食堂で皇子について愚痴っていたらその皇子がやってきました
私は二度と会いたくないと思っていたロンバウトが迷宮ツアーに参加するのが決まってとてもショックを受けていた。
せっかく満員で断ろうとしたのに、部長が横から出てきて全部手配してくれたのだ。
本当に最悪だった。
ロンバウトの申し込んだ名前はロン・リューケンと本名のロンバウト・ブリューケンを短縮したなんとも短絡的に作られた偽名だった。こんな偽名で申し込みを受けていいのかと思いつつ、元近衞騎士団長が認めているのだから良いのか?
お前の偽名リーゼ・ブラストは良いのかと言われそうだが、私の偽名はブラストの遠縁で平民だと貴族年鑑にも載せているのだ。最近の貴族年鑑も分厚いのになると貴族の次男三男の息子や娘の平民の分も載せているのよ。私の権力を使えば貴族年鑑に偽名を載せるなんてお茶の子さいさいだった。でも、全てをブラストに任せていたので、元々お父様の指示だったのかもしれないんだけど……
「本当に信じられないわ!」
私はお昼休みに一緒に食事に出たヨハン相手に愚痴っていた。
ヨハンはメールロー男爵家の次男で、私と同い年だった。
ということは学園で同学年だったと思うんだけど、私には記憶がなかった。王国の学園は全部で10クラスもあって、私は保護者の過保護のお陰でお貴族クラスのAクラスだった。いつもは貴族も平民も関係なしのクラス分けなのに、私がいるからと過保護なお父様とお兄様が色々と画策してくれた結果、貴族限定のAクラスだった。最も学園に通っている平民の大半は元貴族の次男三男の子供とか、金持ちの大商会の子供とか、文官の子供とかで本当の意味の平民なんてほとんどいなかったのに。
お陰でAクラスは子爵家以上の貴族の子供達しかいなかった。ヨハンはその中で真ん中のEクラスだったそうだ。1学年四百人も居たら、全員の顔と名前なんて覚えられるはずはない。私は地味なブロンドヘアに黒目と変装していたし……
年は同じなんだけど、私は1年生の時からこの旅行社でアルバイトしていたから、ヨハンの先輩になっていた。まあ、元々図々しいから何年も働いている大ベテランだと間違えていたらしいけど。年が同じだと聞いて驚いていた。
「でも、リーゼさん、あんな軽い男と一緒にツアーに行くなんて大丈夫なんですか?」
未だにヨハンはブツブツ言ってくれるけれど、
「仕方がないでしょ。私も嫌だけど、部長命令だから」
私が愚痴ると、
「俺が部長に言って代わってもらいましょうか?」
ヨハンは悪魔のお誘いをしてくれたけれど、チーフ添乗員は私の尊敬するカルラ先輩だ。20代後半の大ベテランで、この会社の花でもある。とてもきれいな先輩なのだ。今回のツアーは煩いデ・ボック子爵もいるし、結構うるさい貴族関係者も多い。特に帝国の皇子まで参加するとなると私が行くしかないだろう。
「ありがとう、ヨハン。でも、今回は私が行くわ」
私は首を振ったのだ。
「はい、お待ちどう。リーゼちゃんはフライ定食だったね」
レストランの女将さんが定食を持って来た。
「ああ、ありがとう。これ、このフライが食べたかったのよ」
私は早速一口パクリと食べたのだ。
「美味しい!」
私は感激した。
揚げたてのフライなんて普通は王宮では食べられない。どうしても毒味の関係で冷めて出てくるので、熱々のフライなんて街でしか食べられなかった。
特に私が働いている旅行社の裏にあるこのレストラン『ザ・フライ』はその名の通り、フライの揚げ方が絶妙だった。
「はい、お兄さんはエビフライ定食ね」
女将さんがヨハンの分を持って来てくれた。
「リーゼちゃんはついに添乗に行くのかい?」
「そうなのよ、女将さん。やっと部長が許してくれて、カルラ先輩のサブだけど、夢に見た添乗だから本当に楽しみなの」
私は女将さんに語ったのだ。そう、今までは本当に楽しみだったんだけど、ロンバウトが一緒だと思うと本当にやる気が無くなったんだけど……
「その割に楽しそうじゃないね」
「ちょっと、嫌な奴が来ることになったのよね」
私が愚痴ると、
「なんとか言う子爵様かい?」
女将さんが聞いてくれたけれど、
「ううん、あの方は今回はカルラ先輩に任せるから問題はないわ」
私が頭を振ると、
「嫌な、ナンパ野郎がいるんですよ。店頭でいきなりリーゼさんをナンパしてきた奴なんです」
「まあ、リーゼちゃんは人気があるからね。そこのお兄さんも気が気でないね」
「俺は別にそんなことは」
女将さんの声にヨハンがぼそぼそと何か呟いていた。
「まあ、あんたも頑張んなよ」
女将さんがそう言ってヨハンの背を叩いていたが、何を頑張るんだろう?
私がそう思った時だ。
「リーゼさんはそんなに人気があるんですか?」
あろうことかそこにモーリスの声が聞こえたのだ。慌ててそちらを見ると、なんとモーラスがロンバウトを伴っていたんだけど、何しているのよ! 帝国の皇子を連れてこんな場末のレストランにやってこないで!
私は心の中で悲鳴を上げたのだった。
「あらっ、モーリスさんじゃ無いの?」
女将さんが声をかけていた。
えっ、モーリスと女将さんって知り合い?
私は驚いた。
「久しぶりね」
「そうだな。引退したからあまりこちらに来る予定がなくてな」
って近衛騎士団の時からここを利用しているみたいだった。
「リーゼちゃん! 向かい相席で良いかい?」
ここは場末の混む食堂で、昼時は相席も当たり前だった。
当たり前だけど、モーリスはまだしもロンバウトは絶対にいやなのに!
「はい」
私は頷くしか出来なかったのだ。
本当に最悪だった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
また皇子の登場にリーゼはどうする?
続きは今夜です。
お楽しみに!
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『悪役令嬢に転生したみたいだけど、王子様には興味ありません。お兄様一筋の私なのに、ヒロインが邪魔してくるんですけど……』https://ncode.syosetu.com/n3871kh/