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”人が永遠の命を得ることは、幸せなのだろうか。昔から、永遠の若さと命を持つ、ヴァンパイアの物語のように、人はその存在を畏れながらも、憧れを持ち続けている。
老いていくこと、そしていずれ来る死を、恐れる気持ちと比例して、その憧れは大きくなっていくのかもしれない。
かくいう私も、彼に出会うまでは、そう思ってきた。いつまでも若くありたい、そして、願わくば永遠の命を、と。
はじめて彼にあったとき、彼は私をエレン、と呼んだ。その瞬間の彼の瞳は、喜びと戸惑いと、希望と、愛情に満ちていた。けれど、私がエレンではなく、エレンの子孫であることを知ると、その瞳は深い絶望と悲しみをたたえた。
私はエレンには会ったことがない。遠い昔、何百年か前の先祖で、屋敷にその肖像画が飾られていたから知っていただけだ。
彼がそんなエレンを知っているというのは、どうしてだろう。
けれど、彼はなかなかそれについて教えてくれなかった。
何度か彼に会いに行ったけれど、彼は私の中にエレンを見ていた。私に向けられる優しさは、すべてエレンに向けたものだった。
だから、あの日、告白して、断られたとき、私は、とても傷ついて、けれど、これでよかったんだ、と思ったのだ。そう思うようにした、というほうが正しいかもしれない。
だから、医師として働き、お父様の勧めるリチャードと結婚をして、メアリーの母となり、平凡だが幸せに暮らしていた。
彼と再会して、私は、あまりのことに驚きを隠せなかった。
だって、彼は、あの日別れたその時のままの姿で現れたのだから。”
”あの頃は私より年上で、大人だと思っていた彼に、私が追いついた、とでもいうべきだろうか。まるで彼の周りだけ時が止まってしまったかのようだった。
私の戸惑いを察したかのように、彼は深いため息をついた。そして、彼の口から信じられない言葉が聞かれたのだった。
そう、彼は不老不死であると。もう数千年を生きてきたと。”