客室で友人と話していたら鍵の閉まっていた扉が開いてバスタオルを腰に巻いただけの帝国皇子が現れました
「ご無事で良かったですね」
「本当に皆様にはご心配をおかけしました」
その夜の食事の時に皆を回ったら皆が口々に心配して声をかけてもらえた。
「あなたが、無事で良かったわ。これからは気をつけるのよ」
私の方を見向きもせずにエーディットはそう言ってくれたが、不機嫌そうな物言いにもかかわらず、その目元は少し緩んでいた。添乗員に文句を言ったら壁を突き抜けて墜落死したって話になっていたら、エーディットがいくら侯爵令嬢でも、今後の貴族界での生活に影響が出たと思う。
まあ、私はあれくらいの崖から落ちても大丈夫だけど……小さい頃からお転婆なのでいろいろとやらかしているのだ。
「周りに及ぼす影響を考えて行動せねばなりませんよ」
もっともモーリスからは後で少しお小言を言われたが……
本当にまずい。
添乗員報告書にはきちんと書いたけど、これは完全に叱責一直線だろう。
でも、私は普通に添乗していただけだし、落ちたのはエーディットが迫ってきたからだ。私は何も悪くないのに!
そもそも新人の私ともっと新人のヨハンの二人で添乗に出すのが間違っていたと思うんだけど……
「リーゼさん、大丈夫ですか? あんな崖から落ちて」
「ヨハン、大丈夫よ。ロン様にうまく助けて頂けたし、打ち所も良かったみたいで、全く問題ないから」
心配したヨハンには笑っておいた。
今は護衛と添乗員で明日の打ち合わせだ。護衛と私とヨハンが揃っていた。
「本当に護衛達は何をしていたんだ」
ヨハンが護衛を見て文句を言った。
「おい、小僧、俺達はその時は各班の客の護衛しているんであって、添乗員の護衛はしていないぞ」
ヤンがいきり立って反論してきた。
「何だと、貴様雇い主に対してその口の利き方は何だ」
二人が喧嘩しそうになる。
「ヨハン。護衛のヤンの言う通りよ。彼に過失はないわ」
「それはそうですけれど、その言い方は」
ヨハンがなおも言い募ろうとするが、
「今回、悪かったのは私よ。エーディット様に詰め寄られても下がらなければ良かったんだから。壁があんなに脆くなっていたなんて思ってもいなかったわ」
私はそう言いながら皆を見回した。
「明日の迷宮は本当に気をつけてね。迷宮はどこに余計な仕掛けがあるか判らないから、お客様には絶対に壁とかに触れさせないでね。それは貴方たちもよ。どこに飛ばされるかも判らないんだから」
そう言いつつ、全員に今回行く迷宮の地図を見せる。
「この地図は各自に頂けないんですか?」
ヤンが聞いてきた。
「いる?」
私が聞くと
「前もって予習しておきたいなと」
ヤンが殊勝にも言ってくれた。
「必要ならば写してもらうしかないわ。会社がこの迷宮を管理してる所からもらえたのは1枚だけだから」
私は笑って言った。
「後は土産物屋にこれをデファルメした物は売っていたと思うけれど」
私は参考で教えてあげた。
昔、この迷宮を探検した時に私が作った地図はあるけれど、それは国の極秘事項だから見せる訳にはいかない。
全員と明日の迷宮について事細かに打ち合わせしたのだ。
それが終わったのは夜も遅くなっていた。
「リーゼさん、軽く飲みませんか?」
ヤンが誘ってきたが
「明日の準備があるから私は良いわ。貴方たちもあまり遅くならないようにね」
私は釘を刺すとヤン達と別れて添乗員の部屋に向かう。
帰ると同時にノックの音がしたのだ。
「はい?」
出るとそこにはステファニーが立っていたのだ。
「どうしたの? ステファニー。私、早く寝たいんだけど」
昨日の婚約者の愚痴の続きを聞かされたらたまったものじゃなかった。
「もう、リーゼは冷たいんだから」
そう言うとステファニーは私の氷の視線を無視してさっさと中に入ってくれたのだ。
「今日、ロン様と凄かったじゃない。穴に落ちるリーゼを助ける為にダイブするロン様の姿、私是非とも見たかったわ」
夢見るようにステファニーが言ってくれるんだけど、
「何言っているのよ! 私は危うく死にそうになったのよ。そんな余裕なかったわよ」
私が文句を言うと、
「何言っているのよ。あなた、一度天体観測って言って学園の屋根によじ登って落ちてもびくともしていなかったじゃない。あれっくらいの穴に落ちてもびくともしないでしょ」
さも当たり前のようにステファニーは言ってくれるけれど……
「いくら私でもあの穴は大変だったわよ」
「でも、ロン様が強化魔術か何かで助けてくれたんでしょ」
「それはそうだけど……」
本来は助けてもらう必要は全くなかったのだ。
「二人きりで穴の中で愛を囁いていたんじゃないかって最後の馬車の中で話題になっていたわよ」
興味津々という顔でステファニーが聞いてくれた。
「あなたまた、婦人達の前で余計な事を言ったんじゃないでしょうね」
「私は何も言っていないわよ」
ステファニーは否定してくれるけれど、絶対に嘘だ。
「お客様の一人がとても心配していらしたから、
『リーゼは学園の鉄塔の一番上から滑り落ちてもびくともしていませんでしたから大丈夫です』
って、私が言ったら、
『リーゼさんはお転婆ですものね』
ってファルハーレン伯爵夫人が笑っておっしゃって、皆で頷いていただけよ」
「ちょっと、何なのよ! それは! 普通はあんな高いところから落ちたら死ぬわよ!」
私が文句を言うと、
「だって事実じゃない。死んでいないし!」
「私は女子寮の屋上でしょ」
ステファニーの言い訳に私が反論すると、
「あなたならびくともしないわよね」
「でも、事実じゃないじゃない!」
「ほうら、やっぱり」
私はそれ以上反論できなかった。
「それよりもその後でロン様と馬で2人乗りしていたじゃない! めちゃくちゃ雰囲気良さそうだったわよ」
喜々としてステファニーが言ってくれたけれど、
「あなた、私は乗馬が苦手なの知っているでしょ! 必死に腕に捕まっていただけよ」
私が事実を言うと
「まあ、抱き合っていたの」
「違う! 落ちないように捕まっていたんだって」
私が否定した時だ。
何故か付いていた隣の部屋に繋がる扉がキーと開いたのだ。鍵が閉まっていたはずなのに!
そして、そこに、酒でも飲んだのか赤ら顔になったロンバウトが顔を出したのだ。
それも下着をはいていなくてバスタオルで巻いただけの姿で……
「「えっ?」」
私達は目を剥くと同時に
「キャーーーー」
思わずステファニーが悲鳴を上げてくれたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
どうなるロンバウト?
続きは今夜です。
お楽しみに








