閑話 王子視点 一番の心配事は妹の婚姻のことでした
私はアウフスタイン・ヒルフェルスムこの国の王子だ。
基本的に次期王だと言われている。
我が国はこの大陸では帝国と並んで国土は広く国民の数も多かった。
まだ王子とはいえ、大量の仕事が私の元には集まってくる。
でも、そんな俺が今一番頭が痛いのは、仕事のことではなくて妹のアンネリーゼに関することだった。
リーゼは皆が驚く真っ赤な髪にエメラルド色の緑眼、初代国王陛下と全く同じ髪色と目の色だった。陛下は次に自分と同じ髪と目を持ったものが王家に現れたら、世界を征服するだろうとか訳の判らない予言を残して亡くなったのだ。
母は生まれたリーゼの姿を見て絶句していた。
俺達は相談して、リーゼには髪と目の色を変えて育てることにしたのだ。
そんな唯一の女兄妹のリーゼは俺にとっても父にとっても可愛くて、俺達は妹を他国にやるなんて事は考えられなかった。
だから、アンネリーゼの最初の婚約者は自国の侯爵令息だった。俺と同い年の男だ。
でも、この男は何をとち狂ったのか、学園にいた平民の女に対して真実の愛に目覚めたとかふざけた事を抜かしてくれたのだ。
俺も父もこの言葉に完全にキレてしまった。
慌てた侯爵に侯爵令息は勘当されていた。
当然の事だ。
俺は侯爵に息子を国外においやり、二度とリーゼの前に姿を現せさせるなと命じたのだ。
次の婚約者はリーゼと同級生の公爵令息だった。この男とは同学年でリーゼはうまくやっていると思ったのだ。しかし、3年生になって隣国マルセル王国から来たエキゾチックな留学生にあっさり落ちてしまったのだ。何でも子供が出来ちゃったらしい。父と俺は当然その男を廃嫡させた。
公爵が泣いて頼むから、辺境の男爵位を継がせてやった。ただし、二度と王都に顔を出すなと厳命させたのだ。マルセル王国との国境の地の男爵領だったから、何か事を起こしてくれたらそのまま攻め殺してしまおうと虎視眈々と暗部に見晴らせているのはリーゼには秘密だ。
ここに来て、俺と父はリーゼを国内に留めておくのは難しいことを悟った。国内にはもうめぼしい候補は残っていなかったし、二回も婚約破棄された形になってしまったリーゼは国内では相手を探すのも大変そうに感じたのだ。
まあ、わがヒルフェルスム王国は大陸屈指の国力を持っており、他国相手になら引く手あまたなはずだ。
そんな中、俺は昔から帝国の第一皇子がリーゼに執心していることは知っていた。
なんでも、たまたま後学のために滞在していた迷宮で迷子になった皇子が、護衛を巻いて迷宮を探検していたリーゼに助けられて、好きになったのだとか。
俺は他国の人間にリーゼを嫁にやるなんて許せなかった。
だから、そのロンバウトがリーゼを王女だと知らない事を良いことに、ロンバウトが探している相手がアンネリーゼ王女だということを黙っていたのだ。
リーゼは迷宮で遊ぶ時は邪魔だからと変装を解いていたらしいから髪色と瞳の色は今と違うのだ。
そして、侯爵、公爵令息と二人も問題行動を起こしてくれて国内ではリーゼの相手を見つけるのが困難になったので、仕方なしに、俺と父はロンバウトをリーゼに会わせることにした。
しかし、わざわざロンバウトの想い人のリーゼに会わせてやったのに、ロンバウトのボケナスはリーゼが迷宮で助けてくれた赤髪の女の子だとは気付かなかったのだ。その上あろうことかリーゼに対して、大人しすぎるとかペチャパイとか大声で側近と話していたそうだ。
これを聞いてしまったリーゼが完全に切れてしまって、ジュースをロンバウトの頭の上からぶっかけたとか。
もっとやれと俺は言いたかった。
ロンバウトが昔迷宮にいた女の子に似ている子を紹介してほしいと頼んでくるからわざわざ本人を紹介してやったのに、こいつは変装しているリーゼがあの時の女の子だとは気付かなかったみたいだ。
本当に馬鹿だ。
でも、変だ。父は皇帝には迷宮の女の子はリーゼに違いないと送っていたはずなのに!
何でも、息子がもう一度会ったら必ず判ると豪語したから皇帝は面白がって黙っていたのだとか……皇帝はいい加減すぎる。
「全然似ていないじゃないか!」
そう叫ぶロンバウトを俺も父も馬鹿めという顔で睨み付けてやった。
そんな、ロンバウトを可哀相に思ったのかモーリスがリーゼが働いている旅行社に連れて行ったというのだ。
何を考えているんだ。面倒な!
学生になった時に、リーゼは何をとち狂ったのか、旅行会社で働きたいと言い張って自分の侍従のブラストに頼み込んだのだ。そして、強引にブラストの友人のやっているネイホフ旅行社でアルバイトを始めた。
本人は父と俺にバレていないつもりになっているが、そんな訳はないだろう!
リーゼがアルバイトに入る日には、モーリスを筆頭に現役引退して暗部勤務になった者や、現役の近衞騎士を変装させて張り込ませたのだ。
リーゼ付きの近衞騎士の負担が増えたのは言うまでもない。
それでなくてもリーゼはすぐに近衞を撒いて逃走するし、大陸で一番大変な近衞騎士隊として有名だったのに、更に大変になってしまった。
絶対にやりたがらない職場ナンバーワンなのに、更に大変になってしまったのだ。
リーゼ本人はいたくこの旅行社の仕事を気に入っているようだが、リーゼ付きの近衞騎士は希望退職者が急増した。それをなんとか1年のローテーションにするからと言い張ってやらせる俺の身にもなってほしかった。
なのに、なのにのだ。
ロンバウトのボケナスがリーゼに余計な事を言ってくれたお陰で、リーゼが「もう私は婚姻ではなくて仕事に生きるわ」と決意して仕事に邁進し始めたのだ。
昔は週末だけのアルバイトだったのに、学園卒業した途端に、フルタイムの仕事に切り替えてくれたのだ。
報告に来たブラストと護衛隊長の顔が白くなっていた。
どうしてくれるのだ。それもこれも全てはロンバウトのせいだった。
「まあまあ、殿下、ロンバウト殿下もリーゼ様のツアーに参加されるとのことですから、お二人の仲に変化が訪れるやも知れません」
引退したモーリスはお手軽に言ってくれるが、
「そんな訳あるか! ちょっと待て! そもそも俺はリーゼが添乗に行くなど聞いておらんぞ!」
それからモーリスになだめられたり、ブラストとその旅行社の社長を呼び出したりと右往左往して、結局リーゼが添乗に出た。
しかし、俺は最後までリーゼがチーフ添乗員だとは知らなかったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
お兄様視点でした。
この下15センチのところにもリンクもありますが、
『悪役令嬢に転生したみたいだけど、王子様には興味ありません。お兄様一筋の私なのに、ヒロインが邪魔してくるんですけど……』
https://ncode.syosetu.com/n3871kh/
後一週間後に第2部開始です。








