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一部残酷な表現があります。

 研究所に戻るために荷造りをしていた私のもとに、メイソンがやってきた。メイソンは電子制御されたロボットではあったが、人間の感情を学び、限りなく人間の感情を再現することができる。そんなメイソンが、まさに慌ててやってきたのだからただごとではない。

「ミス・キリシマ、大変です。急いで屋敷に来ていただけませんか」

 ただならぬ様子に、私は訝しみながらも、急いでメイソンとともに、トレム庭園へ向かった。

 果たして、そこには、信じられない光景が繰り広げられていた。

「え…いったい、何が…?」

 私は真っ赤に彩られた庭園を見て驚いた。無残に毟られたバラの花びらが庭中に散乱し、その中央には、手を血だらけにして佇むエレンがいた。

「エレン…いったい何があったの?これはいったいどういう…」

 私が混乱していると、エレンがゆっくりと振り返った。

「エステル、あなたの真似をしてみたの。小鳥を捕まえたから」

 エレンは私のほうに手を差し出した。彼女の手には血だらけの小鳥が握られていた。

「私もあなたみたいに永遠の命を作り出そうと思ったの。この子、かわいかったから」

 無邪気に微笑みながらこちらを見る目は狂気に満ちていた。私は思わず後ずさりした。

「あなたがいつもやっていたようにやってみたつもりなんだけど、この子、どうしたのかしら、動かなくなっちゃったの」

 ゆっくりと近づいてくるエレンに恐怖を覚え、私は尻もちをついてしまった。

「エステル、私いつもあなたがしていることを見てきたのよ。あの薄暗い青い光の中で、水に浮かびながら」

 エレンは尻もちをついたまま動けずにいる私の前に来ると、しゃがんで顔を近づけた。

「あなたはとても楽しそうだったわ。たくさんの生き物を殺して、生まれ変わらせて、また殺して、何人ものわたしを生み出して、殺して、生み出して」

「エレ…ン…あなた一体何を言ってるの?」

「私がなにも知らないとでも思ってたの?あなたは『アイオンのため』ってきれいごとを並べてきたけれど、そんなの偽善でしかなかったのよ」

 エレンは私の耳元で執拗に囁く。何が起きているのか、理解する間もないまま、突如向けられた悪意に私は身動きが取れなくなってた。

「エレン!やめるんだ!」

 それまでどこにいたのか、突然アイオンが現れた。

「アイオン、この子、動かなくなっちゃったの。エステルのやっていたようにやったはずなのに」

 エレンはアイオンのほうに向きなおり、手の中で息絶えた血だらけの小鳥を差し出した。それを一目見たアイオンは、目を見開いて、口元を抑えた。

「アイオン、エステルは悪い子だわ。お仕置きをしなくちゃ」

 エレンは手にした小鳥を握りしめると、私のほうに向きなおってにっこりと笑った。

「エステル、あなたはソフィアと何も変わらないわ」

「エレン!やめるんだ!」

 アイオンが制止しようとするのも振り切り、エレンはなおも続ける。

「あなたはアイオンを救ったつもりかもしれないけれど、そんなの幻想なのよ。あなたの都合のいい想像でしかないのよ。だって、アイオンは私のことを愛してなんかいないんだから!」

 エレンはわたしを睨みつけながら絞り出すように言った。

「あなたは言ったわ!私にとってとても大切な人が待っているって。温かな水の中から外に出て、初めて息を吸ったときの苦しさも、自分を待つ人がいるということの希望が忘れさせてくれた。あなたから与えられた記憶は私にバラ色の未来しか見せてくれなかったわ。でもそれはあなたの想い描いた空想の世界でしかなかったのよ!」

「もうやめてくれ!」

 アイオンが叫ぶと同時にエレンは手にしていたハサミを自分の喉に突き刺した。

「エステル…これが…お仕置き…よ」

 血しぶきが顔にかかり、エレンが覆いかぶさるように倒れてくる。

「エレ…ン…」

「ニアの…メモリ…を見て…。これが…わた…しの…おしおき」

 エレンの血が私を染めていく。だんだんと冷たくなって、重さを増していくエレンの体を抱きとめながら私の意識は遠のいていった。

 どこで、なにを、間違えてしまったのだろう。

 アイオン、私は、いったい…。



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