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 穏やかな日々はゆっくりと、そして瞬く間に過ぎていく。この閉ざされた場所で過ごす時間は、永遠にふさわしい。庭園のあちらこちらで、桜の花が示し合わせたように咲き始めると、辺りは薄っすらとピンク色の霞がかかったようになった。しかしながら、この桜たちも寿命を迎え何度も代替わりしてきたものばかりだ。

 あと数日で戻らなればならないと言うときに、ニアから緊急事態を知らせる連絡が入った。

「どうしたの?」

「試験体が目覚めました」

「え?」

 ニアから送られてきた映像を見て、私は息を呑んだ。カプセルの中、少女は水に漂いながらこちらを見ている。金色に輝く髪、淡いブルーの瞳、紛れもない、肖像画に描かれていた少女そのもの。

「エレン、おはよう」

 私の呼び掛けに、少女は瞬きをする。

「ニア、事前に指示してあった手順通り、彼女を外界に」

「了解しました」

 私はモニタごしに手際よく作業を行うニアを見守りながら、興奮していた。ついにこの日が来たのだ。エレンプロジェクト、それは私の遺伝子をもとに、エレンを再びこの世に送り出すことだった。

 国家プロジェクトとして、この研究の企画を提案したとき、総合ディレクターを務めていたのは、トーマス・エスキース教授だった。エスキース教授は不老不死そのものよりも、記憶の抽出に興味を持ち、私の研究を後押ししてくれた。

 そうして始まったプロジェクトだったが、私の細胞からエレンを生み出すのは容易ではなかった。いくら遺伝子情報を抽出しても、うまく育てることができず、成長したとしても、記憶を持たないエレンは、ただの人形に過ぎなかった。私が望んだのは、ロボットやアンドロイドではない。クローンでもなく、あくまでも今は亡きエレンという生命体をもう一度この世に生み出すことだった。遺伝子と記憶の関係について研究を続け、ようやく少しずつ成果を上げることができた。小さな細胞から生まれた少女は、人口羊水の中で育てられ、記憶を徐々に植え付けられた。美しく成長していく様は、まるで植物を育てるのにも似て、私はエレンが目覚めるのを待ちかねていた。

 ニアによって、カプセルの中の溶液から目覚めて、肺呼吸を始めたエレンの頬は、瞬時にバラ色に輝いた。ほんの少し苦痛に顔をゆがめたものの、ゆっくりと立ち上がり、こちらを向いた顔はうっすら微笑んでいた。

「エレン、気分はどう?」

 私が尋ねると、エレンは少し首を傾げ、考えるようなしぐさを見せていった。

「少し眠いわ。水の中と違って、とても体が重くて息をするのが少し苦しいわ」

 言語についても、インプットしておいたので会話も可能なのだ。

「直に慣れると思うわ。ほんの少しの辛抱よ。それより、あなたに会わせたい人がいるの。これから迎えに行くから、ニアに準備をしてもらって待っていてくれる?」

 エレンは、小さく笑うと言った。

「わかったわ。とても大切な人にやっと会えるのね」


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