帝国の影から逃げ切ったと思ったら次に迷い込んだのは『恐竜の間』で最悪最凶のティラノザウルスに襲いかかられました
「はっ、はっ、はっ、は!」
私はその部屋に入った途端に、倒れ込んでしまった。
さすがの私も呼吸困難になりそうだった。
「さすがにここまでは追いかけてこないだろう」
倒れ込んでいたロンバウトがなんとか息を整えて体を起こした。
「ロン様。何故ロン様は帝国の人間なのに、帝国の影に襲われたんですか?」
私も起き上がって尋ねてみた。
「俺を亡き者にしたいと考える者が帝国内にいるんだろう」
ロンバウトは忌々しそうにそう答えてくれた。
ロンバウトは帝国の第一皇子だ。そして、ロンバウトの母は既に亡くなっているはずだ。
今の皇后はマルセル王国の王女だったアレクサンドラだ。ロンバウトにとって義母だ。
そして現皇帝とその皇后の間には小さい第二皇子がいて、皇帝もアレクサンドラも溺愛しているという噂だった。
帝国は我が王国よりも皇帝の力が強いから、ひょっとしてロンバウトは皇位継承権が危ないのかも。状況に追い詰められている気がした。
だから後ろ盾を得るために大陸では帝国と並ぶ大国である我が国の王女の私に婚約を申し込んできたんだろうか?
でも、それなら、私にあんな失礼な態度とったらいけなかったんじゃないの?
私がロンバウトの立場だったら、こんなツアーなんかに参加なんかせずに、王宮に入り浸って、ただひたすら私のご機嫌を取っているはずだ。
ロンバウトはこんなところにいても良いのか?
私はまじまじとロンバウトを見た。
「何だ? 影に狙われたくらいで俺はびくともしないぞ」
ロンバウトはとんちんかんな答えを宣言してくれたけれど……本当だろうか?
それなら逃げずに倒して欲しかった。現に今どこにいるか既に判らなくなっているし……
それに専制君主の帝国の皇帝に睨まれていたら、本当に皇位継承は難しいと思う。
ひょっとして皇帝は我が国に邪魔になったロンバウトを押しつけようとしたんだろうか?
でも、基本的に我が国はお兄様が継ぐのは既定路線だ。ロンバウトが来ても我が国の王配にはなれない。それに悪巧みが得意なお兄様がバックについたら、ロンバウトを帝位に就けようと暗躍しそうだ。
それは皇帝も知っているだろう。だからそれだったら進んで我が国に追いやるなんてするはずはないのだ。
ということは皇帝はまだロンバウトを跡継ぎにしようとしているが、皇后が色々暗部を使って暗躍しているって感じなんだろうか?
「リーゼ、何を悩んでいるんだ?」
「えっ、どうして、ロン様は帝国の暗部に追われているのかなと思いまして」
私が不思議そうに聞くと
「俺のことを気に入らない者もいるのだろう。それよりも俺の件で君を巻き込んでしまってすまない」
ロンバウトが珍しく謝ってきた。
「まあ、お客様を守るのもツアコンの仕事ですから」
私は当然の事だとロンバウトに答えていた。
「まあ、そんなことよりも、ここはどこなんだ?」
「さあ、本当に適当に逃げてきましたからね。どこかはもう判りませんわ」
私はそう答えながら周囲を見渡した。
周りは真っ暗だった。
一瞬『宇宙の間』かなと思ったが、よく見ると違う。
空は星空だけど、宇宙空間のようにはっきりとは見えない。地上から見ているみたいだ。それに周りの暗がりには、うっそうと生い茂る木々が見えた。
でも、何か植生が変わった気がする。
何か違うのだ。
この感じ、私の心の奥底で胸騒ぎがした。
「ロン様」
私は慌てて立ち上った。
「どうした、リーゼ?」
ロンバウトが私に習って立ち上った時だ。
ドシン!
ドシン!
今度は宇宙船の音ではなくて、大きな足音が聞こえた。
何か、巨大なものがこちらに近付いてくる。
そう言えば昔もこんな事があった気がした。
何だったっけ?
すぐには思い出せない。
でもこれは碌でもない物なのは確実だった。
「リーゼ、これはひょっとして……」
「しーーーー!」
私はロンバウトに音を立てないように注意した。
ドシン!
ドシン!
どんどん音は大きくなってくる。
このまま通り過ぎて見逃して欲しい!
私が心の底で願った時だ。
何故か足音が私達の真横で止まったのだ。
安心しろ。これは映像だ。本物が現れる訳はない。
私は自分に言い聞かせたのだ。
上の枝をかき分けて私達の頭上に巨大な禍々しいものが顔を出したのだ。
「えっ?」
私達は唖然として固まってしまった。
そんな馬鹿な……何故これがいる?
それは巨大肉食獣ティラノザウルスだった。
ギャオーーーーー
ティラノが大声で叫んだのだ。
その瞬間私達の呪縛が解けた。
「逃げるぞ」
私はロンバウトに手を引かれた。
「ロン様、あれは幻ですよ」
私はまだ余裕だった。
それでもロンバウトは来た道に向けて駆け出したのだ。
私はこれはあくまでも幻だと映像に過ぎないと思っていた。
でも次の瞬間だ。
ギャオーーーーー
雄叫びを上げると、ディラノザウルスが画面から飛び出してきたのだ。
それも私達に向かって一目散で。
「キャーーーー」
私は悲鳴を上げると一気に加速した。
ティラノザウルスは時速100キロで走ると言われていた。
でも、私は身体強化して加速すればそれ以上のスピードが出るのだ。
「ちょっと、リーゼ」
「ロン様、急ぎますよ」
今度はロンバウトを引っ張って来た道を帰りだしたのだ。
ティラノザウルスの出現で私達は帝国の影に追いかけられていたのを忘れていた。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
恐竜に追いかけられるリーゼ達。
しかし、来た道には帝国の影が……
前門に帝国の影、後門にティラノザウルス
絶体絶命のピンチです。
続きは明日です
お楽しみに








