第8話 鍵を試す者
霧が一段と濃くなっていった。
目の前の木々が白くかすみ、数メートル先も見えない。
「…静かすぎる」
カイが立ち止まり、剣の柄に手をかける。
「何か、来る」
新も呼吸を止める。
空気が張り詰め、鼓動が耳に響く。
そのとき、突風が吹いた。霧を裂くような風。
そして…
「ようこそ、旅人たち。こんな場所にくるとは、物好きだな」
声が上から降ってきた。
見上げると、1本の木の上に人影があった。
フードを深く被り、漆黒のローブをまとったその姿は、まるで影のようだった。
「お前は…?」
カイが剣を抜く。
すると、その男はふわりと宙に降りてきた。
足が地面に触れても音がしない。
まるで重力でさえ拒むようだった。
「名乗るほどの者ではないさ。"ただの案内人"と
言いたいところだが、あいにく今日は"試す側"の
役目でね」
その手に細長い杖が現れる。
次の瞬間、足元から黒い炎が広がった。
「逃げろ、新!」
カイが叫んだが、もう遅かった。
炎は地面を這うように伸び、ふたりを包もうとする。
「待ってくれ…!俺たちは薬を探しているだけだ!」
「ならば、それに見合う覚悟を見せてもらおう」
男の目が光る。まるで全てを見透かすような、
冷たい眼差しだった。
黒い炎が目の前まで迫ったその瞬間だった。
カイが剣を振り抜き、爆風のように霧を切り裂いた。
一瞬の隙に、新は転げるように避ける。
だが、霧の奥に再び人影は消えていた。
ただひとことを残して…
「"鍵"を手にする資格があるか、見せてもらおうよ。佐藤新。」
自分の名前を知られていた。
新は立ち上がり、黒く焦げた地面を見つめた。
心臓が、早鐘のように鳴っている。
この旅は、ただの探索じゃない。
「…カイ、あの人、何者?」
「知らねぇ。でも、一番厄介な相手になるかもな」
霧の奥から、不気味な笑い声が聞こえた。
そして、新たな決意が芽生えた。
この旅には、命を賭ける理由がある。
だから…絶対に負けられない。
(#9に続く)