は背筋がぞわりとしたけれど、ここは笑顔だ。
「よろしくお願いします」
無理矢理引きつった笑みを浮かべたのだ。
まあ、最悪モーリスがなんとかしてくれるはずだ。そのため同じ馬車にしたのだ。
私を見るモーリスの視線が少し厳しいんだけど……私は目で必死にお願いしたのだ。
モーリスは少し顔をゆがめていたけれど、頷いてくれた。よし、これで了承を取った。後は途中でご機嫌を取れば良いだろう。
私がほっとした時だ。
「ツアーはこちらでよろしくて!」
私はその貴婦人の顔を見て青くなった。
「これはファルハーレン様。このたびは五日間よろしくお願いします」
私は頭を下げたのだ。
「こちらこそよろしくね。リーゼさん」
ファルハーレン伯爵夫人は私にウインクしてくれたのだ。この名前聞いたことがあると思っていたらお菓子のおばちゃんだった。小さい時によく王宮でお菓子をもらっていたのだ。
最悪だ。少し年配の女性だが、私はよく知っていた。昔王宮でよくお菓子をもらっていたのだ。最近は夫の伯爵が亡くなったので、王宮の舞踏会にも参加していなかったから、名前と顔が一致していなかった。
この感じは正体も完全に見破られている。もう最悪だった。変装する前だったから昔の面影も残っているはずだ。それに父に言ったと言うことは旅行社でも、私の姿を見られていたと言うことだ。
でも、その後にそれ以上にショックなことが判明したのだ。
「えーと、ホルテルさんがお母様でお嬢様のお名前はセシリアさん?」
私はその瞬間目を見開いて固まってしまった。
ええええ! セシリア・ホルテルさんって何偽名使っているのよ!
そこに立っていたのはお兄様の婚約者のセシリア・グランドール公爵令嬢だった。
私は一瞬お兄様が私が添乗に行くことを察知して、婚約者をツアーに放り込んできたのかと疑った。
でも、お兄様は確かまた婚約者と喧嘩していたはずだし、そんなに早く仲直りは出来ないだろう。
でも、でも何で、このツアーにいるのよ!
私は知り合いだらけのこのツアーの先行きに早くも暗澹としたものを感じたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
リーゼの初添乗は授業参観される子供の様相になってきました。
客が親の友達、友人、知人、いやらしい目で見る問題客に兄の婚約者と自分を見合いの席で振った男ともう最悪です。
果たして無事にツアーは進むのか?
続きは今夜です。
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