表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

 ”「それってどういうこと?」

 私の問いに、彼は答えた。

「僕は数千年前に生まれて、それからずっと、老いることもなく、死ぬこともなく生き続けている」

 それから語られた彼の過去は、想像を絶するものだった。貴族として生まれた彼は、成人を迎えるまでは、ごく普通に恵まれた暮らしをしていた。友好関係にあった家門同士の結婚で妻を迎え、ごくごくありふれた貴族としての一生を過ごすはずだった。

 ところが、結婚して数年が経ち、期待された跡取りは、すべて流産や、生まれてすぐに命を落としたりと、不幸な最期を迎えた。何かの呪いでもあるのではないかと囁かれ始めた頃、周囲がもうひとつ、気づいたことがあった。それは、彼が全く年を取っていないように見えるということだった。結婚したとき、幼い少女だった妻は、年相応な女性へと成長していったというのに、彼はと言えば、全く年を取らず、それどころか病気らしい病気もしなければ、どんなにひどい怪我をしても数日で治ってしまう。彼は魔物なのでは、という噂があっという間に広がっていった。繰り返し子どもを失い、だんだんと精神を病んでいった妻は、自分が老いていくのに、いつまでも老いることのない彼を忌み嫌い、行き場のない悲しみと絶望で自ら命を絶った。

 愛する妻を失い、家族も次々と先に逝ってしまう。ひとり残された彼は、人々から恐れられ、故郷を捨て、放浪し続けた。

 そしてある日、行き倒れていた男を助け、それが縁で侯爵家の養子になり、この森に住み着いたのだった。”


 ”呪いなんてあるはずない。医学で真相を突き止めることはできないだろうか。

 何かの突然変異で起きた遺伝子の異常かもしれないし、そのメカニズムを調べたら、人類の夢である不老不死が叶うかもしれない。

 彼に協力してもらって研究してみてはどうだろうか。”


 ”彼は数千年を生きてきて、子どもを持ったことがないという。最初の妻と同じように、幾度か関係を持った女性との間に生まれた子どもたちも、性別にかかわらず育つことはなかったという。それは遺伝子の問題なのだろうか。だが、もし、彼の遺伝子を継ぐ子どもが生まれたら、その子どもも不老不死になるのだろうか。

 私の研究者としての好奇心と、遠い昔に抱いていた彼に対する想いが膨らみ、私は彼の子どもを産みたいと思い始めた。”


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ