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 庭園のベンチに腰掛け、メイソンの用意してくれた紅茶を味わいながら、私はこの300年を振り返っていた。私のような一般的な人間にとって、アイオンのように自分の体そのものが永久に再生し生き続けることはいまだに叶わないままだったが、様々な技術によって、それと同等の生命維持が叶うようにはなっていた。今では300年生きることは普通で、老化も食い止められるようになっているから、人々は自分の好きな年代の姿で生きながらえることが可能となっている。とはいえ、体のパーツ交換は安価なものもあったが、やはり機能が劣っていたり、メンテナンス保証期間が短かったりと、十分なサービスを受けるためには高額な費用が必要なため、ある程度資産がなければ永久に生き続けることは難しかった。また、不老不死を手に入れても、ある程度の年齢を生きると、人は無気力になり、自らの命に終止符を打ちたくなるようで、300年くらいが一区切りの年数になるようだった。

「今回はゆっくり過ごせるのかい?」

 優しく私を見つめ、アイオンが尋ねた。

「1週間はいられるはずよ。この季節はここで過ごすと決めているから必死で仕事を片付けてきたの」

 私はもうずっと、桜が見頃なこの時期をアイオンとともに過ごすことにしている。都市部から離れた、世界から隔絶されたこの場所で時を忘れて過ごす穏やかな時間が私は好きだった。

「ここに来るとホッとするわ。何も変わらない風景とあなたの笑顔を見るだけで、とても安心するの」

 私が言うと、アイオンは優しく微笑んだ。

「変わらないってことは、大切なことなのかもしれないわね」

 そよ風が吹き、アイオンの銀色の髪が揺れる。相変わらず美しいと思う。

「私も早くここで暮らせるようになりたいわ。仕事を引退したらここで暮らすのが夢なの」

「仕事を引退する予定なんてあるのかい?」

 アイオンは少しからかうように言った。

「ええ。実際のところ、もう私の研究はほぼ終わっているの。今取り組んでいる試験がうまくいけば、あなたにもいい知らせを持ってこられるわ」

 私は研究所のカプセルに眠る少女を思い浮かべた。彼女こそ、このプロジェクトの結晶ともいえる。アイオンには私が何を研究しているのか、具体的な話をしていなかったが、私の研究はアイオンの孤独を救いたい、という一心で始まったものだった。

「エレンに会いたい」

 その一言を叶えるためだけに年月を費やしてきた。成果がなかなか現れず、何度もくじけそうになり、これを最後にしよう、と決めて取り組んだ試験がうまくいき、ようやく形になったのがほんの20年前のことだった。

「ねえ、アイオン」

 私はアイオンの目を見つめながら問いかけた。

「もしも、今、エレンに会えるとしたら、嬉しい?」

 アイオンは、ちょっと驚いたように目を見張った。

「どうだろう。嬉しいかな。わからないな」

 整った顔が一瞬曇ったように見えた。

「少し涼しいね。部屋に入ろうか」

 アイオンはそういうと私の手を取った。変わらないことは大切かもしれないと言ったその舌の根も乾かぬうちに、私はまるで反対のことを考えていたのに、その時は気づいていなかった。


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