帝国の影視点 第一皇子を迷宮で亡き者にすることにしました
「何だと、失敗したというのか!」
俺は大声で報告に来た影を怒鳴っていた。
折角邪魔な第一皇子を事故に見せて亡き者に出来る機会だったのに!
影は何をしているのだ。
私はこの春に赴任したマルコ・アップカウデ、ブリューケン帝国のヒルフェルスム王国大使館付きの武官だ。帝国ではこのヒルフェルスム王国にいる帝国の影のまとめ役をしていた。
影というのは帝国の諜報や暗殺を司る特殊部隊の総称だ。全ての人員を入れると数百名を超える。
ブリューケン帝国を影から支えるいわば隠密部隊だ。帝国のために影は周辺諸国に多くの者が潜入していた。そして、帝国のために有意義な情報を集め、時に破壊工作を行い、時に暗殺も行った。
そして、今影の最大の仕事は帝国の跡継ぎを第二皇子殿下にすることなのだ。第二皇子殿下の母上アレクサンドル皇后は隣国マルセルの王女だったお方だ。第一皇子殿下の母上は既に亡い。第一王子殿下が幼い頃に毒殺された。その後釜として隣国からやってきたのが、アレクサンドル様だ。
本当か嘘かは俺様も知らされていないが、第一皇子殿下の母にアレクサンドル様が毒を盛ったという噂もあるくらいだ。元々帝国の皇帝の妻に第一皇子の母とアレクサンドル様が争って第一皇子の母の侯爵令嬢が勝って皇后の座についたのが気に入らないから、毒殺したと言われていた。
そして、アレクサンドル様は皇后の地位を使って着々と第二皇子派を増やしているが、いかんせん母国マルセル王国は小さな国だ。まだまだ勢力は小さかった。
なんとか影の長を籠絡して第二皇子派にしたのは良いが、騎士団や多くの文官はまだまだ第一皇子派だった。普通にやっても到底勝てそうに無かった。
そこでこのヒルフェルスム王国に遊学中に第一皇子を亡き者にするように指令が大使館付き武官の俺様に来たのだ。
第一皇子のロンバウトは何を思ったのかこの大切な時にヒルフェルスム王国に遊学していた。もうかれこれ2週間を超える。王国の後ろ盾を得るためにこの大国のヒルフェルスム王国の王女と見合いしたそうだが、失礼なことを言って王女の怒りを買って振られたのだとか。本当にざまあはない。俺様は顔かたちが良くていかにも女どもから人気のありそうな第一皇子のロンバウトが嫌いだった。それに比べれば、陰気で部下達をいびるのに長けた第二皇子の方が余程ましだった。
そんな中、ロンバウトは最近裕福な庶民や下級貴族達の間に流行っているツアーに申し込んだのだ。護衛もほとんどいない中で襲撃するのも容易かろうと俺様はほくそ笑んだ。影の1人からこのツアーの詳細なスケジュールを仕入れたのだ。幸いなことに別のツアーに遅れが出た関係で、同行する従業員に大幅な変更があった。俺はその中に影を1人潜入させることに成功したのだ。
そして、そのツアーのコースの中にスクモ大鍾乳洞があるのが目に止まった。
俺も昔暇な時に行ったことがある所だ。
この中ならば事故を装って殺しても問題はあるまい。俺は鍾乳洞の中の止め板に細工をして推したら落ちるようにしたのだ。そして、影の1人にうまく皇子と接触して突き落とせと指示をしたのだ。そして、それと同時にオオカミ型の魔物を数十匹中に入れさせた。襲撃が失敗した時は魔物に襲わせてツアー客諸共襲撃させようとしたのだ。
しかし、その細工した壁板から、何故か添乗員が落ちてそれをロンバウトが助けようとして落ちたと報告を受けた時はロンバウトが余程馬鹿だったと喜んだのだ。落ちたら普通なら助からないような所なのだ。それを庶民を助けるために飛び込むなど帝国の皇子がするべき事ではない。俺様から見れば飛んで火に入る夏の虫なのだ。
襲撃しようとした影もとっさのことに対応が出来ず、第一皇子か落ちて死んでくれたらいうことはないと思ったそうだ。奴のミスは死んだのを確認しなかった点だ。普通は確認するだろう。本当に愚か者だった。鍾乳洞の地階に魔物を放っておいたので、例え助かっても魔物に殺されるだろうと思ったのだとか……それで失敗しているのだからどうしようもなかった。
他の影の報告によるとロンバウトは迷宮都市に到達したようだ。
本当に忌々しい男だ。どうやって魔物達から逃げ出したのかよく判らなかった。
やむを得まい。明日はいよいよツアーのメインイベント迷宮だ。この迷宮は前文明のものともいわれており、中身はよく判っていなかった。
しかし、潜ませていた我が帝国の影の中に迷宮が好きな者がいてガイドになっていたのだ。これこそ天啓だろう。俺様は影の中で暗殺に長けた者を20名、迷宮に潜伏させたのだ。
これだけの人員を割けばいくら皇子が逃げようとしたところでどうとでもなる。
ロンバウトもこの迷宮で亡くなるのは確実だった。
これで俺様も帝国に帰れば二階級特進だろう。
俺は喜々として迷宮に向かったのだ。








