第6話 剣の気配
霧の奥から、鋭い気配を感じた。
新はとっさに身をかがめる。
その瞬間、頭上をなにかが切り裂いた。
「…危なかったな。あと数センチで、首が飛んでたぞ」
その声は低く、落ち着いていて、それでいて鋭かった。霧の中から姿を現したのは、銀髪の青年だった。
黒いロングコートに、腰には長剣。
整った顔立ちの中に、何かを見透かすような目をしていた。
「誰…ですか?」
新は慎重に聞く。体勢を崩したまま、相手の剣先を
見つめる。
「俺はカイ。…お前、なんでこんな場所にいる?
この森は、冗談でも入っていい場所じゃない。」
「僕は、伝説の薬を探しています。
病気の友達を救うために。」
「薬…?まさか、"あれ"のことか」
新は小さくうなずく。それを見たカイは、しばらく
無言のまま新を見つめていた。
だが、次の瞬間、剣を納めた。
「生き残る覚悟があるなら、ついてこい。この森、
霧と獣だけじゃない。人の欲と嘘が、もっと厄介だ。」
「え…?一緒に来てくれるんですか?」
「お前が足を引っ張らなきゃな」
カイはわずかに笑った。それはほんの一瞬だけ見せた、人間らしい顔だった。
新はカイの背中を見つめながら、1歩ずつ霧の奥へ進んだ。頼れるかどうかはまだわからない。
ただひとつだけ確かなのは、この森には、新ひとりでは、越えられない危険が待っているということを。
(第1章・完)