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1週間延長した休暇はあっという間に過ぎていった。満開だった桜もすでに散ってしまい、樹々は緑になっていた。淡いピンクの世界は夢の中のようだったが、新緑の季節の訪れは、まるで夢から覚めた感覚にも似ていた。
エレンは想像以上にすぐ環境になじんで、体調も何の問題もなかった。最初は何らかの異常事態に備え、近くで様子を見ようと思っていたのだが、メイソンもいたし、その必要も感じなかった。アイオンも、すぐにエレンの存在を受け入れて、まるで彼の周りの止まっていた時が流れ始めたかのような光景に、私は自分がそこから爪弾きにされたような感じがした。もう彼にとって必要なくなったのだと思った。
それは私が望んだ未来の形だった。祖母の遺した日記を見て抱いた罪悪感から解放されたいと思ったのがきっかけだったが、いつしかアイオンを幸せにしたいと思うようになっていた。アイオンにとっての本当の幸せとは何なのだろう。永遠に生き続けることで味わう孤独は私たちには想像もできない。私たちは不老不死を願い、それを叶えるべく研究を続けてきたけれど、それは果たして本当に幸せなことなのだろうか。愛する人とともに永遠を生きていく。終わりのない愛の世界は、どんなものだろう。
元来、命は限りがあるから儚くも美しいものだった。それが科学の発達によって、その寿命が延び、さらには体中メンテナンスをするだけで理論的には永久に生き続けることができるようになってしまった。それは生物として正しいことなのだろうか。アイオンの存在がなければ、私自身は不老不死を願うことはなかっただろう。すでに400年近く生き続けてきたが、もし、仕事を引退したとしたら、そこから先は何を支えに生きていけばよいのだろう。
研究に明け暮れ、休暇はアイオンと時の止まった森の中で穏やかに過ごす。それが私の半生だった。様々な思い出がよみがえってくる。アイオンとの日々は私にとって夢の世界そのもので、私の人生そのものだった。
エレンの様子を見るに、私の研究は完成したと言える。ついに「エレンプロジェクト」は完成したのだ。戻ったらニアがまとめてくれた報告書とともに、論文を発表しなければ。世界中から反響があるだろう。まだまだ引退する日は遠くなりそうだ。
だが、休暇があと1日というところで思いもかけない事件が起きた。




