第4話 旅立ちの朝
まだ夜が明けきらない街を、新はひとりで歩いていた。背負ったバッグの中には、地図帳と必要最低限の食料や道具、そして流那の写真が入っている。
「絶対に、帰ってくる。薬を手に入れて…流那を助ける」そう自分に言い聞かせた。
駅のホームに着いたとき、冷たい風がコートのすそを揺らした。空はうっすらと白み始め、まるで新の
旅立ちを待つかのようだった。
電車が来るまでの数分間。
新はスマートフォンを取り出し、流那の写真を見つめる。
あの笑顔。あの何気ない日常。それが、もう
戻らないかもしれない現実に、胸が締めつけられる。
でも、立ち止まるわけにはいかない。
「霧のジャングル…そこに行けば、すべてが変わる」
電車がゆっくりホームに入ってきた。
扉が開く音が、ひとつの区切りをつける。
足を乗せた瞬間、世界が少し変わったような気がした。車窓の向こうに見える景色は、どこかよそよそしく、まるで別の世界に続いているようだった。
やがて、最初の目的地に着いた。
ここで、霧のジャングルに続く村へ向かう路線に
乗り換える。地図に示された場所は、地球上の地図
には存在しない"境界の森"の奥。
列車がトンネルに入る直前、新は一度だけ振り返った。遠ざかる街。流那のいる病院。
すべてが過去になっていく。
これからは、自分の覚悟だけが道しるべだ。
「行ってきます…流那」
誰に聞かせるわけでもなく、小さくつぶやいた。
新の旅が、ようやく始まった。
(#5に続く)