兄の婚約者を今すぐ帰るわとカンカンに怒らせてしまいました
「そういう訳でアンネリーゼ殿下は今日もお父上である国王陛下と兄上であるアウフスタイン殿下の束縛から逃げておられるという話です」
私が最後の逸話を話し終えたところで丁度、馬車は今日の宿泊地であるタカヤマのタカヤマパレスホテルに着いたのだ。王都にあるパレスホテルの系列で、このタカヤマでも高級ホテルの一つだ。
タカヤマは王都から50キロ西にある街道沿いにある都市で人口も10万を数えた。丁度馬車1日分の距離にあり、結構ホテルの数もあり栄えている街だった。
「皆様、ここまで本当にお疲れ様でした。また、私のつたない話しにここまで付き合って頂いてありがとうございました。馬車は丁度このタカヤマの街でも最高級のホテル、タカヤマパレスホテルに到着しました」
私はそう言って話を終えるとホテルのロビーの待合室に一同を案内する。
そこで客におかけ頂いて、ホテル側の案内を待つ。すぐに支配人がやってきた。
「皆様、本日は当タカヤマパレスホテルをご利用賜り誠にありがとうございます。私支配人のアーモンドです……」
支配人の挨拶が簡単にあって後は部屋割りだ。部屋ごとにベルボーイが付いて案内してくれた。
今回はシングルの部屋割が多いので18ルームだ。
最もシングルとダブルの部屋は基本は同じだ。真ん中に大きなダブルベッドが置かれていて浴槽とトイレが別に付いている。それにお付きの人の部屋が隣に配置されているのが普通だ。お付きの人の部屋は小さくて狭い。今回はそこに馭者と護衛を適当に振り分けたのだ。
今は世間では旅行が密かなブームになっていて、その時代に乗ってネイモフ旅行社も大きくなってきた。
もっとも本来ならば侍女や侍従にかしずかれているはずの帝国の皇太子や公爵令嬢がこのツアーに来るなんて思ってもいなかったけれど。まあ、侯爵令嬢のエーディット嬢はいつも一人で参加できているのだから出来るのだろう。
ホテルに着けば後はホテルの対応に任せれば良いと言われていた。後は夕食までは自由時間だ。
今回の馭者さんや護衛に部屋の鍵を渡す。
「ところでリーゼさんは何号室なんだ?」
若い冒険者のヤンが聞いてきた。
「えっ、私?」
私は部屋の鍵番号を答えようとして
「俺は315号室だ。何かあれば俺に聞いてくれれば良い」
私の代わりにヨハンが少しむっとして答えてくれた。
客には部屋番号は何か問題があっては困るから話さなくて良いとカルラ先輩からは事前に聞いていたけれど、護衛にまで話す必要は無いのだろうか?
「いや、俺はチーフ添乗員の部屋番号が聞きたかっただけで」
なんか気まずそうにヤンが答えていたからこれでいいんだろう。ツアーで護衛と仲良くなる必要は無い。それよりもツアー客と仲良くならないとそれが添乗員の使命だ。そこで人気を得てリピーターになってもらわないと次に添乗なんかに行かせてもらえない。今回もカルラ先輩目当ての客が半数を占めていた。もっとも私のお目付役も少なくとも三人、いや、何故かわからないけれど、帝国の皇子もいれば四人はいるけれど。この高額ツアーで四人も私目当ての客がいれば良いだろう。お目付役だから私は嫌だったけれど……
「じゃあ、取りあえず、荷物を部屋に入れてくるわ」
私はそう言って外に出たところでステファニーに捕まった。
「リーゼ。あなたは私の部屋にいらっしゃいよ」
ステファニーが言い出してくれたが、私は今は添乗中だ。
「そんな自分勝手が出来る訳無いでしょ。私は今仕事中なのよ!」
私はステファニーに首を振った。申し出はありがたいが今は仕事中だ。添乗員が自分勝手なことは出来ないのだ。
「ああ、そうだったわね」
ステファニーは思い出してくれたみたいだ。
「あなたはどこのホテルにしたの?」
私は一応聞いてみた。
「何言っているのよ。当然パレスホテルよ」
「えっ? でも支配人はまともな客室は満員だって言っていたはずじゃ」
私が不思議に思った。
「パレスホテルの支配人はお父様の知り合いだったから、スイートを開けさせたわよ」
胸を張ってステファニーが自慢してきた。
「あなたね。絶対に他の人には言わないでよ。何で一人だけそんないい部屋なんだってクレイムになるから」
私は慌ててステファニーに釘を刺したのだ。
「ええええ! そうなの? 知らなかったわ。私パレスはスィートしか泊まったこと無いから」
まあ、伯爵令嬢ならそうなるだろう。
領地と王都の移動に社交シーズン前に毎年貴族達は大移動するのだが、その時のホテルの数が足りなくなったりして部屋の取り合いが結構大変になるって聞いたけれど、まあ、伯爵令嬢にはそんな話は関係無いんだろう。この国には公爵家と侯爵家は全部で9つしか無くて、多くは王都から一日で移動できるところにある。伯爵家は50家だが、レイク伯爵家はその中では格上だ。他の伯爵家もレイク家に逆らう伯爵家は無いのだろう。
でも、このツアーの参加者のファルハーレン伯爵はおそらくレイク伯爵より上だし、公爵家の令嬢のセシリアや元侯爵家当主のモーリス、果ては帝国の第一皇子までいるのだ。なのに、セシリアがスイートなんて使っていたら顰蹙ものだ。
それにホテルのスイートは下手したら金貨100枚くらいかかったはずだ。
「でも、王女殿下のあなたが、従業員部屋なんて泊まれるの?」
「しーーーー。それは秘密よ。私はブラスト子爵の遠縁の平民の娘なんだから」
私はステファニーに口止めしていた。
「そうなんだ。でも、王宮の秘密あんなにペラペラ話してしまって良かったの?」
そう言われて、私ははたと固まってしまった。
確かに、余計な事を言い過ぎたかもしれない。つい初添乗でいきなり復習していないところをガイドしなければいけなくなって、テンパってしまって結構お父様やお兄様の民間人の知らないことを話してしまった。
今、私はブラストの遠縁という設定だったから、私専属の侍従のブラストがペラペラ王宮の秘密をばらしているって事になったかもしれない。
それはまずい!
「ちょっとステファニー、そういう事は早く注意してよね」
私が文句を言うと
「だってあなた調子に乗って私が口出せないほどペラペラ話していたじゃ無い。それにファルハーレン伯爵夫人も笑っていたから良いかなと思ったんだけど」
あのファルハーレン伯爵夫人には私からまずいことを話し出したら注意していただくようにお話ししておこう。
私が反省した時だ。
「リーゼさん、大変です。セシリア様がカンカンに怒っていてもうここから帰るっておやっていらっしゃるんですけど」
慌ててヨハンが駆けて来て報告してきたのだ。
やばい、やはり言い過ぎたか?
婚約者候補のセシリアのことは何も話さなかったはずだけど、考えたらホテルに到着した時からセシリアは機嫌が悪そうだった。
私は真っ青になってしまった。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
果たしてセシリアは許してくれるのか?
続きは今夜です。
お楽しみに








